免許合宿時代(3浪時代中編)
2017年10月
Fラン私立大学を中退した。
大学を辞めて暇になった。
自動車免許をとっていなかったので、四国のとある自動車学校に10月から半月コースの免許合宿に行った。
この時期の合宿費用は一年の中でも特に安い。
当然だ、学生は既に長期休暇が終わっていて、社会人はそもそも纏まった休みをとりづらい。
だから客は少なくなり学費は下がる。
そこに集まってきた人たちもヤンキー崩れ、ニート、フリーター、就職浪人、ヤクザっぽい強面のおじさん、貿易船搭乗員のようなまとまった休みが取れる職の人、免許の更新を忘れてやむを得ず再取得しないといけなくなった人。
そんな人たちばかりだった。
だが俺にとってそれは居心地の良いものだった。
当時俺は2浪Fラン大学を半年で中退したことを強く恥じていた。
一年でも早く医学部に合格して経歴を綺麗なものにしたかった。
そんな気持ちを心に抱いたまま、普通の大学に普通に通っている人たちと交わるのは苦痛だった。
だからこの時期に免許合宿に行ったのは正解だった。
俺はそこで5人の男と懇意になった。
・22歳、フリーター(親と不仲)…山尾
・19歳、アメリカの大学に留学予定(高校中退)…藤本
・25歳、貿易船搭乗員のお兄さん(童貞)…松田
・18歳、離島から来た個性的な青年(ADHD?)…岡本
・32歳、日系カナダ人の営業職のおじさん(ハゲ)…高倉
一応、俺のプロフィールを書くとすれば
・20歳ニートの医学部志望(大学中退)…中村
といったところだろうか。
高倉さんとはバスで移動中の時に、身の上話になって、よく相談に乗ってもらった。
彼曰く、昔の自分を見ているかのよう。だったらしい。
よっぽど屈折した青年期を送っていたのだろうか。
しかし、年も離れていることもあり、それ以上話すことはなかった。
因みに宿舎で彼の部屋を横切るといつも英語のニュース音声が大音量で流れてきた。
さすがは大陸育ちなだけあって騒音問題には無頓着のようだった。
他の3人とは年も近く、また気もあったので個室に集まって話し合う程度には仲良くなった。
宿舎のすぐ裏には砂浜が広がっていた。
立地的にほぼプライベートビーチのようなものだった。
スーパーでお菓子や酒や煙草を買い込んで、夜に皆んなで砂浜の防波堤に座って、精神の話だったり、風俗の話だったり、親子関係の話だったり、ゲームの話だったり、、まぁそんな他愛もない話をした。
山尾と藤本と俺の3人で夜、近所のカラオケ屋に行った時は山尾のキチガイっぷりが拝めて腹が捩れる程笑い転げた。
山尾が夜、無点灯で自転車を漕いでいたところを、警察に見つかって補導されたのだ。
その際、山尾は頑なに警察の事情聴取を拒んだ。
本人確認証明書の提示を求められても「でもそれ任意ですよね」の一点張り。
その他の個人情報も「あなたには関係のないことですよね。任意ですよね?」と繰り返していた。
彼が前科を持っていたり、指名手配をされているわけではないのは何となく分かった。
それではなぜあそこまで頑なに拒むのか。
おそらくは警察の言いなりになるのが癪に障ったのだろう。
彼の気持ちも分からなくもない。
22歳フリーター、そりゃ生きていたら嫌なこともたくさん起きるだろう。
その結果、反体制派の反骨精神が芽生えるのも理解できる。
でもそれとは別に他人がそのように補導されているのを側らから見るのは楽しかった。
あいつまだ粘るなwww草。って感じだ。
この出来事以来、山尾のあだ名がサイコになった。
因みにこの時期に2017年度センター試験の出願を済ませた。
免許合宿が終わって帰宅してからじゃ間に合わなかったからだ。
まさか遠征先でセンター試験の出願をすることになるとは…。
自動車合宿も終わりに近づいた頃、効果測定が行われた。
効果測定と仮免試験が合宿中に行われて、本免試験が帰宅した後、地元の運転免許センターで受験するのだが。
効果測定とは大学受験でいうところの模試のようなものだ。
仮免試験は共通テスト、本免試験は二次試験といったところだろうか。
ただ、この効果測定というものは解答管理が杜撰だった。
3種類くらいしか問題のパターンがなくて、前に受験した人がグループLINEで問題と答えを拡散するのが常だった。
それの3パターンの問題を事前に見ておけば簡単に合格するものとなっていた。
俺も例に漏れずその恩恵に預かった。
しかし、仮免試験はそうもいかなかった。
ネタバレはなく自力で合格する必要があった。
俺はというと、医学部を受験する自分が勉強もしたことないようなヤンキーでも合格する雑魚試験に落ちるわけないだろうと慢心していた。
しかしよく考えてほしい。
ヤンキーは車やバイクいじりを趣味にしている人が多い、その家系もカーメンテナンスを生業にしていることが多い。
するとそっち方面の興味と知識が、一般の人間よりも高いことになる。
三角関数や微積分にはまるで興味がなくても、交通ルールくらいは多少の興味があると考えれば、そういう連中が受かってもおかしくないのだ。
彼らの暴走運転への憧れは常人の理解を超えたところにあるのだろう。
かたや俺は肥大した自意識を度外視すれば、ただの2浪Fラン大学中退の雑魚。
ポテンシャルとしてはそこらのヤンキーと大差ないのだ。
そんな俺が慢心して勉強しなかった結果…
落ちた。
仮免試験に落ちてしまった。
一度落ちてしまったことで合宿期間が1日分延びてしまい、その結果6000円の追加料金を取られることになった。
こんな馬鹿で受かる試験に落ちたのは、相当なショックだった。
それから反省し、少し勉強することで2度目はなんとか合格することができた。
俺は同日に合宿に参加した仲間たちを見送った翌日に自動車学校を卒業した。
余談だが、本免試験は一発で合格した。
素直に嬉しかった。
合宿で知り合った藤本とは、メンタル的なところでも話が合い、その後もLINEでやりとりを続けた。
彼は後に5浪時代のキーパーソンになるのだが、それはまた別の話…。
今思えばここが僕にとっての大学だったのかもしれない。
たった2週間しかなかったが。