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魔法実技試験事件2

 光魔法が使えると聞かされて、最初に脳内に浮かんでしまったイメージ。魔法を使うにおいてイメージは大変重要であり、イメージがはっきりしていればしているほど発動時の迫力が増すと言われている。

 イメージと保有している魔力量が釣り合っていなければ、不発に終わる。



+++



「……そういった魔法の使い方は初めて見ました」


 正直行き当たりばったりで成功するとは思っていなかったが終わってみれば成功していた魔法の発動を解いたアレイヤは、穴があったら入りたい気持ちに襲われていた。

 笑ってくれ、と最初に注文していた。

 馬鹿にしてくれれば恥ずかしさも笑いに変えられると想像したのだが、クロードは初めて目の当たりにする魔法に乾いた笑いしか出せなかった。


「人を魅了する魔法、というのは存在します。けれど、今の魔法はそういったものではない。魅了……ではなくとも、目が離せなくなる。思考も行動も奪われてしまいました。その魔法に名前はありますか?」

「え、な、名前? 名前は……」


 あたかもアレイヤが発明した魔法のような目で見てくるけれど、古き良きギャグマンガに出てきた魔法である。

 魔法の名前も何も、発動時に叫んでいる。

 光魔法・カッコイイポーズ。

 正直にそのままの名前を告げると、案の定微妙な顔をされた。魔法のネーミングについてアレイヤが叱責を受けるのは違うと言いたいが、元ネタを説明するのは難しい。


「……ちなみに、カワイイポーズもあるんですか?」

「…………」


 それを使っていたのは闇魔法使いの女の子だ。とは言わずに「どうなんでしょうね?」と濁した。

 中身残念系ヒロインがしても効果は出ないと思うけれど。


「実技試験ではその魔法を?」

「まさか。恥ずか死してしまいます」

「恥ずか死?」

「とにかく、試験では別の魔法を考えてます」


 できることが限られている中で使う魔法を考えなければならないのは大変だが、何か形になるものを作らなければ点数にならない。

 筆記試験での成績からアレイヤを注目する人は多い。

 そんな人たちをがっかりさせる結果だけは、どうにか避けたかった。


「楽しみにしてますよ。試験前に聞きたいことがあれば、いつでもお待ちしてますからね」

「はい、先生」


 ちゃんと点数になるのか見てもらわないと不安だし、とアレイヤは頷いた。

 授業の時間が終わるとそのまま教室に残るのではなく、一度教室に戻る。あらぬ噂が流れるだけなら放置しても大きな問題はないが、試験前に教師と二人で長時間教室に籠るのはあらぬ噂では済まない。

 廊下は同じ授業終わりの生徒たちで賑やかだった。

 その中でも一際盛り上がっている人だかりを見つけ、なるべく関わらないように廊下の端に移動して人だかりが通り過ぎるのを待つ。

 嫌がらせの類はかなり減っているから気配を潜めようとしなくてもよくなっているが、体に染みついた癖になりつつある。

 貴族至上主義の貴族令嬢令息がいることに対して反対意見はない。自身の生まれに誇りを持つのは良いことだ。生粋の貴族の生まれを誇りに思うが故に、平民が貴族入りするのを許す心情が理解できないだけだ。


 貴族の称号を与えられることは珍しくない。


 そうでなければ学園の生徒は激減する一方だろうから。

 公爵や侯爵は数が少ないけれど、子爵や男爵の数が多いのはつまり、称号を国王から賜ったからに他ならない。

 国や王族のために尽くし、尽くし続けることを義務付けられているのが貴族。

 その意味を本当の意味で理解している貴族は果たしてどれほどいるのだろうか。


 ――私が考えることじゃないな。


 今は試験に向けた魔法の開発だ。

 クロードに言ったように考えている魔法はある。単純だけど範囲は魔力量と比例するような大規模なものだ。筆記試験の際に手に取った魔法陣に関する魔法も捨てがたいが、試験に間に合うように仕上げる自信はない。

 どちらも光魔法と聞いて最初に浮かんだギャグ漫画から輸入している。

 試験で使わないとしても魔法陣を使った実験はしておきたい。

 好奇心を満たすためだけに。


「アレイヤ」


 魔法陣について色々と想像を膨らませるアレイヤを呼ぶ声に目を丸くした。

 アレイヤを名前呼び捨てにするのは神域の森の近くの村に住む人たちくらいだった。貴族間の呼び方で多いのは家名に敬称を付けるもの。または許可を得た上で名前に敬称を付けるもの。学園内ではそれが普通だった。

 言い換えればそれほど仲の良い友人がいない証拠でもあるのだけれど。

 許可をした覚えのない呼び方をした人物に顔を向ければ、人

だかりの先頭にいた。


「殿下」


 幾人もの生徒たちを侍られたレオニールがアレイヤに手を振っている。

 声を聞いた瞬間にレオニールであることには気付いていたが、それでも呼び捨てをする許可を求められてはいない。断れるはずもない上にあえて拒否するほどでもない。

 呼びたければ勝手に呼べばいいのではないか、という精神は前世由来のものだ。

 小学生の頃とか、名前と関係のない外見の特徴だけで付けられたあだ名とか多かったけれど、この世界にはないのだろうか。眼鏡をかけて博識なら「博士」とか「教授」などなど。主に古き良き教育的テレビのドラマで見た。


「試験の準備は進んでる?」

「もちろんです。まだどのような魔法が試験に適しているのか模索中ではありますが……」


 深く頭を下げた状態で話すと、すぐに頭を上げる許可が下りる。頭を上げれば、苦笑しているレオニールと目が合った。


「アレイヤ、君のことをライバルと認めて名前で呼ぶことにしたよ。だから君も、名前で呼んでくれないだろうか?」


 前に友達は断られたからね、とウインクされれば断りにくい。

 目撃者は多数。

 断れば嫌味の数は増えそうだが、受ければ受けたで嫌味や憶測の声が飛び交いそうではある。

 けれど、拒否権はない。


「……レオニール様」

「レオでもニールでも、レオニーでもいいよ」

「ご勘弁ください。私の心臓はそれほど強くありません」

「そう? まぁ、これから期待しておくよ。ライバルは対等で同じレベルの相手でなければなれないものだからね」


 王族の無茶ぶりに困るアレイヤとは違い、レオニールの取り巻きになりたがっている生徒たちは羨ましそうな目をしている。

 暗に自分たちは対等に思われていないと言われたも同義なのだから。

 中には友人のポジションを獲得して家に有利な話を持ち帰りたいと考えていた生徒もいたとは思うけれど。


「試験、楽しみにしてるよ」


 そう言って笑顔で歩き去っているレオニールと多くの生徒たち。

 王族にライバル認定をされて、試験で張り合うことを人前で宣言されてしまった。


 ――逃げ道を塞ぎやがった、レオニーめ……。っていうかなんだレオニーって。ルだけをどこかにやるなよ。可哀そうじゃないか。ルって呼ぶぞ。


 過ぎ去っていく団体をせめて睨まないように見つめながら、大変なことになったなと肩を落とした。

 他の属性の魔法は派手な演出をする生徒と個性的な魔法を使う生徒が多いらしい。新魔法を発明する生徒も数年に一人いるとも言われているが、アレイヤはそもそもすべてを考え出すしかない。

 そんな状況でレオニールと対等に張り合えて、かつ満足させる魔法を使わなければならない。予定しているもので満足してもらえるのかどうかを判断するのは、さすがのクロードも難しいだろう。


「アレイヤ嬢、さすがですね」


 レオニールに対抗意識を燃やされたことに面倒くささを抱くアレイヤに笑い声を隠さない声がかけられた。


「ノーマン様」

「父から城での殿下の様子を聞いたので見に来てみたのですが、父の言っていた通りのようですね」


 ノーマンの父親は王城で宰相として働いている。

 何を聞いたのか、聞くまでもないがノーマンは口にした。


「城内の殿下の私室では、毎日夜遅くまで魔法の練習をしているそうですよ。見かねた王が教師を手配しようとしたんですが、断られたそうです。なんでも、貴女は寮住まいの上に頼れるのは授業中の教師だけだからと。すごいことですよ。あの殿下が誰かと張り合おうとするなんて。兄君のアルフォン様にさえしなかったんですから」


 かなり珍しい。貴重。始めてのことではないだろうか。


 そう言ってノーマンは今のレオニールのレアな姿を説明するが、何を言われても「王子に目を付けられた哀れな元平民」という認識が消えない。

 しかし、男性が中心となっている世界で、性別問わず対等に見てくれるというのは嬉しいものがあった。貴族か貴族でないかだけで判断されるわけでもない、アレイヤ個人を見る人間は、実の両親と神域の森の動物以外では初めてかもしれなかった。


「……ノーマン様、質問なのですが」

「なんですか?」


 これまでのレオニールの優しさと貴族の女性社会の片鱗を見てきたアレイヤは、恐る恐る尋ねた。


「レオニール様の発言によって、私に嫌がらせをしてくる人のタイプが変わるなんてこと、ありませんよね?」


 例えばプライドの高い貴族令息とか。とはあえて言わなかった。言わずともしっかりと伝わっていることはノーマンの目線が大きくどこかへと逸らされたことで証明されている。

更新が遅くてすみません…。

お待ちいただいている間に評価やいいねを押していてもらえるとやる気に繋がるのでぜひお願いします…!

(やる気がなくて遅いわけではないです)

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