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魔法実技試験事件4

「君はいつも優しい。その優しさは、俺には眩しい」

「騎士として守り抜くと、そう決めたから」

「今だけは君の剣にも盾にもなろう。しかし君は守られるだけは嫌だと言った。なら、俺の背を君に預けよう」

「国王に、王族に、国に、騎士としての忠誠を誓ったというのに……俺は君の、君だけの騎士になりたいと願ってしまっている――愛してる」



 真っ直ぐにヒロインに純粋な愛を向ける攻略対象が、騎士のギルベルト・フォースター。

 素敵な言葉をくれるような恋愛に憧れを持つプレイヤーは多い。


+++



「光魔法――キラキラ」


 じゃない。

 無数の光の粒がアレイヤの頭上に現れ、焦りと動揺が魔力に伝わる。

 有名になったアニメやアプリゲームに登場していた金髪の王様が使っていた技にどこか似ている。

 あれは無限の光の剣だったが、アレイヤが出したのは矢だ。

 無数の矢が、二人の騎士を襲おうとしているたった十五人の侵入者に襲い掛かる。さすがに数が多すぎて周囲のものすべてに降り注いでいた。

 止めることはできない。一度発動した魔法を停止させる方法を知らないというのもあるが、止めたところで騎士たちを襲おうとしている攻撃までは止められない。

 永遠とも思えた攻撃も、魔力に限りがあるからか十分と待たずに終わった。


「アレイヤ様!」

「ルーフェン様、ご無事ですか?」


 アレイヤに駆け寄ってくるルーフェンを待つ。駆け寄る姿にぎこちない部分はない。


「おかげ様で。しかし、なぜアレイヤ様がここに……それよりも先ほどの魔法は」

「質問は後です。あの騎士様がお守りの民間人の保護をお願いします」


 アレイヤの後ろにいる貴族用墓地から一緒に来た騎士に声をかけ、周囲を見渡す。最初の攻撃で物陰に隠れた敵の位置をすべて把握することはまだ難しいが、当たる当たらないの博打ならばアレイヤに分がある。一度使ったからなのか過剰な魔法は簡単に準備態勢で発動できた。

 守っていた子どもを二人の騎士に任せた赤髪の騎士がルーフェンの隣、アレイヤの前に出る。


「貴族のお嬢様。騎士としてあるまじきことではありますが、助けていただきありがとうございます。自分は王立騎士団第四隊隊長のギルベルト・フォースターと申します」

「……アレイヤ・ノルマンドと申します。差し出がましい真似をいたしました。ご容赦を」

「いえ、貴女様の魔法は現状において最も心強いものと心得ております」


 ちらりとギルベルトが向けた視線の先にいた侵入者の一人がやっとの思いで立ち上がり、どうにか一矢報いようと銃口を向けている。

 容赦なくアレイヤは準備体勢の魔法の一部――そこまで器用にできなくて五分の一ほどの、一人相手には過剰すぎる量――が発出された。

 光の矢が無情にもたった一人の敵に降り注ぐ。

 出血は見られず、ふらりと倒れたかと思えば再度立ち上がる気配はない。


「……光魔法は癒しの力だとばかり思っておりました」


 ギルベルトの言葉にアレイヤは苦笑する。


「癒しの力が使えたら、どれほど良かったでしょうか。ところで、彼らはどちらからの? もしかして国内でしょうか?」

「先の任務で赴いた他国からの残党です。気付かず侵入を許した我々騎士団の落ち度です」


 ギルベルトが隠しもせずに歯噛みする。ルーフェンも苦々しい顔を隠そうとはしなかった。

 ゲームのシナリオでも同じ内容だった。

 確か他国の賊の残りで、出自としてはまた別の国だったか。ややこしくてあまり覚えてはいないが、騎士団の落ち度としてまとめるには誤解を生みかねない。

 彼らの狙いは、光属性の魔法使いを生け捕りにすることだった。

 だからギルベルトと出会いイベントを果たしたヒロインが大魔法の会得するイベントに繋がるのだ。

 ヒロインを庇ってギルベルトが大怪我を負う。そのショックから大魔法を発動する。

 今回、ある意味では大魔法とも呼べるべき魔法を発動はしたけれど。


 ――試験には使えないなぁ。


 明らかな攻撃魔法を大勢の生徒の前で発動できるわけがない。

 がっくりと肩を落とすアレイヤにギルベルトが笑顔を見せる。


「お嬢様に救われました。この御恩は必ずお返しするとお約束します」


 騎士の名に懸けて。


 赤髪の騎士は跪き、そっとアレイヤの手を取ると手の甲に控え目に口付けた。

 途端に緊張が走ったが、口付けが離れる瞬間にギルベルトが全身に傷を負っているのが見えた。先の任務の残党を逃がしたと言っていた。ならば、この傷のほとんとは今ではなく他国での任務で付いた傷なのだろう。ルーフェンを見れば彼もまた多数の小さな傷を負っていた。

 あの悲劇はまさか、連続の任務によって引き起こされたものなのかもしれない。

 すべて、アレイヤという光属性の魔法使いを捕らえるためだけに。

 ゲームでも自身で未然に防ぎ、今回も偶然ではあるが未然に防いだ。

 しかし、それだけでは足りない。

 まだ準備段階で留めていた魔法がアレイヤの感情に釣られる。

 五分の一は消費したはずの光の矢が足され、さらに数が増える。

 魔力暴走ではない。制御はできている。


 ただ、感情の抑制ができていないだけで。


「アレイヤ様。どうか落ち着いてください。もうすぐ我が騎士団から援軍が来ます。大丈夫です。貴女が感情を乱す理由はありません」


 優しい声と髪を撫でる手付きにハッと我に返る。

 今何をしようとしていたのかを思い出せない。

 もう一度空を覆うほどのキラキラを発動させようとしていたところは覚えている。そうしようという意志も覚えている。しかし、なぜそうしようとしたのだろうか。

 確認できる範囲の侵入者はすでに鎮圧できている。

 だったら、どうして。


 ――二人の怪我を、見たから?


 いや、そうではない気がする。

 多分、場所だ。ゲームで見た景色、記憶されているイベントの内容、想起されたショック。これらがアレイヤに魔法を使わせた。


 ――トラウマは目の前に起こるまでに植え付けられていたということか。


 画面越しでもトラウマになるほど、この場で起きるギルベルトの悲しいイベントは悲惨だった。

 現実として五体満足で跪いているギルベルトの姿が信じられないくらい、心に刻み付けられていた。

 ふと、さっきの言葉はギルベルトのものではないことに気付いた。

 ギルベルトはまだアレイヤの名を呼べない。許しを出していないから。

 跪くギルベルトとは別に、アレイヤの髪を一房持っている手を目で追いかける。


「……ルーフェン、様」

「様はなくて結構ですよ。騎士ですし、知らない仲でもないでしょう」


 ね、と微笑む知った顔に、アレイヤの気が抜けていく。

 そう言えば、筆記試験の後の夜会で交換したリボンを返していない。


「お二人とも、無事でよかった」


 アレイヤを囲うように展開されていた光の矢は、流れ星のように消えていった。




 アレイヤの魔法によって侵入者たちは全員騎士団に連行された。

 町は数分前と大きく景色を変えていた。

 全壊、半壊とまではいかなくとも、建物の多くが崩れてしまっている。

 光魔法キラキラが攻撃魔法に変わってしまったことに本人が深く落ち込んでしまい、ノルマンド子爵家から連れ立って来ていた従者たちは初めて見るアレイヤの魔法にどう反応していいものか悩んでいる様子だった。

 ギルベルトは応援に来た騎士の命令で忙しくしているがアレイヤの様子を逐一確認しているようでもある。ルーフェンはアレイヤたちの護衛をしてくれていて、こちらもやはりアレイヤを心配するように何度も視線を向けていた。

 人的被害が少なかったから良かったものの、建物への被害の大部分はアレイヤの魔法によるもの。仕方がないとは言え、責任を感じずにはいられない。さらには試験用にと考えていた魔法が攻撃魔法に変わってしまって落ち込んでいるのもある。

 肩を落とすなという方が無理だった。

 騎士の二人が戸惑う仲、さらなる増援が現れた。


「やあ、アレイヤ。君の魔法はやはりすごいね。僕も負けていられないや」

「殿下、ここで試験の話を持ち出すのはいささか不謹慎かと」

「あら、構わないのではなくて? 私たちも負けないほどの魔法を披露しなければならないのだし」

「フォールドリッジ嬢は得意魔法ですからいいでしょう。しかし私は適性の低い土魔法を使うのですよ?」

「おや、ノーマンは適性が低いからって手加減してしまうのかい?」

「そのつもりは毛頭ありません」

「では、問題はありませんわね?」


 聞き慣れ過ぎたと言ってもいいほど、この場にもっともそぐわない三人の声に弾かれるように顔を上げた。

 レオニール、ノーマン、ゼリニカの三人が、強気な笑みをたたえて立っていた。


「試験の前哨戦に相応しい魔法を使った復興作業だ。完璧にしてこそアレイヤに見合うだけの結果だね」


 レオニールの言葉に「はい、殿下」と二人の声が揃う。

 王子と公爵令嬢と宰相の三男はそれぞれ別の魔法を使ったにも関わらず、結果は三人の魔法で形を取り戻していく町の姿だった。

 レオニールの水魔法とノーマンの土魔法で建物を形作り、ゼリニカの風魔法で固めて元あった場所に置いていくといった、言葉にすれば単純な作業。

 しかし、終わってみればレンガや石造りの多かった建物はみな土を練り上げただけの簡素なものばかり。原材料が魔法で操った土と水と風なのだから無理もない。

 完全な復興は後になると分かる完成度だった。


「うーん。雨風をしのげるだけマシ、かな?」


 及第点でいいか、と不満を残す三人に、アレイヤは思わず一歩前に出た。


「きちんと復興が終わるまでの飾りで良ければ、私に任せてください」

「アレイヤ?」

「アレイヤ様?」


 レオニールとノーマンはアレイヤが何をしようとしているのか分からず、ただじっとアレイヤを動きに目を向ける。

 ゼリニカは「何か手伝うことはあるかしら?」と尋ねた。うーん、と少しの間考えを巡らせた後、指を二本立てた。


「派手なのと通常と、どちらがいいと思われますか?」


 二択の内容に一瞬だけ目を丸くしたが、ゼリニカはすぐに意図に気付いた。


「でしたら、派手な方がいいのでは? きっと先ほどのことなんて忘れてしまいますわ」

「ですよね! さすがゼリニカ様!」


 期待通りの返答に笑顔を浮かべたアレイヤは、二本指を立てていた手で指を鳴らした。

 再び頭上に光の粒子が展開される。

 今度は、矢にならずに粒子のまま地上に降り注ぐ。

 光のシャワーが城下の町を覆うと、土壁だけだった建物や地面が元の――元の状態以上の姿で蘇る。

 キラキラと光る世界に花が舞う幻想的な町。カラフルな外壁の家屋と、現実にはありえないような原色の色で舗装をされた道路。

 光魔法で魅せる仮初の町が、そこに完成した。


ジャスミンティーを久しぶりにがぶがぶ飲んでたら、いつのまにか書き終わってました。

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