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魔法実技試験事件1

 光魔法は希少で、それを使える人間は各国一人ずつでなければならない。

 代表的な魔法は傷や病を癒す力だが、他にも使える魔法は当然存在している。

 光魔法は他の火や水、風のように魔法の種類について文献が存在しておらず、伝聞や他の国から教えてもらうことが多い。

 アレイヤは魔法実技試験が目前に迫る中、改めて光魔法について振り返ることにした。

 希少な存在故に、残されている文献は少ない。あったとしても使えるかどうかは博打みたいなものなので、あえて残さなかったというよりも残したところで意味がなかったのだろうと結論付けた。

 逆に考えれば、自分の魔法は自分で作るしかないということ。

 それは他の属性の魔法ではなかなかしないことであり、困難の道を示唆していた。

 光魔法と言えば癒しの魔法や浄化の魔法とは、前世でいつからか流行った異世界転生ものでは当たり前のものだった。

 当たり前のものすぎて、思い出すのも遅れてしまった。

 光魔法と言えば、異世界転生ものが流行る前に有名なものがあったではないか。

 二度三度とアニメ化され、スピンオフ漫画も本編終了後のかなり後に刊行された。

 光魔法を使う勇者と、闇魔法の魔法使いの二人旅。

 試験で活用できるのではないかと、アレイヤは寮の自室にてノートに書き連ね始めるのだった。



+++



「……あれが犯人と言われているとは予想外でしたね」

「先生、きっと黒幕による誘導だと思うんです。こうやってあの方を慕う余りに私を悪者に仕立てて危害を加える。そして犯人はあの方であるかのようにしているとしか思えません」

「…………」

「でも、黒幕は私があの方の手紙の内容を知っていることを知りません。だから、ここが反撃のチャンスなのではないかと思うんです、けど……先生?」


 属性別の授業中、外からの邪魔が入らない時間を利用してエマニュエルから得た情報をクロードに伝えたアレイヤは、黙り込んでしまったクロードの顔を覗き込んだ。

 エマニュエルから聞いたその足でまだ学校に残っているであろうクロードに会いに行こうとしたアレイヤを止めたのはゼリニカだった。

 自分の立場を今一度思い出すように釘を刺された。

 下位とは言え貴族の一員になっていること。

 婚約者がいない女性が婚約者のいない男性に会いに行くのは例え用があったとしても勘繰ってくれと言っているようなこと。ましてやそれが学園の生徒と教師であれば余計にとのこと。

 エマニュエルから光属性の魔法使い同士の諍いが噂される寸前であることから、クロードとの関係には慎重になるように、と。

 ならばとアレイヤは昼休みに会うことを止めて授業中に話してしまおうと考えた。

 普段の授業も行わなければならないことも含めて、あまり時間に余裕があるとは言えない。


「ああ、いえ、すみません。少し……驚いたというか、そういう風に見られていたのかと思いまして」


 苦笑を浮かべるクロードに遅れて言葉の意味を察した。

 最初から男だと知っている相手と形だけの婚約関係を続けていたが、何も知らない人から見れば離れ離れになっても手紙のやりとりをするくらい仲が良かったと見えていた。手紙はクロードも返しているが、来るルートとは別のルートで送っているのかエマニュエルからは一方的に手紙を送り続ける健気で一途な女性だと思われている。手紙を返さないクロードは、新しい光属性の年下の生徒に付きっ切りともなれば印象は非常に悪い。


「アークハルト嬢やロベルタ嬢も仰ってましたが、私とアレイヤ様はそういう仲に見えるのでしょうか?」

「え、そっちなんですか?」


 受け持っている生徒との仲を疑われているというのに嬉しそうに笑うクロードに怪訝な目を向けながらアレイヤはトン、と持っていたペンを紙に突いた。

 現在は授業中なので紙とペンがあるのは普通ではある。来週に迫った期末試験に位置する実技試験に向けて大事な時間。そんな貴重な時間に浮かれた話にシフトしてしまいそうな危機感を抱いた。


「生徒と釣り合う年齢だと思われているというのは、少し嬉しいものです」

「……先生、まだ二十代ですよね?」


 中の人――もとい、声帯の元になっている方は五十代になっても変わらない美声を保っているプロだ。さすがに女の子みたいな声はもう出ない、と言いながらも同業者からはまだいけると言われていたりもしていた。


「そうですけど、言ったことありましたっけ?」

「若作りしているわけではないのなら、先生の外見は二十代のそれです」


 ゲームの設定で二十代半ばであると知識として知っていただけとは言えない公式アンソロジーか非公式アンソロジーで「本当は……」みたいな話もあった気がするが、今は思い出せなかった。

 例え知らなくても、十九歳のルーフェンが密かに想いを寄せていた前の光属性の人の元婚約者という情報だけで若い部類だと推測できる。

 ルーフェンがうんと離れた年上好きでなければ、だけれど。

 それにしても、とアレイヤは頬を緩ませるクロードを真っ直ぐに見る。

 若く見られたい気持ちは理解できても、生徒と恋人の関係にあると見られるのを嬉しそうにする気持ちはよく分からない。

 前世の記憶が邪魔をしているのか、ゲームの設定からして違和感を覚えるのか定かではないけれど、クロードはそんなにも生徒と恋愛がしたいのだろうか。

 年下趣味……


「年下趣味というわけではありませんからね?」

「心を読まれた……」

「読んだわけではありませんが、アレイヤ様が何を言いたいのかは顔に出てましたからね?」


 顔に出ている、と言われて咄嗟に両手で顔を覆うアレイヤ。コントじゃないんだから、と手を下ろすと「ところで」とクロードが話を変えた。


「アレと私の仲を口実にアレイヤ嬢に危害を加えようとするとは、なんとも似ている気がしますね」

「似てる?」

「この間の、カリオ・トランシーの件ですよ。トラント伯爵令嬢との婚約破棄の騒動」


 はっきり言えば階段から落とされたりルーフェンと踊ったり、ゼリニカの弟のサプライズ登場の印象が強くて忘れつつある名前に、アレイヤは一瞬だけ脳内の記憶を大捜索した。

 そして思い出す。

 ララを悪役令嬢に仕立てようとしていた騒動のことを。

 芋づる式に思い出される、ゼリニカと婚約していたアルフォンの騒動のことも。

 どちらも婚約関係にある二人の仲を裂くような位置づけにアレイヤはあった。

 今回は、解消済みとは言え婚約関係にあったクロードたちの間にアレイヤがいる状態にされかけている。


「確かに似ていると言えますね。……やり口が似ているのは、それだけ黒幕に策がないという証拠でしょうか?」

「もしくは、そういう形でしか介入できない、ですかね」


 憶測しか出ない討論に意味はない。しかし憶測以外に黒幕を探す方法がない以上は無駄ではないとしんじなければやっていられない。

 むーん、と唸りながらアレイヤは両手を合わせて少し隙間を空ける。隙間の空いた手と手の間に魔力を集める。

 手慰みながら発動する光魔法をクロードは咎めない。

 小さな発動か全開放でなければアレイヤの魔法は上手く作動しない様子に困っている最中でもある。だからこそ授業時間も雑談が多くなってしまっていた。


「ところで、実技試験で披露する魔法の準備は順調ですか?」


 これ以上考えることもなくなり、話題は元に戻る。

 実技試験は筆記試験とは異なり、自分の魔法を試験官に見せる。魔力量と使った魔法によって採点される。滅多なことで赤点を与えられることはないが、オリジナリティを見せる機会とあってか力を入れる生徒がほとんどだ。

 力量差を見せて他家との力関係を示したり、優れた結婚相手を見つけることにも繋がる。


「癒しの魔法は使えませんし、かといって魔力をそのまま放出すると破壊してしまいますからね……一応、考えているものはあるんですけど、それが評価されるのかどうか分かりませんし、効果のほども……」


 形にすらまだなっていないことを白状すれば、クロードはにっこりと笑って容赦なく口にした。


「見せてください」


 形にすらなっていない。それはほとんど何も浮かんでいないことと同義だった。

 けれど、挑発とも思えるクロードの言葉に乗せられて、アレイヤは立ち上がる。


「一つ約束してください。絶対に、笑ってください。声を出して。わざとでもいいので」


 アレイヤからの条件にクロードは首を傾げる。

 笑うな、と言うなら分かるが、絶対に笑え、とは意味が分からなかった。


「光魔法!」


 左手を腰に、右手を前に出して人差し指を伸ばす。


「カッコイイポーズ!」


 ジャンプをして魔力で体全体を包むと、重力に負けることなく宙に留まった。


やったった!

やったりましたよ!の気持ちで書きました。


お待たせしてすみません!

次回更新は未定ですが、五月中にもう一回更新するつもりです。

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