# 0 中年冒険者は、追放されたい
新作という名のリハビリです笑
こんな作品を読みたいと思って好きに書いていく所存です。
やる気が続く限り更新していきますが、現状ストーリーは本当に考えてませんのでグダグダな展開になったり一話一話が極端に短かったり、誤字脱字(他作品もですが笑)が多かったりしますが、気に入って下さればこれに勝る喜びはありません<(_ _)>
とあるファンタジーよろしく城塞都市。その中心部の近くに居を構えるは、これまた解り易い頼もしき冒険者ギルドである。
そんな剣と魔法しか勝たん!と言いたげな世界の冒険者ギルドの大広間。その依頼を受注したり雑多な依頼が張り出される掲示板と隣接して当然の如く存在するギルド直営の食事処兼酒場。
当り前のようにむくつけき男共…多くの冒険者達が入り浸っている。
ただ、昨今は女性の社会進出とも言えようか。男尊女卑が大手を振ってまかり通る世の中において、稀に冒険者としての才覚を持つ女性が徐々に増えたことで、多少はこのむさくるしい場の片隅に爽やかな空気が漂っている。
…そんな気がするだけなのかもしれないのだが、確実に女に飢えている野郎冒険者の目の保養にはなっているだろう。
まあ、実際相手もそれなりに腕の立つ冒険者なわけだからして、迂闊にも手を出そうとすれば手酷い反撃に遭う上にその後の社会的制裁も待っているのだが。
そこんとこは現実世界の我らの境遇と甘んじて同様であるのは、まあ実にしみじみと世知辛いのだが。
と、そんな折にこんな場とは遥かに縁遠い若い女達の黄色い声が上がった。
それはギルドの二階。ギルドマスター達の居室へと続く階からゆっくりと階段を降りてやってきた人物が原因である。その人物がキャアキャアと声を弾ませる未だ冒険者としては日が浅い女冒険者達に気付くと、その中性的な美しい貌に蠱惑的な笑みを浮かべて手を振ってやった。再度上がる声はもはや悲鳴じみたものになっていた。
悠然とその人物が煌びやかなマントをたなびかせながら酒場の中に歩を進める。
そんな光景を見れば嫌でも悪態をついてしまう男冒険者の姿がチラホラ見られるのだが、それでも直に非難めいた言葉を出す者はこの場には居ない。
それも当然。
その者は“S級”冒険者。冒険者の階位での最高位の等級としてギルドの長達より認められた剛の者。
そんな人物に喧嘩を売るなど自殺行為である。無論、揶揄ではなく実力上でも叶わないだろう。特に遠巻きに女達の視線を独占していることに対してみっともない嫉妬を抱くC級やB級などの低位冒険者などではそもそも勝負にすらないのは誰でも知っていることだ。
そんな誰もが目を奪われる人物が、お決まりのテーブルまで歩み寄ると遠慮なく椅子を引いて腰を落とした。
「やあ! 待たせたね」
「…ん」
「いえいえ、大丈夫ですよ?」
「あア?」
中央のテーブルには既に別の人物達の姿があった。
一人は濡れたような黒色の髪をボブで切り揃えた顔半分をベールで隠した斥候の少女だった。新たに席に着いた者からの言葉に言葉少なに、いやかなりの口下手振りで頷き返す。彼女もまたS級冒険者であり、噂では盗賊ギルドの秘伝の業を数年で極めたとされている凄腕である。その未だあどけなさが抜けきらない顔半分と軽装の隙間から覗く浅黒い肌、それと黒髪と黒目を持つことから鑑みて特徴的なこのマロニー西大陸の南方の出身ではないかと推察されていた。
もう一人はその斥候の少女の隣の席から問い掛けて来た人物に対して遠慮がちに応えた人物。砂糖菓子の如き淡いピンク色にフワフワとした癖っ毛の髪を持った可憐な少女だ。彼女も同じくS級冒険者。だが、彼女だけは純粋に冒険者としてだけではなく、この城塞都市の寺院に仕える神官(当人は未だに見習いと言い張るが…)でもある。その為、冒険者としての活動はあくまでも修行の一環であり、冒険者として社会に貢献し、なおかつ困った民衆に手を差し伸べ救済するというスタンスをとっていた。
最後にまた一人。問い掛けに明け透けな敵意を持って返した者の出で立ちは同じく女性であるものの、先の二名とはかなり雰囲気からして違っていた。身の丈は軽く2メートル近い巨躯であり腹筋は見事にシックスパックがこれでもかと存在感を周囲にアピっている。身体中には細かな大小無数の傷に左肩に仄かに赤く光る四本の爪痕のような模様が入っている。それに何と言っても目立つのは腰よりも低くまで伸びた針金のような赤い長髪の上に乗っかっている冠…否、自身で仕留めた魔獣の頭蓋骨であろう。彼女はこの中央と北方の境に少数存在する戦闘部族、いわゆる一部の文明から切り離されている存在。人々からは国を持たない蛮族などと呼ばれ畏れられるこの場では一番の異色の女戦士であった。
だが、不機嫌そうにカリコリと先に手を付けていた肉料理の骨を獰猛な自身の歯で持て遊んでいた女戦士の態度に対してにこやかな表情を維持していた人物の眉がピクリと吊り上がる。
「「…………」」
何故かその一瞬で周囲のざわめきが急に静かになる。
おっと、隣のテーブルの者が静かに料理の小皿とエールの注がれたジョッキを手にして席を静かに立ち始めたようだ。
「随分と機嫌が悪いようじゃないか? それに、相変わらずマナーがなってない。ハア、流石は先生に命からがらあんな北方境の辺境で拾われた蛮族の姫だな。先生から手ずから教わった礼儀もまるで役に立ってないね。頭が悪過ぎるよ」
「……うるせエ」
ビシッ!
その場の空気が一瞬で凍り付いてひび割れたような幻聴をその場の全員が耳にしたことであろう。
さらに向こう側の近いテーブルに居た者達が避難を開始する。というか、既にこの場は圧倒的な殺意によって沈黙に支配されている。
「…前から何度も、いや幾千と言っているんだが…君。いい加減、パーティの年長者に対する言葉遣いを学び給えよ」
「はア? 年長者ならオッサンだロ? それに俺様はお前なんてこの群れの頭だと認めたことはナイ。…オッサンが俺様に頼み込んだからその場その場で黙っていてやるだけダ。わかったカ? この団子野郎…」
「……っ!!」
女戦士が口に入れていた骨を自慢の八重歯で嚙み砕く。その一瞬の出来事だった。
それぞれ自身の得物に手を掛けた二人がテーブルを挟んで戦闘態勢で対峙する。
もはや未だにその挟まれたテーブルに着席したまま無表情とやや困った顔で二人を交互に見る2名の女冒険者を覗いてこの場に居る者の殆どが顔を青くして戦慄していた。
自身の背丈ほどもある金棒を腕一本でたずさえる女戦士もまた疑いようも無くS級冒険者である。しかも最高位であるS級すら超える大陸屈指の存在である“超級”にまで足を踏みいれていると評される者同士の睨み合いなのだ。もはやこの酒場は血の雨が降る惨劇の場所に成り変わろうとしていた。
そんな矢先である。
「――邪魔するぜ」
ギルドの正面ラウンジと酒場を仕切る開き戸を鳴らして一人の冴えない容姿の男が姿を現した。
その瞬間、凍り付いていた時が弛緩し雪崩の様に動き出す。
「ああ、助かった…!」
「ドブさん! 何とかしてくださいよぅ! また騒ぎに…っ」
此度の騒動で困り果てた表情をしたギルドの職員や給仕女が急いでその冒険者らしき男に泣きつく。
「んん~っ……またか? 悪ぃなあ、いつも。これ少ないけど…迷惑料みてえなもんだ」
そう言って男はペコリと頭を下げながら懐から取り出したものをギルドの雇われ人達に握らせる。慌ててギルドの職員達は「こ、困りますっ!?」と返そうとするが男は苦笑いしながらのらりくらりと言葉を躱して受け取らせる。それに引き換え、女給仕など極端な反応である。「わあ!? ありがとっ! チュッ❤」などと男の頬にキスしてくる始末である。それらの反応こそが、手渡した額が決して微々たるものではないという何よりの証拠とも言えよう。
そしてその男は少々バツが悪そうな様子で酒場の中央へと歩みを進める。どういう理由かは謎だが、完全にその場の空気が弛緩し出したのか、ザワザワと通常の喧騒が早くも戻ろうとしているのである。
その要因を作ったのは間違いなくその男。いや、よくよく見れば背は170センチほどでずんぐりとした体形に横にも前にも出たように見える…まるでドワーフのような体付きをした丸顔短髪無精髭の中年だった。歳も四十を超えているやもしれない。冒険者としてはかなりのベテランの年齢域だ。引き際を弁えた者なら既に引退を考えても決して早くないとも言える。
すっかりくたびれて丸い身体にフィットした革鎧に大きな背嚢を背負い、腰にはこれまた使い込んだ感じのする小剣を佩いている。
ただそれだけ。ぶっちゃけ有象無象の中年冒険者として埋もれてしまいそうな存在感しか感じさせない中年冒険者だった。
だが、存外にこの酒場に居合わせた冒険者から慣れた感じで声が掛けられる。
「おう!ドブ! 今日は遅かったじゃあねえか」
「まあな。ちょいと別件でな?」
「おいおい。俺達には袖の下はねぇ~のかよう」
「お前さん達なら、こんくらいの荒事には慣れっこだろう。イチイチ俺が気遣ってたら破産しちまうよ!」
「カァーッ! ドブさんよお。あんなおっかねえ女共に平気な顔できんのはアンタだけッスよ~?」
「そんな事言わずにさあ? 頼むぜ」
どうやらこの中年。年齢層に余り頓着せずに男冒険者からの人気は高いようだ。すれ違うテーブルから互いに挨拶や愚痴を交わしながら、肩や腰をバシバシと笑いながら叩き合っていく。
「ねえ? あのオジサン何者よ」
「さあ。……でも結構見掛けてるような気がすんだよねえ」
「てか、あのオジサン。もしかして、あのテーブルに向って歩いてるじゃない?」
「まさか。勇者様のパーティに知り合いがいる、とか? 年季は長そうだし」
「「うう~ん…?」」
このギルドに参入して日が浅い女冒険者パーティは件のS級冒険者達から新たに酒場の扉を潜り抜けた中年冒険者に意識を切り替えていた。
が、そんな彼女達の疑問に構う事無く中年冒険者は易々と目的のテーブルへと辿り着くのだった。
「……まあ、いい。今日は見逃すが、二度と僕をそう気安く呼ぶんじゃないぞ? この世界で僕を好きに呼べるのはたったひとりなんだからな!」
「ふンッ…」
佇まい直した勇者がチラリと意味ありげな視線を中年冒険者に送ってから席に着く。
対峙していた女戦士も不服そうな表情ではあるが武器を近くの柱に立て掛けると大人しく席に戻った。
それを見た周囲の冒険者達は目に見えて安堵の息を漏らし、憧れの勇者パーティの思わぬ騒動劇をハラハラした気持ちで見守っていたミーハーな女冒険者は逆に憮然とした顔となる。と、同時にやはり中年冒険者が自分達には手を伸ばしても届くことは叶わないS級冒険者パーティ、通称“勇者パーティ”の関係者だと確信する。
「あ!? 思い出した!」
「っ!? ちょ! 急に何よぉ~。ビックリさせんじゃないよ!」
「あのオジサン! 勇者様のパーティの人だよ!!」
「「え! 嘘ォ~ッ!?」」
名も無き女冒険者からの突然の発言にどよめく女冒険者達。だが、近場の冒険者達は『そんなことも知らんのかよ』と白けた表情を向けていた。
「……いつまで突っ立ってるつもりだい? 早く掛けたまえよ」
「お、おう」
何やらうすら寒い笑顔で促され、中年冒険者も微妙な相槌を打ってから席に着く。
「ああ゛~よっこいしょっと」
「「…………」」
彼がオッサンである事実は疑いようがないようだ。
「お疲れ様です」
「ん」
「…けっ」
「おう」
席に着いた中年冒険に対して残りの面々が労いの声を掛ける。まあ、三人目は本当に労いの意味が込められていたかは疑念が残るところだが。
先程かなりの額のチップを受け取った女給仕がサッと中年冒険者の傍らに姿を現す。
「ドブさん! いつものですか?」
「おう。先ずは冷えたエールを一杯貰おうか。…あ! ツマミはあんまり塩気が無いヤツにして欲しいなあ。今日はそんな気分なんだ」
「はい!わかりましたっ! 直ぐにお持ちしますね!」
女給仕が颯爽と去っていく。さり気なく中年冒険者にボディタッチしていたのを同席していた女達から睨まれた訳でない。いや、はずだ。
「……でもさあ~?」
件の気になるテーブルから離れた場所に位置する女冒険者達がまた何やら姦しい。
「やっぱり在り得ないよ! だって勇者様のパーティってS級のパーティじゃない? なら、パーティメンバーだってS級でしょ。準S級を含む場合はあってもさあ~…?」
「確かに…だってあのオジサン。B級だもんね?」
そう冒険者は厳格な階位社会である。その証明たる識別の首飾りを普段から身に着ける義務が冒険者には課せられているのだ。
冒険者の階位は試験段階のD級から始まり、C級・B級・準A級・A級・準S級・S級・超級の全部で8段階存在している。
訓練場通いの見習いであるD級は識別証明は木管。
見習いから正式にギルドからの依頼を受けられるようになった新人冒険者のC級は鉄の輪。
そして、並以上の冒険者となったB級に与えられるの銅製の金属器。この金属器は緊急時には笛としても使われる。ここまでがいわゆる低位の冒険者と呼ばれる部類である。
そこから武芸・または総合能力に優れた者であるA級には銀製のものが。準級の者には2本のラインが刻まれたものが与えられる。
そこからA級を超え、ギルドが定める中では基本的に最高位として扱われるS級になった者には不変の強さを意味する黄金製のものが贈られる。
最後に超級も存在するのだが、未だにその位を得た者は十指に満たないとされているのだが、ギルドの公式な提示では黄金の百倍の価値があると評されるミスリル製のものが与えられるとされていた。
話を戻して、現在。
中年冒険者を取り囲むように座する者達の胸元で揺れる何も刻まれず、ただ金色に煌めくものの存在こそが彼の者達が間違いなくS級冒険者としての証となる。
だが、その一方で中年男の胸元で申し訳なさげに揺れているのはオレンジ色に鈍く光を反射する銅の識別証明。
そう。その中年冒険者は本当に有象無象の凡人の限界とされているB級冒険者であった。
「「…………」」
騒がしい声に取り囲まれている中央に位置するテーブルでは、いまだに重苦しい沈黙が続いていた。
件の勇者が相変わらずニコニコしながらも一切料理にも酒にも手を付けずにテーブルをコンコンとガントレットを嵌めた指で叩き続けている。いっそ催眠術の類か何かか? と問いたくなるほど乱れぬ一定のリズムで叩き続けている。
「…………」
「…ドワブ君。これから何を言われるか…君なら何となく察しが付いているんじゃないのかな? で、だ。…その前に何か言いたいことがあれば――今の内に言うと良いよ」
指遊びが止まった同時にその貌が無表情になった。
心なしか中年冒険者の顔色が悪い。
「ね、ねえ? 何か雰囲気ヤバくない?」
「というかあのオジサンって何なの? もしかして、パーティの雇われ荷物持ちとか?」
「いや、それじゃまんま過ぎでしょ! って言っても…それくらいしか思いつかないわよね。何であんなオジサンを稀代のS級パーティが雇ってるのか一向に謎だけど」
「……でもさあ~。あの感じだとさ…あのオジサン。クビになっちゃうんじゃない?」
「「ああ~…」」
ひとりの女冒険者の発言に他の面々が同意の声を漏らした。
だが、その隣にいた冒険者達が堪え切れずに噴き出してしまったのだ。
その笑い声は思った以上に大きく、他のテーブルの者達も特別に女冒険者達の話に聞き耳を立てていた訳ではないのだが、釣られて笑い出してしまう。
「ちょっと!何が面白いのよぉ~」
流石に女といえど冒険者家業をしている者達だ。幾分か勝気な者が多い。
隣でヒーヒーと笑い声を漏らして頭の上で指をクルクルさせている仕草を見て流石にカチンときたのだろう。男のひとりの胸倉を掴んで引き寄せる。
「ぐえっ!? …うぎぎっ……はっ! そんな様子じゃあ、アンタらこの辺に来たのは最近だろう」
「それが何だってのよ」
「この城下で誰もがしっている、あの“先見のドワブ”をアイツらが手放すだって? ハハッ!お笑いだなっ!」
「な、何よ…? って、先見の…ドワブ?」
女冒険者達が混乱した様子で勇者パーティへと視線を戻す。
捕まった男はその隙に逃げ出して「それみたことか」とどこか自慢気に笑いながら席へと戻る。
「どうせアンタ達も人を見た目で判断する性質なんだろーよ。まあ、余所者には言っても解らねーだろうがな。…ま、黙って見ててみな? きっと面白いものが見られるぜ。ただ、恐らくギルマス達には面白くはねぇだろーがよ」
女冒険者達は男の言う事をこれっぽっちも理解できなかったが、言われた通りにその勇者と中年冒険者のやり取りを見守ることにした。
場面は戻って、中央テーブル。そこはもはや恒例の見世物と化していたが、誰もが皆暗黙の了解を以てして黙った成り行きを見ているのだった。
「まさか――こんなものまでギルマス達に用意させるなんてね?」
勇者は懐から丸められた羊皮紙を取り出して紐解き、テーブルの上に中年冒険者に見せつける様にして広げた。
「これは…!」
「………」
「…………。……文字が読めねエ」
その文面には堅苦しい文面ばかりが記載されていたのだが、文末の最後にはハッキリとこう書かれていた。
『ギルドマスターの過半数の同意により、当冒険者パーティから現B級冒険者ドワブを“追放処分”とするように命じる』
三者三様の反応を見せるのだが、やはり中年冒険者はプイと顔を背ける。
「……そうかそうか、君の気持ちは…理解できたよ」
勇者が諦めたようにゆっくりと席を立ち、スッっとその指を中年冒険者へと向ける。
「S級パーティ“金獅子”のリーダー…等級、S級。“勇者”トリダングレオが宣言するっ! ―――等級、B級のドワブを、今この場を以ってして“金獅子”から追放するっ!!」
その裂帛の声に周囲がまたしても凍り付く。
そして、恐れていた追放命令が勇者から発せられてしまった中年冒険者は絶望の表情を浮かべて……てはいなかった。
むしろ、やっと希望が叶ったと歓喜する寸前。喜びを爆発させそうな表情であった。
何故…?
「――と」
「「と?」」
中年冒険者を含めたテーブルの四名が首を傾げる。
「思っていたのかああああああああああああああああああああああっッ!!?!」
次の瞬間。勇者はテーブルから刹那的に拾い上げたギルドからの勅令をビリビリに破いた上に自身の魔術で燃やして灰にしたしまった。
「あ゛あああああああ!?」
「うわあああああああああああああ!!」
中年冒険者が悲鳴を上げる中、今度はその所業をやってのけた勇者が中年冒険者の腰にしがみついて号泣し出した。ルビーのように赤い瞳はグズグズ。美しいプラチナブロンドの髪は乱れて見る影もない。
「うわあああああぁぁ!! せ、先生っ! 僕を見捨てないでよおおおおお~!?」
「うるせええ!! もうかれこれ十年も面倒を見てやったし! ちゃんと目標通りにS級にもなっただろーが!? 良い加減に俺から離れろよっ!」
「やだよおおおおおお!! ずっと一緒に居てよおおおお!! せ、先生と離れるくらいなら僕、勇者辞めるよおおお!!」
「ば、馬鹿野郎!? 王様から“勇者”なんて英雄称を貰っといてそう簡単にホイホイ辞められるはずねーだろっ!」
「怒らないでよお先生ぃ~! そ、それに…野郎じゃないよ? 僕だって歴とした女の子だもぉおおおおおん!! だから捨てないでよおおぉぉおおお!!」
「離れろぉおおおお!! お前の馬鹿力とブルーメタル製の鎧の硬度がヤバ過ぎて俺の腰が潰れて無くなっちまうだろうがあ!?」
勇者の阿鼻叫喚の声が酒場に響く。二階から既に何名か降りてきて頭を抱えている。どうやら、その勅令をこの中年冒険者の為に書いてくれた者達のようだが、一様に俯いて現状を憂いているようだ。
「あ~…うっセ」
「はあ。結局、こうなりましたか…不憫なドワブ様…」
「………ん。追加の料理…頼んでも良い?」
「俺様も酒ダ。……あのうるさいのにつけといてくレ」
斥候の少女・神官少女・女戦士に至ってもこのやり取りには既に慣れている。
斥候の少女に至っては近くのテーブルにいた女給仕に追加で料理を通常運転振りだった。
そんな光景を目の当たりにして、さっきまで勇者に向って黄色い声を上げていた女冒険者達が顎が外れんばかりに口を開いて固まっていた。
「ほらな。俺の言った通りになったろう?」
ショックを受けている女冒険者達に男の声が耳に入ったかどうかは、今のところ確かめる術は残念ながらないようだ。