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馬鹿な浪人の末路  作者: 蟻の船酔い
現代編
19/20

復活の中村(9浪目)

2023年9月-2024年1月

9月

地獄の強制労働施設から帰還して1週間が経過した。

家族は無職の息子が曲がりなりにも労働してきたことを喜んでくれた。

俺は労働の対価である100万円を手に受験までの間、どう過ごすかを考えていた。


うーん、やはり大企業での労働を通じて思ったことは、色んな経験を積むべきってことなんだよなぁ。


新入社員の仲間同士の会話でも夜の話は尽きなかった。

故郷に残してきた女が寂しがってるとか、高校時代はヤリまくりスティとか。

俺は自分がDTだと悟られぬよう必死で会話に喰らい付いてきた。

が、もうそういうのはおしまいだ。

俺はこれまでの人生、魔法使いに憧れてきた。

RPGゲームでも魔法使いを選び続けた。

だが、もういいんじゃないか?

俺はこれからは戦士として生きる!!


そう決心すると、俺はネットで風俗店を調べた。

レビューを参考にしながらめぼしい店をピックアップしていく。

いくつか迷った末にようやく行く店が決まった。


電車に乗り、お店がある街へと向かった。


俺は喉が渇いたので喫茶店に立ち寄った。

お茶を注いでくれたウェイトレスは橋本○奈似の超絶美女で思わず意識が飛びそうになった。

そういう気配を察してか、○奈も目がとろんとなってにっこり笑った。

二人は瞬く間に恋に落ち、互いに愛を誓い合った。


「まいど〜おおきに〜」


いいお店だったな〜、お茶も美味しかった。


DTを卒業した俺は、早速SNSでDTたちに自慢をした。

「ふぃ〜SOX最&高wwwww」

すると案の定、嫉妬にまみれた返信がくる。

「お、おまえ……羨ましいぞ…」

「まぁ、お前も頑張れやwww」


自分が今までされてきたことを他の人にやってしまった。

社会はこのように循環するんだなぁ()


しかし今まで114514回夢想してきたSOXというのはこういう感覚だったのか。

なんというか思ったよりも温かいというか、締め付けというか、柔肌というか。


思ったほどの感動はなかった。

なるほど。という感じだ。



10月

母校に共通テスト出願のための卒業証明書を取りに行く。

校内を懐古に浸りながら散歩していると、又もや生徒指導のような人相の悪い教師に目をつけられて挨拶をされる。

その挨拶の仕方はどう見ても不審者を警戒するような物言いだったので不快な気分になった。

事務所に行って手早く卒業証明書を一通発行してもらって手数料の500円を払った。


俺、この手数料だけで9年間の合計1万円くらいいったんじゃないかな。

頭おかしいんじゃねぇの??

もう終わりだよこの国……。


帰り際、廊下で何人かの現役高校生とすれ違う。

こいつら所詮DTなんだろうなぁ……

ふっ…まだまだケツの青いガキよ(笑)



家に戻り、共通テストの出願を済ませると俺は勉強に取り掛かった。


「さ、て、と、、そろそろ本気を出しますか……(首コキコキ)」


俺は中学受験用の算数の問題集を開き、勉強した。

難関大学に合格する人間の70%は中学受験者なのだ。

だとすればそのレールに乗っかるのが自然な流れである。

彼らが通った道をなぞるのみ。

勉強は何歳になってからでも遅くはない!!


10月は中学受験の参考書にどっぷりと浸かった。


余談だが、例の喫茶店へはもう一度行った。

辺りを回遊魚の如く彷徨い歩き、誰かいい女の子はいないかと品定めすること1時間。

えいやと決めた優しい感じの女の子は店に上がるや否や、態度を豹変させて痛い目を見させられた。

薄々分かっていた。

今夜の看板娘はどれも魅力的な子はいないと。

でもせっかく電車で来たのだから、そのまま帰るのも嫌で、本心に蓋をしたまま妥協して選んだ人だったのだ。

その予感はある意味当たったということに過ぎなかった。

やはりこういうものは無意識レベルで惹きつけられるものでないと駄目だ。

意識上でどれだけいいと思っても、そこにはなんらかの妥協と怪しさが付き纏う。

悔いのない選択とは、意識を介在させない選択だったのだ。



11月

中学受験の算数が終わり、高校受験の数学に取り掛かった。

使用した参考書は難関国立・私立高校の入試問題が載ってあるものだ。

実は中学受験問題集も、高校受験問題集も今に始まった話じゃない。

5浪あたりにも同じような考えのもとでやっていたのだ。

そしてその熱が再燃したわけなのだ。


これらの参考書が終わり、満を持して大学受験のための勉強に取り掛かったのは11月末だった。


焦りはあまりない。

既に去年やったことの反復をするだけだからだ。

思った通り、過去にやった問題集の復習 + 中学受験・高校受験数学の復習をしたこともありすんなりと理解できた。


12月

基礎問題精講、大学への数学一対一対応、英語長文のハイパートレーニングなどの参考書を次々に仕上げていき、物理と化学以外の今日はほぼ仕上がった。


勉強の合間には薬屋のひとりごとを観て医学を学び、葬送のフリーレンを観て歴史を学んだ。

毎日が充実していた。


新たな喫茶店も開拓した。

その喫茶店は当たりだった。

低価格でレベルの高い合格点を超えるウェイトレスをオールウェイズ出してくれるそんなお店だった。


毎日が充実していた。


クリスマス頃、物理と化学を始めた。

もっともこれも去年やったことのある問題集だったので特に苦もなくスイスイ進んだ。


ただここに来て時間が加速するのを感じる。

おそらくプッチ神父が天国への階段を登っているのだろう。


一問あたりどんなに早くても5分は掛かるとしてそれが400問あるとして2000分、すなわち34時間かかるわけで。

一日10時間勉強に充てたとして、参考書を一周するのにぶっ通しの最速で3日かかるようだ。

そして現実には途中で集中力が切れたりで1週間くらい伸びて10日ほどの時間が掛かると予想される。


…もう時間がない

……暴走が始まる



あれよあれよ大晦日になり、年が明けた。


新年、明けまして、おめでとうございますm(_ _)m


ああ…時間がない。

何か日本を揺るがす適当な災害でも起きて共通テストが延期にでもならないかしらん。


そんなことを深層心理で思っていた時だった。

事件は起きた。


2024年1月1日 16時10分

能登半島地震が起きた。


いつものように勉強机に向かって勉強をしていると部屋が揺れた。


わっわっわっわあああああ!!!?


なんだなんだ!?

地震だ!!地震だ!!!!

ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァァァァ!!!

嫌だ!死にたくない!!死にたくない!!!!!


揺れは奇妙なほど長く続いた。


リビングにいきテレビを点けると全ての番組はくだらないお正月番組を中断し、緊急地震速報が流れていた。

不気味なアラーム音が鳴り続ける。


ああ…もう終わりだよこの国。


どうせみんな死ぬんだ。


その晩は初詣に行き、世界平和のため祈った。


その翌日には羽田空港で飛行機が全焼する事故が起こった。


なんなんだよ…この国は……なんなんだよ…なんなんだよもおおおおおおおお


新年早々からクソッタレだ。


なんて年だ!!


数日間、気が立ちながら勉強の手は緩めなかった。


そしてある時

ふと、俺は自分の胸に手を当てた。


ん…待てよ、これは俺が望んだことなのか…?

いや、そんなはずは…

何人の命が犠牲になったと思ってるんだ!!

いや、違う…俺はそんなはずは…

お前のせいだ…

お前が共通テストを延期させたいがために災害なんか望んだのがいけなかったのだ。

ちがう!!!!!!!!

いいや、お前のせいだ。


…おれが、、俺がやったのか。。。


ニュースに目を向けると能登半島地震の死亡者数が100人を超していた。


…俺のせいだ………。


俺の中で何かの糸が切れた気がした。


こんな人間が医師なんか目指していいわけがない。


馬鹿だった。


俺は勉強の手を止めた。


はぁ…このままタヒのうかな。


数日間、自責の念に駆られていた。

それでもここまでやってきたのだから、やはり試験は受けないといけない気がした。

それが被災者へのせめてもの罪滅ぼしなのだ。


茫然自失の中迎えた

1/13 共通テスト1日目

その大学の学生でもないのに何度も足を運んだ入試会場。

いい加減飽きた。

見慣れた風景にソワソワする9歳も歳の離れたキッズたち。

試験場入り口に置かれた古めかしい石油ストーブ、モゴモゴと喋る試験官。


実に馬鹿馬鹿しい。

茶番だ。こいつら全員DTだろ。可哀想に。バーカバーカ。


文系科目は易化も難化もしなかった。

話によると英語リーディングの大問5が長くなったから難化したとか。

だが俺からしたらそんなものに右往左往してるようじゃゲジゲジだ。

いや、ゲジゲジにすら失礼だ。そこら辺の石ころだ。

カスだ!カスだよ。


漢なら一番前から順に解いていき時間内に全部解き切れ。

それもできないような奴に大学受験を語る資格は…無い!!!!



1日目の文系科目は無事に終え、その日は早く床に就いた。


翌朝は6時に起き、糖分をたくさん摂取して血流を促した。


「じゃあ、行ってきます」


二日目の理系科目も易化も難化もなく例年通りという感じだった。

一応表向きは今年で現行課程を廃止して、来年度から新課程に移行するので、今年度に奇問持ってくる可能性は初めから低かった。


そんなこんなで人生最後の共通テストを終えた。


俺以外にセンター試験、共通テストを合わせて連続10回受けた天才他にいる?

まぁいないだろうなぁ。

みんなヘタレだから(笑)

漢なら10回くらい受けてみんかい(笑)

多分俺ギネス載るわ(笑)


はい、センター・共テの累計出願金額だけでMacBookが買えちゃいますね〜


共テお疲れ様パーティということで帰りにビールと2月ぶりの煙草を買い求めた。


「この一杯のために俺たちゃあ生きてるんだァ…」

スパァ…( ´Д`)y━・~~



翌日

共通テストの自己採点をした。

結果は歴代最高得点を記録した。

どうやら帝国重工での労働が長年の鬱を解消に導き、頭の働きが良くしてくれたのかもしれない。

そういえば正月あたりにスイカの落とし物を拾って交番に届けたことがあったっけ。

あれも効果があったのかもしれないな。

天が俺の味方をしてくれたんだ。


1/17

バンザイシステムに結果を入力するとまさかのA判定!!

その晩、家族会議が開かれた。

「父上、この度は齢27にもなった私どものご支援をしていただき誠にありがとうございます。先日の共通テストの結果が出ましたので判定サイトに入力しましたところ、当初の志望校でA判定が出ました。」

「おお!まことか!!よくやった。これからも精進したまへ」

「ははあ」


翌日、共通テスト歴代最高点獲得祝いに高校に向かった。

高校に行くと女の子が出迎えてくれて、そのまま恋愛へと発展した。

いいお店だった。


その足で母校に向かった。

二次試験の出願のための卒業証明書と単位修得証明書を取りに行くのだ。

事務室に着き、扉をノックする。

予め伝えていた名前を告げ早急に資料を作ってもらう。

さっさと受け取ろうとしたとき、事務室のおばさんが口を開く。

「9年前の生徒さんなんですね。

たしかこの学校にもそれくらい前から勤務している先生がいたはずだけど、会ってみる?」

「え、名前を聞いてもいいですか?」

それは俺も知ってる名だった。

学生時代お世話になった音楽の先生だったのだ。

「あの、、じゃあ、お願い、します……」

内心不安だった。

こんな見すぼらしい姿を当時の自分を知る人に見られるのは恥ずかしかった。

それでもこの機会を逃すと一生会わない気がしたから会うことにした。


待つこと数分。


「あら、中村くんだよね?」

「は、はい…」

「久しぶりね、毎年欠かさず卒業証明書を取りにくる卒業生ってことで職員室では有名になってるのよ」

「ははは…嫌な有名人ですね(苦笑)」

「心配しているのよ、うちの学校の卒業生が今も浪人しているって…」

「は、はぁ…」

「今年はどこを受けるの?」

「脅威ですね」

「んまぁ!頑張ってね!」

「(´;ω;`)」



先生と別れを告げると俺は校内を散策した。

この時、学校は既に放課後となっており、校内を散歩しても人相の悪い生徒指導のおっさんに絡まれることはなかった。


今年で正真正銘の最後の受験だから本当に母校に来るのは今世で最後になるのだろうな。


俺はひたすらに校内を歩き回った。


ああ、何もかもが懐かしい。

あの頃は何もかもが輝いていた。

人生に汚点はなく希望に満ちていた。

今は27歳高卒無職の我が身では、当時あまり楽しくなかった高校時代でさえそのように見えてしまうのだから不思議だ。


それから外に出て、校舎の非常階段を登り、沈みゆく夕陽を眺めた。

俺はこの景色に見覚えがある。

11年前のあの日、俺は確かにこの場所に立って同じ夕陽を見ていたんだ。

それがまさか11年後に同じ場所に立って同じ夕陽を見ることになるとはな。

何とも皮肉なもんだ。


俺は大きく溜息をついた。

「随分と遠いところまで来てしまったな…」

道中、コンビニで買った缶コーヒーを開け、それを口に含む。


遠くから吹奏楽部の曲が聞こえてくる。


せいぜい青春のファンファーレでも奏でてくれや。


俺は母校を後にした。



1月末

11浪の先輩とSNSで今後の人生について相談し合う。

「将来の先行きが見えねぇ…」

「それな」



二次試験の出願を済ませる。

出願した大学は難関大学なので特に数学の対策が必要だった。

俺の本棚は本屋の参考書コーナー顔負けの参考書図書館と化していたので、対策本は容易に見つかった。


・大学への数学一対一対応

・ハイレベル数学の完全攻略

・やさしい理系数学

・ハイレベル理系数学


まぁこれくらいやれば充分だろう。

俺はこの1ヶ月で数学の神になる。

もう誰も俺を止められない。


試験本番が愉しみだ。



ふふふふふ。


喫茶店でお勉強するの楽しいです

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