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魔法実技試験事件5

「あなたに責任は何一つありません。侵入者を許した我々騎士団の責任です。むしろ、我々の仲間をお救いいただき、感謝申し上げる」

「い、いえ! あの、本当に、騎士のお二人や町の人が無事でよかったです、はい!」


 突然王城に呼ばれたかと思えば騎士団の詰所に招かれたアレイヤは、目の前の二人に終始緊張していた。

 詰所の中の、大会議室と呼ばれる広い部屋。

 部屋のほぼ中央に立つアレイヤと、目の前に並ぶ長身の二人。知っている団服よりも重厚な作りのそれだけで立場が上であることを示していた。


 王立騎士団、団長と副団長である。


 大会議室の壁にはギルベルトとルーフェンの二人が並んで立っている。報告した二人が同席している理由には納得できるが、さらに恐縮しているのはここにレオニール第二王子とノーマンにゼリニカ。学園からクロードが呼ばれていること。加えてノルマンド子爵夫妻もいる。


「王子殿下のご助力も大変感謝しております」

「そうかしこまらなくていいよ、騎士団長。僕たちはただ、彼女の身を案じただけだ。彼らの狙いはアレイヤ嬢だったと言うじゃないか」


 レオニールはアレイヤの隣に立つと侵入者たちの目的をさらっと口にした。子爵夫妻が不安な目でアレイヤを見ているのが分かる。


「世界中にいる光属性の魔力を持つ人間の中で最高峰の魔力と噂されているようです。狙われたのは恐らく、それが理由かと……」


 答えた副団長が憐れみの目を向けて来るのを逸らすわけにもいかず受け止めた。

 平民から貴族入りした話は騎士団でも共有されているのだろう。

 波乱万丈な人生になっているとはアレイヤ自身強く自覚している。


「幸い、国家単位での策略ではなく没落間近の貴族の仕業のようです」

「抗議文は国王陛下から正式に送られたのを確認したし、この問題は解決と見ていいのかな?」


 侵入者たちは魔法によって負傷していたが事情聴取が可能な程度だった。騎士団長と副団長は肯定の返事をすることで無事に収束を果たした。

 本題はここからだとばかりに、団長と副団長の目がアレイヤに再び向けられた。


「アレイヤ・ノルマンド子爵令嬢。貴女を狙う国は多い。これまでにも光属性の方には護衛を付けることはありました。そこで学園内外にあなたの護衛を付けることを提案いたします。いかがでしょうか?」


 ――なるほど。だからノルマンド夫妻が一緒にいるのか。


 義理の娘が他国から狙われていることを知らせるために。多分、預かると決まった頃にも確認されているのかもしれないが、護衛が必要なほどだと騎士団が言うと重みが違って聞こえる。

 すでに騎士団の護衛を受けたことがある身からすれば、特別待遇はもう勘弁してほしい気分でしかないけれど。


「ノルマンド嬢と顔見知りの二人を付ける予定です」


 団長の声に壁際に並んでいた二人の騎士が前に出る。

 赤と青の髪を持つ、一見するとコンビのような二人。

 ギルベルトとルーフェン。


「え、っと……」

「学園内の方もご安心ください」

「ギルベルト・フォースター様は隊長に任じられていると聞き及んでおりますが……」

「本人から聞いておられましたか。ええ、護衛としてこの上ない人材ですよ」


 団長が胸を張る。副団長も得意げな笑みを浮かべている。ギルベルトもルーフェンも表情は変わらないままだ。

 隊長のギルベルトの実力は当然として、ルーフェンの護衛の任務に慣れている様をアレイヤは目の当たりにしたことがある。お嬢様扱いをする姿に王子様みたいだという感想を抱いたことも覚えている。

 にこにことアレイヤの緊張を解そうとしているらしい騎士団長の笑顔にアレイヤは委縮し続けていた。


「遠慮させていただくことは、可能ですか……?」


 やっとの思いで口にした意見に、騎士団長も副団長も、そしてノルマンド子爵夫妻も目を丸くした。

 アレイヤの人となりを知るレオニール、ノーマン、ゼリニカ、ルーフェンの四人は同時に口端を上げた。

 恐れ多すぎて断る以外の選択肢がないアレイヤの助け舟を出したのは、四人と同じくアレイヤの性格をよく知るクロードだった。


「騎士団長殿、ノルマンド嬢はあまり仰々しいことを好みません。学園のある間は寮住まいですし、学園内の行動時はレオニール王子殿下の護衛や衛兵たちもいます。そして学園には僕もおります。護衛と仰るのでしたら、光属性の担当教師として僕が守りましょう」

「それもちょっと」

「そこは大人しく引き受けるところだと思いますけどねえ?」


 反射的に断ってしまい、満面の笑みを向けてくるクロードから顔を背けるアレイヤは、心の中で「だって」と理由を並べる。

 ただでさえ一人行動の多いアレイヤはクロードと一緒にいる時間が授業時間を含め多いのだ。さらにクロードの声に弱いことを知られているせいで嫌がらせのように耳元で重要ではないことを囁いてくる。


 声は好きだ。


 その声帯は愛してやまないと言っても過言ではない。

 ただ、一度生徒と教師の二人を邪推する目や声を意識してしまった以上軽率な距離間を取らないようにしたいのだ。

 許可を取ろうとするクロードと狼狽するアレイヤを見かねて、ゼリニカが溜まらず笑い声を上げた。


「学園にいる間でしたら私たちもおりますわ。それに間もなく魔法実技試験もありますから、先生が一緒に居続けることも難しいと存じます。この話は今決めるのではなく、妥協点を探ってはいかがかしら?」

「うん。ゼリニカ嬢の言う通りだと僕も思うよ。学園内に騎士がいると生徒たちも緊張してしまうだろうし、そこは生徒会長として危惧すべき点かな」


 だからこの話もここまでで切り上げよう、とレオニールもゼリニカを支援する。

 ノーマンはしれっと騎士団長と副団長からギルベルトとルーフェンのこの後の予定を聞き出していた。抜け目がない。

 言葉巧みにノルマンド子爵夫妻を帰したレオニールは、深呼吸をすることで空気を一変させた。


「さて」


 まるで探偵が謎解きを始めるような空気感――ではなく、続いたのは不穏な台詞だった。


「王宮に侵入者が出た」


 騎士団長と副団長どころではなく、アレイヤ以外の全員がその事実をすでに知っていたらしい。

 驚いたのはアレイヤだけだった。


「え」

「残念ながら逃がしてしまったが」と言いながらレオニールは副団長を見る。副団長は目を伏せながら小さく頷いた。

「狙いはまたしてもプリズムだった」

「プリズム……では、研究所にはまだあったんですね」

「研究されているからね」

「狙いは……私以外にはいませんか」

「いないかもね」

「……魔法実技試験、ですか」


 王宮の研究所からプリズムを狙う輩が現れたなら、一度魔力暴走事故に見せかけた事件に巻き込まれたアレイヤを狙ったものだと想定する。近々魔法を大っぴらに使うのは魔法実技試験以外にはない。

 そこまでしてアレイヤを狙う動機もまだ分かっていない。

 犯人が判明すれば芋づる式に分かるタイプの謎解きか。


「それについて学園から一つ提案を預かっています」


 わざわざ挙手をしてクロードが声を発した。環境が変わって聴く声にときめいてうっかり悲鳴を上げそうになったが、無理やり堪えたからか不自然に息を多めに吸い込んだ形になった。

 クロードは目を細めて微笑み、騎士たちは何事かと視線を向けた。

 小刻みに顔を横に振って先を促す。


「先ほど騎士団長殿より城下町の復興の手助けの功績を認められたことを受け、レオニール王子殿下、ゼリニカ・フォールドリッジ様、ノーマル・ドルトロッソ様、そしてアレイヤ・ノルマンド様の魔法実技試験免除の話が出ています。あれだけの魔法力を披露したのですから、試験でわざわざ見せてもらわなくても、ということですね」

「なるほど。アレイヤ嬢が試験をすでにパスしているのなら、プリズムの出番はなくなりますね」

「それだけで町に現れた他国の侵入者たちと学園内でアレイヤ様を狙う不届き者に繋がりがない証明にもなっていますわ。あくまでもアレイヤ様を狙っている勢力は一つではない、のでしょうけれど」


 光属性の魔力を持つ人間が狙われるのはよくあることだと聞いている。

 が、ここまで苛烈なのは例を見ない。


「アレイヤ嬢に危害を加えようとしているのは学園内でのみ。やはり騎士に付いてもらった方が良いのではないですか?」


 ノーマンが話の方向を戻した。


「……私を狙っているというのなら、試験をクロード先生の言う通りパスさせてもらえばいいだけです」

「アレイヤ様が恐れているのは、またも騎士様に守ってもらっているという状況にプライドの高い貴族の子息令嬢たちからの怒りを買うことですわよね?」


 ゼリニカの直球すぎる言葉に濁すこともできずに頷いて肯定する。

 アレイヤの素直な反応にゼリニカは分かりやすく溜息を吐いた。


「いいですこと? 周りは貴族のプライドを曲解してますけれど、貴女は持たなさすぎです。下位とは言え子爵家も立派な貴族。養子とは言え貴女はすでに貴族令嬢ですわ。そこに誇りをお持ちなさい。でなければ……子爵と夫人のお二方が可哀そうで仕方ありませんわ」

「ゼリニカ様……」


 公爵令嬢の言葉には説得力がある。要はアレイヤの心に根付く「平民である自覚」が邪魔をしているのだ。

 前世でも平民として生き、今世も生まれは平民だ。

 まだ一年足らずの新生活で貴族の誇りを持てと言われても難しい。が、ゼリニカは「やれ」と言っている。

 例え、演技でも。


「受け入れなさい。貴女は貴族令嬢で、光属性の魔力を持ち、守られるに値する女の子であることを」

「守られるに、値する……」


 女の子なのだから守られて然るべき、なんて風潮、前世でいつの頃からか問題視された。男の子だって守られていいじゃないか。何が多様性だ、と。

 弱い人間を強い人間が守る。たったそれだけの話なのに男女がどうのとうるさかった。

 その思想が、今のアレイヤの根幹にあったとしたら。


 ――そっか。だから私は癒しの魔法が使えなかったんだ。


 守られる存在ではないと思い込んでいたから。

 守る側だと、そう思おうとしていたから。


「でもやっぱり、方法は考えさせてください」

「アレイヤ様」

「直接守られるのは恥ずかしいので。それに……」


 アレイヤはレオニールを見る。

 魔法実技試験で何かが起ころうとしているのに、逃げるだけなんてフェアではない。

 ここには、アレイヤをライバルと認めた人がいる。


「レオニールと試験の結果を勝負しなければなりませんしね」


 この国の王子を呼び捨てにしたアレイヤに当人たち以外が慌てる。レオニールは小さく笑うと「そうだね、アレイヤ」と名前を呼んだ。


「僕たちの勝負に邪魔ものが入ろうとしている。それだけのことだ」


 やはりレオニール・ラ・リトアクーム第二王子は冷静で、ずっと楽しそうだった。


次回も早めに更新できるかも、と思いきや、半分くらい書いたところで全部書き直しすることになったので少し間が空くと思います。


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