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夏休みの訪問1

「うわ、ああ……」


 アレイヤは目の前に聳え立つ建物に目を輝かせた。

 大きい。あまりにも大きい。

 堅牢な王宮かと思える様相に、しばらく足はその場から動かなかった。



+++++


「ごきげん麗しく、アレイヤ様」

「ごきげんよう、ノーマン様」


 レオニールと初めてのアルコールを嗜んだ日から三日後。

 王城から手紙が届いた。

 そこからさらに十日後、王城からのお迎えとして現れたのは、ノーマン・ドルトロッソだった。

 宰相を目指すからと父親である宰相の小間使いとして忙しくしていると聞いていたが、と本人に直接問えば、「これも小間使いの一環でして」と明るい笑顔で答えられた。

 宰相の小間使いというより、王子の小間使いじゃないのか? という疑問は口には出さず、ノーマンのエスコートで馬車に乗り込んだ。


「一介の子爵令嬢がこんな好待遇……本当に大丈夫なんでしょうか?」

「あなたはご自身を「一介の子爵令嬢」と言いますが、国視点では貴重な「光属性の魔力保持者」ですからね?」


 短く溜息を吐いたノーマンに何も言い返せずに黙ってしまう。

 前世関係なく元平民であるアレイヤにとって、「貴重な存在」という立場は現実味がない。

 何せ王族と関わっているからと学園内で襲われ続けていたのだ。

 魔力属性関係なく敵意を向けられていれば、自身の希少性など忘れ去ってしまう。


「それに好待遇とは言いますが、レオニール殿下の視察に同行するなら当然の配慮でしょう。殿下がいらっしゃればもっと手厚い護衛が付きますよ」

「……確かに、そうですね」


 しかもこれから向かうのは王子の家――王城だ。正しくは王城ではなく王宮内にある騎士団の演習場なのだけれど。

 馬車に揺られながら、会話はこれまでの夏休みの間に何をしたかについて。ノーマンはほとんどが王城内での話だった。その中にはレオニールの話もあって、レオニールの時間を捻出するためにノーマンが奔走した話までされた時は項垂れるしかなかった。


 王族だからといって優雅に時間が余っているわけではないと思い知る。


 生徒会業務を一人で回しているのは問題しかないのではないかとつい漏らしてしまうと、ノーマンもその点については懸念事項なのだと返ってきた。宰相業務の手伝いの方が優先度が高いからと言い含められてノーマンは王城に通っているらしく、役員ではなくても手伝うと言ってしまったからには休み期間中に何度か学園に行く必要が出てきてしまった。


「アレイヤ様も生徒会に勧誘されたんですね。まぁ、順当ですが」

「ゼリニカ様がおられたら、素直に参加させていただいたのですけれど」

「……想像できますね」


 くす、と笑われて、その顔があまりにも素敵で、直視を続ければ顔が赤くなると分かったからアレイヤは思いっきり顔を背けた。

 まったく、今日も今日とて顔がいい。


「殿下曰く、正式な役員ではなく平民校舎側の生徒会との橋渡しとしての採用だそうです」


 かなり適当な理由付けでしかないと思うが、現状一人で生徒会業務をこなしている姿を見てしまうと、手伝えることがあるなら……と絆されてしまった。


「あちらの副会長はかなり手強いと聞いています。彼が優秀でよかったと、今なら素直に言えますよ」

「ご存じなんですか?」

「まぁ……二代前の生徒会長に付いていた時期がありますから、多少……というか、会長に変わって打ち合わせに行ったことが、ね」

「……お察しします」


 ノーマンが生徒会役員になったのは今回が初めてのはずだ。二代前――言わずもがなアルフォン会長時代に仕事を回されたのだろう。

 役員でもない貴族の生徒が打ち合わせに現れたとなれば、随分舐められたものだと最悪の印象を与えたはずだ。


 アレイヤも、正式な役員ではないのに関わろうとしている。


 ノーマンのように一人で会いに行くことはないだろうが、すでに不安に襲われた。

 王宮前に到着すると騎士たちに出迎えられた。見知った騎士の姿はなかったが、あまりの多さに思わず引いてしまう。これも王子一人のために呼ばれた護衛らしい。いや、王子の友人としての自分たちの護衛も兼ねているからこその人数なのだろう。馬車を下りてレオニールが来るのを待つ。

 ほとんど待つこともなく現れた王子は、騎士ではない人たちを背後に連れていた。

 服装からして文官と思われるが、会話はしていない。

 ノーマンとタイミングを合わせて頭を下げて迎える。


「やあアレイヤ、よく来たね。ノーマンもありがとう」


 頭を上げるように指示されて、ゆっくりと頭を上げる。いくら友人関係を強調されたとしても守らなければならない決まりはある。目が合った瞬間に悲しそうな顔を見たとしても、覆せない。アレイヤの爵位が高ければ免除もされるかもしれないが、今のところはまだまだ「子爵家の令嬢」でしかない。

 さっと切り替えたレオニールは、力強く一歩目を踏み出して馬車に乗り込んだ。

 ここから騎士団のいる場所は、同じ王宮内と言えど遠いらしい。

 馬車に乗り込み、扉を閉められてからレオニールの切り替えの早さの理由を知った。


「ふう」


 小さく吐き出された溜息が、さらなる切り替わりポイントだと分かりやすく示される。


「平民校舎の生徒会との段取りは、休み期間中にさせてもらうことになったよ。休みの最後の方だから、まだ先だけど」

「学園が再開されると、校舎間の移動も大変ですからね」


 レオニールの肩の力が抜けたと見るや、ノーマンの口調も少し砕ける。


「ということは、その日までに副会長と会計の候補を探しておくべきかな?」


 アレイヤもノーマンに倣って言葉を崩す。そう言えば、ここにいる三人は生徒会役員と補助メンバーだった。


「うーん……会計は商会の子息から見繕いたいんだけど、副会長の候補がなぁ」


 貴族校舎はその名の通り、爵位を持つ家柄の子息令嬢が通っている。しかし、爵位はなくとも裕福な商会の子も、ひっそりとした人数だけだが存在している。そういった生徒は下位貴族――男爵家や子爵家の生徒と一緒に過ごすことが多い。

 つまり、貴族至上主義とは無縁の、アレイヤにとっては無害な生徒だと言えた。

 逆に副会長は会計のように家柄から見繕うことは難しい。副会長。会長を支える立場であり、次期会長と注目される可能性の高い役職である。


 普通――前世日本の生徒会から考えれば次期会長となることを見据えて副会長を選ぶのであれば、今の一年生から選ぶのが自然だろう。なのだろうけれど、現生徒会長のレオニールがまさしく副会長の席に座っていた一年生だ。だから会長と副会長が同じ学年で構成されるのはかなり不自然な形になる。


 来年も問題がなければ、レオニールが会長続投なのだろうし。


 では、副会長に相応しいのは……?


 三人で頭を悩ませている間に馬車は騎士団のある場所に到着した。

 結論が出ない内容をいつまでも考えていても仕方ない。とりあえずは用事を済ませて見学させてもらおうと馬車を下りたアレイヤは、目の前の光景に思わず声を上げた。



+++



 騎士団の演習場は王城から離れたところにあった。林を挟んで隣には魔法研究所もある。その二つは有事の際必要だからと王城の中に詰所が用意されていて、アレイヤは一度その詰所に入ったことがあった。

 そこであった人物が、演習場でわざわざ出迎えてくれていた。

 いや、王子がいるからなのだが。


「出迎えご苦労。騎士団長、副団長」

「ようこそおいでくださいました。騎士団一同、歓迎いたします」

「ドルトロッソ様もノルマンド様も、ようこそ騎士団へ」


 レオニールが言葉をかけて、続いて団長、副団長が返してくれる。

 前回は侵入者を撃退した時の様子を伝えないと、と緊張していたからちゃんと聞いていなかったけれど、騎士団長と副団長の声が良い。


 低くて、だけど遠くまで響く声をしている。


 戦闘中でもきっと指示がはっきりと聞こえるだろう。というか、遠くまで指示を飛ばしていく内に作られた美声だと思われる。

 詰所で対面した時は任務中だったからなのかもしれないが、威圧感があったけれど今はない。

 自分の倍の身長があるんじゃないかと感じてしまうほどの存在感だけはどうにもならないらしい。

 団長が先導し、副団長が一番後ろに回って護衛を固められながら騎士団の内部をざっと案内される。


 訓練室。

 射撃室。

 食堂――をスルーして会議室。会議室へ行く前に、食堂の隣には騎士たちの寄宿舎があったが、そこもスルーされた。


 一通り見学をさせてもらった後は、アレイヤに関わりのある騎士のいる場へと誘われた。アレイヤの目的は騎士団長に伝えていないから、これは単純に気配りの一種だと捉えた。

 最初から長居するつもりはないし、騎士団演習場と魔法研究所が近いと知ってからは研究所に足を延ばせたらいいな、と淡い期待を持っている。


「殿下、ドルトロッソ様、ノルマンド嬢、ここまでで気になるところはありましたでしょうか?」


 後ろを歩く副団長が柔らかな口調で尋ねる。クセのある黒髪の副団長に聞かれてレオニールは視線だけでアレイヤに返答を譲った。ノーマンも興味ありそうな目でアレイヤを見ている。


「どこも気になりましたけど、射撃室は次の機会があればじっくりと見せていただきたいと思いました。てっきり屋外でするものだと思っていたので、屋内だったのが意外でした」


 案内された時、驚いた顔を隠せなかった。

 前世、刑事ドラマや名探偵アニメで見たものに近い設備が目に飛び込んだ。

 耳栓をした騎士たちが銃を構えて、離れた位置にランダムで起き上がる的に向けて射撃訓練をしていたのだ。

 跳弾や発砲音のことを考えれば屋外で行う方が安全なはずなのに。


「着眼点がご令嬢とは思えませんね……」


 笑顔を浮かべたままつい零れたらしい呟きに即座に「失礼いたしました」と謝罪しつつも、副団長の言葉にレオニールが得意げに笑った。


「面白いだろう、アレイヤは?」

「ええ。光の姫君の話は騎士たちの会話から漏れ聞いた程度ではありますが、不思議なお嬢様のようですね。それに見目も愛らしい。騎士たちが話題にするのも頷けます」

「……褒めていただき、ありがとうございます」


 乙女ゲームのヒロインのキャラデザなのだから可愛いのは当然――と他人事としてなら言える。残念ながら中身がヒロインとはかけ離れているために、素直に真正面から受け止められなかった。

 ノーマンが深く頷いているのに対し、レオニールはギリギリのところで大笑いしてしまうのを堪えていた。



 失礼な王子である。


先月からプライベートでコロナ禍でしか知らなかったものが全部コロナ前の状況に戻った関係で知らないことだらけの中奔走しておりました。

自分でも何言ってるのか分からないくらいに戸惑いと疲弊でこんがらがっております。

素人のくせに更新頻度が遅くて申し訳ありません…。


たくさんのいいね、評価、ブックマークありがとうございます!

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