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馬鹿な浪人の末路  作者: 蟻の船酔い
追憶編
5/20

高校生時代

2012年-2015年

高校生活

それは日常系アニメに慣れ親しんだオタクにとってそれは華やかなものに映るだろう。

第一志望の高校に落ち、相当へこんだ俺も多少の淡い期待は抱いていた。


【合格発表】

 俺は青春系アニメでよく演出される、高校の校庭に架けられた合格者の受験番号に、自分の番号が書かれているかドキドキしながら探して、、「あった…!あったよ……!!」と叫んでガッツポーズをとる、あの''茶番''をやりたくて、合格発表の朝はそのことを何度も頭の中で反芻していた。

 しかし、ADHD特有の遅刻癖から合格発表の始まりの時間に遅れてしまった。

高校に向かっている途中、同じ中学から受験していた直井からメールが届いた。

「お前受かっていたよ」

直井のカスは俺から些細な楽しみを奪った。


帰り道、中学校に、合格したという電話をした。

 担任に言うと「おめでとう、顧問の鮫島に代わろうか?」と。

クソ顧問と会うことは、今後二度とないだろう。

あのカスはどんなことを言うのだろう。

怖いもの見たさの性分の俺は取り次いでもらった。

「おう、受かったって?」

「はい。」

「んー、お前はそれで良かったんか?」

 こいつは何を言っているんだろう。

 まずは受かった人間にはおめでとうだろ。

 何がお前はそれで良かったんか?だよ。

 最後までこのカスは俺の気に障ることを言うんだな。

 イライラしたので適当に生返事をして電話を切った。


【初回テスト】

4月

入学式を終え、大学受験での挽回を果たすべく、当時、映像授業で噂になっていた予備校に通うことになった。

「音読!音読!音読!」「因数分解はたすき掛けをすればー」

これで高校生活のスタートダッシュを切れる。

 第一志望の高校の偏差値が67で、今いる高校偏差値が55だからどうせ周りの人間もバカばかりだろww

そう高を括っていた。

 高校入学の初めての定期テストが始まった。

内容は主に高校受験の問題の焼き直しのようなものだった。

出来はまずまずといったところか…


1週間後テストが返ってきた。

数学38点、英語42点、国語49点

クラス内順位 40/40人


???


あれ程バカにしていた高校の定期テストでクラス最下位?

どういうこと?


「お前案外バカだったんだな笑 安心したわ笑」

クラスメイトから陰キャ馬鹿のレッテルを貼られることになった。


この俺が…この俺がぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁああぁぁ!!!


【陰キャ飯】

弁当アリの授業が始まった頃、初めの友達作りに失敗した俺は何となく脈がありそうな陰キャラグループに金魚のフンのように近づいて弁当を食べることにした。

 周りがグループを作っている中、一人で飯を食べる勇気はなかったからだ。

面白くないことを面白そうに話す伊波、面白くない会話を面白そうに傾聴するフリをする俺。

 感情を失ったロボットは自らを欠陥品だと悟られないようにあれやこれやと策を講じる。

「お前の喋り方、ロボットみたいやな」と、上森が口を開いた。

中学時代に心を失くした俺の本質に気づかれた。

気分は人間失格の主人公。

俺は自己欺瞞を見破られると、途端に強烈な羞恥心に襲われた。

「ハハハ…何言ってんだよ…」



【部活選びは慎重に】

中学時代は知人から熱烈に勧められてバスケ部に入った結果、痛い目をみてしまった。

 だから今回は自分のやりたいものをやろう。

軽音部、パソコン部、剣道部、陸上部

候補は4つ絞られた。

それぞれ見学をした。


軽音部…なんか思ってたのと違う

パソコン部…思ったより陰気な感じだった

剣道部…友達いないし、、

陸上部…友達がいるからここにするか。


そうして陸上部への入部を決めた。


結果から話すとこの部活選びは成功だった。

カスな自分を部員たちは受け入れてくれた。



高校生活は基本的に陰キャなのでキラキラしたことは何も起こらなかった。

 もう少し自分を抑圧せずに振る舞っても良かったのではないかとも思ったが、当時の俺にはそれ程の知能もなければ精神も貧弱だったので何もならなかった。



【魔女の呪い】

高2の春、俺は親に連れられて、界隈で有名な占い師に診てもらうことになった。

手相を見せる。

「ふむふむ、あー、、君、医学とかって興味ある?」

「いえ、特には。」

この時の俺はドラえもんやSAOのような、どちらかといえばロボット工学や情報工学系に興味があったのでその問いに対しては何の感情も抱かなかった。

「ふむふむ、あー、、あと君は将来あまりお金には恵まれませんね…」

このババァ最低なこと言うな。

未来ある若者になんてこと言いやがる。

「でも、まだこれからなので努力次第では変わってくると思います!」

苦し紛れのフォローかよ…


 しかし家に帰った後、占い師の話していた医者という職業が気になり始めたので調べてみることにした。

その時に目についた情報は大方こんな感じだった。

・給料が高い

・社会的地位が高い

・患者から感謝される

・自由度の高い就業スタイルがとれる

・定年が無いので身体が衰えるまで働き続けられる

・モテる

・頭がいい


自尊心がすり減っていた高校生にとってこのステータスは恐ろしく魅力的に見えた。

 そしてその日は徹夜で頭の中でこれから一年どのように参考書を進めていこうかなど戦略を立てた。

この通りやれば間違いなく合格だ。

そう浅はかにも、この頃は思っていた。



【不純な動機】

 高3の文理選択ではコミュ障であることから、人と交わることが少ない研究者になるべく理系を選んだ。

決して数学や物理化学が得意だから選んだという訳ではなかった。

 高校は非進学校なので、模試や進路調査の志望校欄に医学部医学科という文字を書けば、教員は怪訝そうに眉をひそめ、同級生は無理だろとゲラゲラと嗤う。

 非進学校とはそういう文化なのだ。

第一志望は秘密にしておくのが非進学校での作法なのだ。



さて、高3になった。

俺は2chで大学についてたくさん調べた。

ふむふむ、なるほど。

 どうやらMARCHや関関同立は3ヶ月でいけるカス大学らしい。

 やはり目指すは国立医学部。

 授業料は6年間で350万円。

たったの350万円で将来年収1000万円の生活が手に入るのだ。

これほどコスパの良い大学なんてあるだろうか?


ただし、自分の高校は偏差値55の非進学校。

 進路調査などで医学部志望と書けば徹底的に吊し上げられた挙句、冷笑されるという裁きが待っている。

同調圧力、村社会の厳しい一面である。

なので志望大学にはその辺の地方国立工学部を書いておいた。


尚、この頃の定期テストはというと相変わらず赤点ラインを行ったり来たりしていた。

学年順位も下位10%に位置していたはずだ。

既にこの時点で俺の学習障害は明確なものになっていたのだと思う。


それでも、自己像を保つために自分は優秀であり、定期テストの点数は関係ない。

大事なのは模試での偏差値だと言い聞かせた。


さて、その模試の偏差値であるが、

河合マーク模試 総合偏差値51

河合記述模試 総合偏差値49

無惨なものであった。


それから受験日まで徹底的に勉強計画を立てるようになった。

試験本番から逆算し、いついつまでにこの参考書を終わらせて…


俺の計画は完璧だった。

そう、脳が超回転して、次々に問題を解いて理解し、一周するだけで完璧に覚えることができる人間で、あったならば。


勿論それは俺の歪んだ自我が生み出した、ありもしない完璧な自己像であり、現実のものではない。

計画は1日目から破綻した。

 その綻びを正すために明日のスケジュールに今日のスケジュールを詰め込み、帳尻を合わせようとした。

無駄だった。

今日駄目だった人間が、今日の2倍の量を明日にこなせる訳がない。


普通であれば、この時点で自分の計画の立て方の欠陥に気づき、そして真摯に向き合い、下方修正を行い、そこから導き出される1月の時点での学力を予想し、自分が行ける大学に想いを馳せるところだろう。


しかし、アスペな俺はそんなことは一切せず現実を見ようとせずに妄想の世界へと入っていった。



《8月》

部活を引退する時期になり、後輩たちから毎年の行事であるメッセージカードが渡された。

人付き合いが不得手な、俺の苦手な行事だ。

人付き合いが苦手なため、先輩後輩と深い仲になることはなかった。

なので自分が後輩のときも、交流の少ない先輩にメッセージを作文するのには苦労したものだ。

 そして今回、俺が先輩となり、交流の少ない後輩からは、かつての俺がしたように機械的なテンプレートのメッセージが送られてくることになる。

 中には同じ中学から来た後輩ということで多少交流したことがあった者をいた。

そいつのメッセージには引っかかるものがあった。

 「多分この先も大変でしょうが頑張ってください!応援してます!」

まるで俺が障害者で、この先、社会で嫌な目に遭うことが前提に書かれているような気がした。

なんて失礼な奴だ。俺は心の中で憤慨した。

 だが、後になってこいつの言っていたことは正しいと証明された。

現に今、大変な目に遭っているのだ。



《夏休み》

人生初めての大学受験の夏

俺は、例の映像授業が売りの予備校に通い詰めた。

1日12時間は勉強したのではなかったろうか。

予備校ではノルマが課せられた。

この夏にどれだけ講座のコマを進めらるか。というものであった。

 今から思うとなんとも浅ましいノルマだったと思う。

感じようとしなくても漂ってくる拝金主義のにおい。

ノルマを達成すると予備校のロビーにシールが貼られていく。

要は子供チャレンジのアレと同じやつだ。

 視野狭窄に陥っていた俺は月間コマ数の校舎No.1を目指した。

結果、講座のコマ数は4位だったが、高速マスターという英単語を覚えていく部門では一位をとった。

そんなもので表彰されても虚しいだけなのにね。


夏が終わると実力がついている。

…はずだった。


夏休み期間にやっていた12時間の勉強は結局のところ学力向上に結びつかなかった。

ノルマをこなすためだけに、ただいたずらに時間を費やしていたからだ。



《秋》

俺は同じ高校の友人を、お友達キャンペーンを出しにして予備校に招待した。

彼は入塾した。

今思うと、俺は彼に悪いことをした気がする。

こんなぼったくりな予備校に金を払わせて、その結果、理系の彼は文転し、関西大学に行ったのだから。

 つまり数学や化学、物理の授業料は彼にとって無駄金だったのだ。

金を払っているのが彼の親であることは分かっていたが、それでも良心が痛んだ。

 結局、初めからそうなることが分かっていれば予備校に高い授業料を払わずに、英語と国語と社会を学校の授業と自習だけで済ませれば事足りたのだ。


そんな彼との、心に残ったやり取りがある。

 秋の夕暮れ、予備校を出て、近くのコンビニに軽食を摂りにいく場面である。

夕日をバックに将来何になりたいか話し合った。

 2014年秋、当時アニメSAOの二期が放送されており若者の心を掴んでいた。

「俺は将来SAOのようなゲームを作りたい。」

「奇遇だな。俺もだよ。」

「ははっ、そうすると東京工業大学かな。」

「ああ、ナーブギアを作るにはその大学に行くのが相応しい。」

「ふふっ…ははははは」

「はははははは」



《12月》

 予備校にはセンター試験まであと○○日という日めくりが貼られるようになった。

毎日その数字が小さくなっていくことな哀愁を感じた。

 俺は履修が終わっていない物理の心配をするようになった。

 この時期なのに物理が全く理解できていない。

力学は多少理解できたが、電磁気で圧倒的に躓いた。

何度映像授業を見直しても、話している内容を理解することはできず、気がつけば睡眠学習が捗っていた。


《1月》

過去問はちょろっとやったが医学部に必要な点数はとれずにいた。

「センター数学の図形問題は高校入試に出てくるような補助線を引くのがポイントです」

「英語に大切なのは、音読!音読!音読!」

「炎色反応はリアカー無きK村と覚えます」

「物理とはその物体に掛かっている力を読み解くことから始まります」

知識が頭からザルのように落ちていく。

 どんなに講義を聞いたところで脳がそれを拒絶する。

 終わらない履修範囲、閃かない数学、読んでいる途中に脳内でアニソンが自動再生される英語長文、感情移入しすぎて時間がかかりすぎる現代文。

不安と焦りは試験10日前で頂点に達し、そして辿り着いた結論は、

"そうだ浪人しよう" 。


 こうして俺は一年目のセンター試験を受ける前から浪人すること前提でものを考えるようになった。

どうせ今から頑張ってもセンターで85%とるのは不可能だ。

それなら1.2月は適当に遊んで3月から頑張ろう。


 人間のクズが陥りやすい典型的な発想である。



【センター試験〜二次試験】

人生初めてのセンター試験。

 この頃は自分も高校生であったから高校の制服を着て試験場に向かった。

 非進学校なのでうちの高校からセンター試験を受ける人は少なかった。

休み時間に同じ高校の奴と群れて、

「あの問題どうだった?」

「難しすぎね?w」

「俺終わったわw」

「私立に切り替えるか」

と話していた気がする。


うちの高校の生徒に満足に点数を取れる人間はいなかったのだ。


高校では翌日に自己採点が行われた。

我が理系クラスでは最も点数が取れた奴が70%

他は50〜65%をウロチョロと。


俺はというと、

52%


時代を先取りする映像授業の予備校に3年間通った俺が52%

あまりにしょっぱい結果に終わってしまった。


親に52%だったと報告すると落胆した後、52%でも受かる見込みのある大学を探してきた。

地方国立大学の工学部の夜間コースである。

 俺は医学部に行くと決めていたのであまり気乗りはしなかったが、とにかく受けてみて受かってから考えろとのこと。

 試験科目は数学と化学と面接だった。

数Ⅲと有機化学を満足に勉強せずに挑んだ試験。

手も足も出せずに終わった。

 面接は3人1組でモネの「印象・日の出」の絵を見せられて、それについての感想を述べよというものだった。

どうせ点数化されることもなければ、筆記が壊滅的だったので、適当に話して終わりだった気がする。

 実につまらない面接だった。


 私立は近大の生物理工を受けた。

2chで培った大学受験ランキングによると近畿大学は底辺に位置していた。

そんな底辺な大学に俺は相応しいない。

そう舐めきって挑んだ試験。

まるで分からない。

 近大は底辺だったんじゃなかったのか?

 俺は高校入試の問題のように、知識がなくても何となくで解けるものを想定していた。

しかし現実は、基礎的な問題集を自力で解けるようになっておかないと、太刀打ちできないものとなっていた。


数週間後の結果発表では全落ちとなっていた。


父は落胆し、母はヒスを起こした。


俺はこれから始まる浪人生活に希望を抱き、今度こそは必ず上手くやってやると心に誓った。

中学校よりは楽しく、小学校よりはつまらない。


楽しさランク

幼稚園>>>小学校>>>高校>中学校


2chの大学ランキングを真に受ける奴にロクな人間はいない。

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