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平民校舎花壇爆破事件 4

 貴族校舎とシンメトリーの配置になっている平民校舎。

 その花壇で起きた光と音の爆破物。

 花壇に本来存在しない鉱石の欠片や火薬などが見つかっている。

 平民校舎生徒会副会長と書記の泣き叫ぶ声。

 方法はすでに分かっている。そのための調査も終わった。

 あとは、犯人を見つけるだけ。



+++++



 聞こえなくても、大泣きをする義母を見れば何を言っているのか理解はできる。

 養子になってから悲しませる出来事ばかりで心配しかさせていない。

 申し訳ないと思う気持ちは当然大きく、かと言ってレオニールたちが言うように護衛を置いて仰々しくするのも違う気がして断り続けている。

 国内唯一の光属性の魔力を持つ人間だとしても、アレイヤは至って普通の女の子なのだ。

 普通も普通。なにせ前世も平民、今世も生まれは平民なのだから。

 これから事件を解決しに行くとは伝えられず、騎士たちの手が空き次第ノルマンド子爵家へ帰ることと耳が聞こえるようになるまで学園を休むことを伝えると、早く戻って使用人たちに指示を出さなければと夫人が涙を拭ってやる気を見せる。

 先に馬車へと戻る夫人と、まだアレイヤに何か言いたそうに留まる子爵。

 アレイヤは指先を振って光の文字を走らせた。


『戻ったら、お手紙でやりとりしましょう。以前、レオニール王子殿下に宛てた手紙に描いた絵を気に入ってくださっていましたよね?』


 あんな落書きでいいのかと不安もあったが、子爵は目に薄く涙を浮かべて何度も頷いてくれた。

 そうだね。手紙ならば何度も読み返せるし、いいアイデアだ。

 そう唇が動き、ホッと表情が緩む。

 まだまだぎこちない親子関係も改善した方がいいのだろう。

 ノルマンド家はすでに一人、子を亡くしている。アレイヤが何度も大怪我を負うのを見て受ける精神的ダメージは計り知れない。

 疲れの滲む笑顔を見せ合って、ノルマンド子爵も帰って行った。

 護衛を務める騎士が扉を閉めて、部屋にはアレイヤと騎士三名とクロードだけになる。

 小さく溜息を吐いたアレイヤは、部屋の中にいる全員が自身を見ている視線に気付いて曖昧に笑った。


『親不孝な娘なんです、私』


 騎士団の面々から「光の姫君」なんて大それたあだ名を付けられているくせに、属性魔力のせいで引き取らざるを得なかった娘を受け入れたノルマンド家に心配ばかりかける馬鹿な娘。アレイヤはそう自己評価するしかなかった。

 休みの日には受け入れる大きな理由となった、不幸な事故で亡くなったノルマンド子爵家直系の息子の墓参りをして、することがないからと勉学に集中して学年首位に立ったはいいものの、生まれが平民だからという理由だけでイジメに遭っている。

 義理とは言え両親に相談もせず、手を差し伸べてくれた公爵令嬢に甘えて。

 振り返れば優秀とは程遠い行動ばかりの親不孝者だった。

 無理を言って学園の寮に住み、生まれ故郷への帰省も許可をもらっているのに断っている。実の両親に対しても親不孝者である。

 向き合う勇気のない憶病者だ。

 はは、と明らかに無理をして笑うアレイヤに騎士たちは口を噤んでしまう。

 その中でただ一人だけが前に進み出る。

 その人物――クロードは手に持った黒板に文字を書きこんで見せた。


『大丈夫です』


 意味が分からずにきょとんとするアレイヤに、クロードはさらに黒板に文字を続ける。


『人の子は大体が親不孝者なんですよ』


 さらに意味が分からず、首を傾げる。


『特に騎士団の方々の半数近くは親不孝者です』


 にこにこと得意気に黒板を掲げられ、アレイヤはさらに首を傾げた。

 騎士団なんて立派な職業に就いているのだから、誉でこそあっても親不孝とは縁遠いのではないかと護衛に付いてくれている騎士の面々に視線を移す。

 アレイヤの視線に気が付いた騎士たちがクロードの黒板の文字に目をやると、総じて苦笑を浮かべていた。

 そうか、と正解を伝えられなくても察しがつく。

 騎士団は護衛が専門の仕事ではない。

 戦に挑むことが本業の人たちだ。

 国境沿いを見張りいつ攻撃を仕掛けられても対応できるように今でも目を光らせているのだ。

 戦火で命を懸けて王族や国民を守ることが騎士団に所属する人たちの使命だ。

 確かに誉と誇りの職業ではあるが、彼らの親からすれば親不孝と意識しても無理はない。


『私なんてまだまだでしたか』


 そう光の文字を流せば、空気が緩んだ気配が感触で分かった。

 苦笑していた騎士たちも、騎士同士で顔を見合わせては笑っている。

 それぞれがそれぞれに「親不孝」を認識して理解しているのだろう。誰も悲観してはおらず、むしろ必ず生き続けるという意志さえ伝わってきた。

 無意識に一人でうだうだと後ろ向きに考えてしまっていたが、こうしてアレイヤよりも年上の大人たちが総じて誰かの子どもの顔になって親を困らせていると自覚している顔を見ると、気が抜けた。

 全身に入っていたらしい余計な力が全部。


 ――よし、じゃあ……犯人を明らかにしに行きましょうか。



+++++



 音を消す術はいくらか存在するが、一番手っ取り早いのは音そのものを止めてしまうことだ。


「       」


 アレイヤが部屋に入ってしばらくして、椅子に座っていたその人は口を大きく開けて何かを言っているが何も聞こえず、口の動きからして言葉にならない音を発しているらしいと分かる。

 きっと言葉にならない声で叫んでいる。

 念のために後ろを振り返ってみるが、誰もが目を閉じて耐えているような顔をしていた。耳を塞いでしまいたいができないといったような。

 叫び声らしき口の動きをしているのがもう一人。

 そちらは涙まで浮かべているが、やはり何を言っているのかは聞こえない。ただ、「ウィルは何も悪くないんだ」という口の動きだけはかろうじて理解できた。

 短時間でも読唇術というのはある程度は習得できるらしい。

 平民校舎生徒会メンバーであるウィリアム・キルシュとソレイル・ダレンの二人は今、魔導研究所の一室に用意された二脚の椅子に座らされている。

 アレイヤは二人の前に立っているが、二人は椅子から立ち上がりたくてもできないでいる。

 騎士団には色々あるのだと簡易的すぎる説明で納得するしかなかったが、特に知りたいわけでもない。


『光魔法――カッコいいポーズ』


 わざわざ声を出さなくても魔法を発動できるのは助かるが、突然謎のポーズを見せられて体がさらに動けなくなると驚くだろうからと文字を出してから魔法を使ったのだが、完成したのは謎のポーズをして光る女と題名のように添えられた魔法の名前だった。

 アレイヤを見ている全員に魔法がかかるので見張りとして立っている騎士の動きも止めてしまうので、すぐに魔法を解く。

 聞こえはしないが誰も話している空気を感じないので、そのまま光魔法の文字を並べた。


『私の耳が聞こえなくなった原因が分かりました』


 宙に浮く光の文字の存在に平民の二人の目が大きく見開いた。

 そう言えばアレイヤは光の魔力を持つ存在だと説明したのだったか、していないのだったか。

 大きすぎる驚きを受けながらも文字を目で追うのが分かる。柔軟な対応ではなく反射的な行動だろう。文字があれば読んでしまう。生徒会役員の性か。

 冷静さは取り戻せていないかもしれないが、このまま文字で説明を続けるか、と指を振る。


『恐らく犯人は、私がここまでの重傷を負うとは思っていなかったことでしょう。騎士団の皆様が回収した爆発物の内容を聞かせていただきましたけど、明らかに過剰な出来でした』


 正しくは「聞いた」のではなく「報告書を見せてもらった」なのだが、基本的に耳は聞こえて生活していたので普通に「聞いた」と書いてしまった。だが、ここにそんな上げ足を取るような愚か者はいない。平民でも王立学園の生徒会役員だ。水を差したりしない。

 アレイヤを襲った爆発物の正体は前世で言うところの「スタングレネード」である。

 音と光で相手の聴覚と視覚と一時的に封じる軍事アイテムだ。

 スタングレネードをこの世界でどう説明したものかと悩んでいたが、普通に内容物と起こる結果をそのまま説明することにした。スタングレネードという名前でどういう効果があるのかが分かるのは、地球での前世を持つ人間だけだから。

 ちなみにアレイヤは前世で読んだ漫画でスタングレネードを知った。

 推理モノでネタバレが多すぎてどう説明すればいいのか困る少年漫画だ。義理の姉に想いを寄せる男子高校生が主人公で、失踪した兄にやれやれしている料理上手で推理もできる万能なキャラクター。早めに登場するピアニストのキャラクターがアレイヤは好きだった。

 主人公もピアノは得意だったけれど。

 それはさておき。


『金属の入れ物に様々な鉱物を詰めて作られた爆発物が、私の聴力を奪った原因です。ですが、これ以上のことは私には分かりません。誰が仕掛けたのか。狙いはそもそも私だったのか、それとも』


 王族のレオニールだったのか。言わなくても伝わったと顔を見れば分かる。

 まだ他の平民校舎を利用している誰かの可能性もあったかもしれないが、前日に同じ場所にいたのに無事だったことを考えると、仕掛けられたのは貴族校舎生徒会が訪れた一日目の後から二日目の昼前まで。

 なら、狙いは明らかに貴族校舎生徒会の三人の内の誰かに限定される。

 特に前日も学生食堂前の花壇にいたアレイヤの可能性が高い。次の日も同じコースをと勧められ了承したのだから。

 顔を青くして呼吸さえ忘れている二人に少しだけ微笑んで文字を綴る。


『いえ、きっと狙いは私だったと思います。何を引き金にされたか分かりませんが、犯人は私を害すとお決めになったはず。レオニール王子殿下を襲えば犯人自身のみならず、平民校舎すべてが消えてなくなるでしょう。犯人はそこまで望んでいなかったと思います』


 だから、一日目ではなく二日目にスタングレネードを置いたのだ。

 次の日もアレイヤが来ると知ったから。


『動機は……初めて顔を合わせた時の先輩方の顔色から察するに、これまでの貴族校舎側の生徒か役員に対する鬱憤晴らしでしょうかね? それは本当に申し訳ないと思っていますし、恨むのも当然でしょう』


 貴族至上主義の理念は本当に厄介だ。

 徐々にウィリアムの態度が軟化したと思うが、理由は貴族なのに平民の食事が気になると言ったからだろうか。次いでソレイルの態度もアレイヤが紅茶を淹れてから微妙な変化があった気がする。絆されてなるものかと気を張っていたようにも見えたが、実際のところどう思われていたのだろうか。

 生徒会以外のところでも貴族から嫌な思いを受けたりしたのかもしれない。

 優しい貴族もいるなんて想像できないような思いを。

 アレイヤは二人の――主にソレイルの心を推し量ろうとしたが、それよりも二人が何かを訴えようと大きく体を動かして叫ぶような口の動きをしているが、まったく何も聞こえない状態では狼狽えることしかできない。

 椅子から立ち上がれないから身に危険が及ぶ可能性はないものの、何を言われているのか分からないままでは焦りも生まれる。

 耳が音を聴こうとしているのか、痛みも出てきた。

 耳に痛みを起こると、次いで頭痛も起きる。

 酷くはないが、無視をするには厳しい程度の痛み。

 だけど、状況的に耳に手を当てると聞く気がないとみなされて貴族への嫌悪が悪化する恐れがある。

 痛みが段々酷くなってきて耐えられそうになくなってくると、肩に温もりが乗った。

 誰かの手が、アレイヤの肩に乗せられている。

 レオニールが、王族らしい不敵な笑みを湛えてアレイヤの隣に立っている。


「後は任せてくれ」


 そう言ったのだろう唇の動きを、しっかりと見た。



+++++




「アレイヤはまだ耳が聞こえていないんだ。そう捲し立てても意味はないよ」


 アレイヤを後ろに下がらせたレオニールは、代わりに自身がウィリアムとソレイルの前に立った。

 遅れて来るのに慣れてはいても、友人が罵声ではなくても大きな声で責め立てられているような環境に長く置いてしまったかもしれないと思うとやるせない。

 二人がアレイヤに言っていたのは以前までの貴族校舎側の生徒会に対する恨みがあっただけで、今の生徒会に恨みはまったくないという内容。その声を聞けただけで現在生徒会長の任に就くレオニールは気が楽になったが、それは別件だ。


「……さて、今しがたアレイヤから爆発物の正体について教えてもらったと思うけれど、ここからは入手経路について話していこうかな」


 騎士が用意した椅子に座る。

 王宮の敷地内だから学園内でのやりとりを持ち込むと不敬罪が適用されることは当然理解しているだろう。レオニールが現れてから二人は最初に目が合って以来顔を下げたままだ。

 頭を上げさせる権限を持つのが自分だけだと分かっているからこそ、許しは与えない。

 アレイヤを傷付けた人間に自分の顔を見せる理由なんてない――と言うと狭量だと思われるだろうが言わなければ何を言われることもない。


「鉄製の入れ物は特殊な形状から職人の関与が疑われるが、まだ捜索中だ。だが、材料である鉄それ自体はどこにでもあるありふれたもの。誰にでも入手可能なものだったよ」


 視線を二人から離さずに右手を出せばまとめられた資料が渡される。

 見なくてもここまで一緒に来たノーマンだと分かっているし、資料のどこに何が書かれているのかも本当ならわざわざ見るまでもなく覚えているが、分かりやすく証拠を掴んでいると見せるのも大切なパフォーマンスとなる。


「誰にでも入手が可能ということは犯人特定に至らないと考えるかもしれないが、逆に言うと貴族が犯人である可能性が低いことを意味すると思わないか? まぁ、犯行現場が平民校舎の時点で貴族に犯人がいるとは考えていないのだけれどね」


 平民は貴族に対して嫌悪感を持っていることはレオニールも分かっていた。すべてを話さなくても二人の――特にソレイルの態度が肯定を示している。


「……そろそろ頭を上げていいよ。質問にも答えてもらわないといけないから発言の許可も与えよう」


 そう言うのと同時に、足を組んだ。顔を上げた二人の平民の顔が恐怖に歪む様が見られるかと思われたが、意外にもウィリアムは疲れた表情をしているだけ。

 先ほどからウィリアムは割と落ち着いているようでもあった。

 逆に、ソレイルはずっと動揺していた。


「僕らの訪問は事前に知らせていたからね。どこを通るかはその日にならないと分からなかったと思うけど、不特定の誰かを狙ったものではないとアレイヤは言っている。その判断を支持するよ」


 犯人は爆発物を事前に用意することができた。

 このことから殺意の有無は別としても危害を加えようとしていたことは明白。

 平民のくせに貴族に危害を与えるなんて、と貴族至上主義者たちはそれだけで憤るのだろうが、レオニールはそれだけで憤ることはない。貴族も平民も関係なく、人が人に危害を与えようとすること自体が間違っているのだから。

 そんなことよりレオニールが許せないのは、狙ったのがアレイヤ・ノルマンドだったことだ。

 友人が理不尽に傷付けられて、怒りを抑えるのがこれほど大変だと久しぶりに思い出した。

 王族たるもの感情を態度や顔に出さないように訓練して常に平静状態を見せられるようになってはいるが、心の内では人間らしい感情を残している。

 他の誰かならここまで怒りを覚えることはなかったかもしれない。


 アレイヤだからだ。

 アレイヤだけは駄目だ。


「……はは」


 思わず笑い声を漏らしたレオニールにウィリアムが真っ直ぐに疑問の目を向けた。

 すぐに視線に気付いてウィリアムをちらりと見やると、ウィリアムは一瞬慄いたものの、目を逸らさなかった。

 ふうん、と感心してしまいそうになるのを堪えるも、わずかに笑ってしまうのだけは出てしまった。いつだって笑みを浮かべていれば他者は勝手に恐れてくれるから。


「そうか。そういう変化を見逃さないことも大事なのか」


 誰かに話しているようには思えないが、独り言にしては大きい声のレオニールにウィリアムは本当に学園の生徒会室に訪れた王子と同一人物なのかと自身の目を疑った。

レオニールの言う通り、貴族に対して悪感情しか持たない平民ばかりになってしまった平民校舎生徒会だが、ウィリアムはまだ希望を捨てきれていなかった。

ウィリアムだけは、だけれど。

 そんな内心の独り言を見透かしたようなレオニールの目がウィリアムを捕らえて細められる。

 どこか楽し気に見えるのは、敵意を感じないからだろうか。

 実際、レオニールはウィリアムに敵意は向けていなかった。


「ウィリアム……先輩。貴方には後程別の問いをさせていただきたい」

「は……」

「あれ、違ったかな? アレイヤは君に敬意を表して「先輩」と呼んでいたと報告があったのだけど」

「い、いえ、ノルマンド様は貴族や平民関係なく、上級生だからと仰せに……」

「そうだね。アレイヤはそういう子だからね。生まれが平民だからと卑下するけど、その心は聖女にも相応しい」


 口元に人差し指を当てて、アレイヤ本人には内緒にしてほしい旨を伝えると、ウィリアムは驚いて目を丸くしたが、ホッとした表情になった。生徒会室で会った気さくな生徒会長と同一人物であると納得できたらしい。


「うん。やはりあなたは今回の件に関与はしていないようだ」


 父である国王は顔を見れば大体の性格が分かると言う。本当かどうか定かではなかったし、デタラメだとしても構わないと思っていたが、本当のことだった。

 経験をしてみなければ納得も理解もできないと知ってはいたが、いざ経験してみると実感が伴うだけあって理解度が高まる。

 だからこそより鮮明に浮かび上がる。


「で、君は知っているわけだ?」


 ウィリアムにずっと合わせていた視線をソレイルに向ける。

 顔を上げていいと言われたからには下げるわけにいかなかったのか、冷や汗にまみれた青い顔は今にも気を失いそうだ。

 レオニールに直視され、ガタガタと震えだす。


「ああ、安心してくれていいよ。君は実行犯ではないと分かっているから。犯行当日に中止を呼び掛けたようだね。ただ……それでも同罪だと言わざるを得ない」


 犯行が行われると知っていたんだからね、と低く冷たい声にソレイルの目に涙が浮かぶが、奥歯を噛んで耐えた。


「随分見くびってくれたものだよね? 生徒会役員がたった二人なわけがないというのに」

「そ、それはっ」

「ウィリアム先輩、あなたは他の役員も貴族に対して反感を抱いていることを知ってはいても、何を企んでいたかまでは知らされていなかったはずだ。そうでなければ簡単にこちら側に理解を示すはずがないからね」


 理解というにはアレイヤの功績が大きすぎる気はするが、ここで言及するには危うい内容なだけにレオニールはわずかに後方に意識を向けるだけに留めた。


「体調不良や予定が合わない、もしくは貴族と顔を合わせたくないなんて理由以外を聞いていたのなら、今ここで聞くが?」

「…………申し訳ございません。体調不良なら考慮しましたが、それ以外の理由ではと却下したのですが」

「生徒会全体の見直しが必要ということか……。アレイヤがしばらく休みになってしまうから長引いてしまうな。分かった。両校舎生徒会の人事見直し案を急務としておこう」

「ほ、本当によろしいのですか? だって、まさかそんなことを言われるなんて……」

「これが本来の生徒会長じゃないかな。……話を戻すけど、生徒会役員はあなた方二人以外にもいるね? ああ、もう調べはついているから答えは求めていないのだけど」


 報告書の書面を軽く覗き込んだレオニールは位置を確認すると「ほらここ」と二枚ほど捲ってから掲げて指で差し示す。

 一枚目には爆発物の調査報告の内容。二枚目には平民校舎の校内地図。飛び散った爆発物の破片の回収地点とアレイヤや騎士たち、ウィリアムの倒れていた位置が記されていた。


 そして三枚目には――


「犯人は、今この場にいない生徒会役員全員だ」


 平民校舎生徒会役員の残りメンバーの名前と住所、家族構成と学園での成績――魔力を持っている場合は、その属性まで。

 アレイヤに手伝えと言われて内容を聞いてみれば、残りの生徒会役員について調べるようにとのことだった。理由もなく伝えられない内容だけに最初から騎士を派遣するわけにもいかず、そういうことならとノーマンがドルトロッソ家の私兵を投入した。

 ドルトロッソ家の私兵の調査によると、残る生徒会役員は会計と庶務が二人の合計三人。いずれも貴族に対して悪感情を持った平民で、庶務の一人は土属性の魔力を持っていた。

 平民の持つ魔力はアレイヤのような特殊な例を除けば微々たるものだ。その微々たる魔力を駆使して光と音の爆発物を造り上げた執念はレオニールもほんの少しだけ感心したものだ。ただし、魔力を使いすぎて現在は寝込んでいるらしい。

 会計ともう一人の庶務は魔力回復薬を買うために今日もアルバイトをしているとか。


「騎士たちはもう派遣済みでね。合図を出せばすぐに突入する」


 王宮騎士団の派遣はやり過ぎと言われるかもしれないが、王子であるレオニールを対する不敬と言える態度を取られたからには容赦などできない。容赦してしまえば次は貴族たちから舐められてしまう。


「土属性の魔力で本当にアレイヤを襲った爆発物が作られるのかの検証も済んでいる。強い光と音を発する鉱石を発見した功績を認めてあげたいところだけど、残念ながら悪意を持って使われたものを認めることはできない」


 深夜にノーマン自ら適正はあっても得意魔法ではない土属性の魔力で検証してくれたものだ。ほぼ似た状況での使用だから反論されても困らない。

 言い逃れすら許さない相手だと強く理解しているからか、ソレイルはほとんど気絶したような顔になっていた。


「……こんなものか。アレイヤみたいに上手くできないな」


 貴族に好意的な印象を持ってくれたウィリアムが犯人ではなくてよかった。とレオニールは深くて長い溜息を吐いた。

 王族たるもの、自ら前に出て犯人を指摘したりするような真似は本来しなくていい。安全なところから命令するだけで済むからこその王族とすら言える。


「じゃあ、ウィリアム先輩はこのままここで療養を続けるようにしておいてくれ」


 王族らしく最低限の命令だけをして椅子から立ち上がり、振り返ってアレイヤに歩み寄った。


「探偵って難しいんだね」


 医務官見習いのシリルに寄り添われているアレイヤの視線が口元に注がれているのを意識しつつ肩を竦める。


「アレイヤみたいにスマートにできなかったよ」


 苦笑した自分の顔面に気が付いて、アレイヤはまだ聞こえていないんだったと思い出した。だが、アレイヤは優しく笑った。


『カッコよかったよ』


 レオニールだけに見えるような位置に小さく表示された光の文字に、呼吸が一瞬だけ止まる。

 アレイヤはレオニールの後ろ姿しか見えていなかった。ゆえにレオニールがどんな言葉と表情を使ったのかなんて知りようがなかったはずだ。シリルもアレイヤに伝達する暇もなく治療を行っていたようだし、ノーマンもレオニールに資料を渡す役を持っていたためにアレイヤに集中できなかった。

 アレイヤの言葉は半ば適当感を含んでいたのも間違いはない。

 聞こえてもいないのに、誰からも教えられていないのに、これを言っておけば間違いないだろうとでも考えたのだろう。

 だとしても、褒め言葉としては何よりも最強だった。


遅くなりました……色々ありすぎて我ながら下手だなぁと嘆くばかりです。

次回はいつものごとく事件後のエピローグを挟んでから次章になるかと思います。

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