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魔力暴走事件3

「失礼しますわよ、アレイヤ様!」

「おはようございます、ゼリニカ様。そんなにお急ぎでどうしたんですか?」

「……殿下の想定通りの惨状ですわね。早くに来て正解でしたわ」


 アレイヤの疑問に答えず、ゼリニカは後方にいるらしい誰かに声をかけて下がらせた。

 今が何時なのかも分からないが、廊下から朝の挨拶を交わす看護師たちの声が聞こえたのでとりあえず朝であることは間違いないはずだ。


「昨日お渡しした魔法道具は病室全体を守るには至らなかったようですの。なので、殿下が来られる前に掃除しておかなければ」

「え、私ぐっすり眠ってしまってたんですが……一体どうなって?」

「見えてなくてよかったですわね」

「本当にどうなっているんですか……?」


 まだ包帯が巻かれたままの両目。昨夜、寝る前に一度診ておこうと医者が来て包帯を一度取ってみた。

 とても痛かった。

 それほどまでに強い魔力暴走が起きたのかと、少しだけ魔法を使うのが怖くなった。

 頬にふんわりと風が触れた。


「間もなくレオニール殿下がいらっしゃるわ。あなたも、身なりを整えておきなさい」


 この風はどうやらゼリニカの魔法らしい。

 病室がどんな風な状況なのか見えないが、魔法で片付けるようだ。

 身なりを整えろと言われても、こちらも見えないのにどう整えたものかととりあえず髪を手櫛で整えようとする。

 右側の髪はまだ短いままだ。


「アレイヤ・ノルマンド様。検温しますね」


 タイミング良く看護師が来て、アレイヤは頭を下げて身なりを整えてもらった。


+++


 教室から使用された石が消えていた。

 教室に変化は特にない。

 事故後、教室に入ったのは三名の教師と五名の生徒会役員。


 やって来たレオニールはすぐに本題に入った。

 生徒会役員にはアルフォンと入れ替わりでレオニールが所属しており、レオニールは副会長の職に就いている。アルフォンは会長だったが、アルフォン在籍時に副会長だった侯爵令嬢が会長にスライドしたという。


 その生徒会が事故直後に三名の教師と共に教室の調査に入った。

 多少の損壊は見られたものの、教室のダメージはそれほどではない。だが、事故が事件であるという証拠も見つけられなかった。


 残された事実から、レオニール以外の生徒会役員と教師たちはアレイヤの魔力暴走が原因の事故と結論を出そうとしていて、アレイヤの処分を検討すると同時に魔力暴走を引き起こしたのは担当教諭であるクロード・ランドシュニーにも処分を下す判断を考えている。


 今はアレイヤの回復とクロードの供述待ちの状態であり、学園長と国王陛下へ提出する資料の作成が始まるのをレオニールが止めているらしい。


「何も証拠がないからこそ、結論を出すのが早すぎる。証拠がないからという理由で二人が罰されるのを黙って見ているわけにはいかない」


 それに、とレオニールが一度言葉を切る。


「アレイヤ嬢を陥れようという雰囲気が気に入らない」

「殿下……」


 レオニールの言葉にゼリニカが感嘆した。今日も二人は一緒らしいが、恐らくは友人のいないアレイヤだから、二人きりにならないように同席してくれているのだろう。

 こんなところでもゼリニカに助けられている。


「というわけで、アレイヤ嬢。何か気付いたことは? 犯人の目星はもう付いたかい?」

「…………」


 一瞬前の怒りはどこへやら、期待の籠った声音に思わず何も言えなくなった。

 なんだろう、この、少年がヒーローに期待する雰囲気というか。


 ――楽しいんだろうな、私が謎解きのようなことをしてるの。


 脚本のある演劇も楽しいが、脚本のない現実に興味が出て面白くて仕方ないのだろう。


「レオニール殿下、急かしてもアレイヤ様は目がまだ回復されておりません。それに、考える時間というのも必要では?」

「なるほど、ゼリニカ嬢の言う通りだ」


 恥ずかしいね、と笑うレオニールは、ゼリニカに自身が来る前の状況を確認し始めた。

 アレイヤは終始惨状とやらは分からないままだったが、どうやら散々な状態だったらしい。よくぐっすり眠れたものだと感心するが、それはレオニールが用意した魔法道具によるものだと思えばそちらの技術に関心が向く。

 二人はアレイヤに考える時間をくれていると分かっているので、感心や関心はすぐに抑え込んで改めて気になった点について考えを巡らせてみることにした。


 事故か事件か、どちらにしてもアレイヤは被害者なので目が回復したら自分で教室を確認して結論を出すことにして、まずは事故を前提として考える。


 特殊な石に魔法を付与するだけの授業内容で、特殊な石というのは魔力を蓄積できる魔法石のことである。持っている属性によって石の色が代わり、完全に色を変えられたら完了だ。

 一人しかいないこともあって、時間をかけてもいいとなっていた。

 だからこそじっくり時間をかけて、失敗しないように少しずつ魔力を注入していた。


 だが、魔力暴走は起きた。


 体調に異常はなかったし、魔力の使い方についての不安もなかった。クロードも確認した上での発動だったので、アレイヤに不備があったとは考えにくい。

 石にしてもそうだ。

 各属性に分かれて行う同じ授業で使われる石は同じもの。

 アレイヤの石にだけ魔力暴走が起きたと考えたら偶然の域を出ないけれど、それにしたって原因はどこかにある。


 偶然事故が起きたのか。

 それとも事故が起きるようになっていたのか。


 細工をしたとなると、教室自体に仕掛けをしたと考えた方が多分楽なはずだ。

 授業で使用する魔法石はクロードが選んだと言っていた。石の保管は学校側がしていて、石を取るところを目撃している人は多いだろう。

 アレイヤの魔力量ならいけるだろうと大きいものを選んだが、どの石を選ぶのかを予測することは難しいのではないだろうか。

 アレイヤの魔力量を知っていて、石を選べたクロードがやはり犯人に一番近くなってしまう。

 違う。

 クロードが犯人ではない証拠を探さないといけないのに。

 本当に事故だったのなら、運がなかったと言わざるを得ない。


 では、事件だった場合。

 狙われたのはアレイヤとクロード、どちらか。

 それとも両方か。

 では、その理由――動機は?

 例えば教室に細工を施した場合、授業よりも前に教室に入った人物がいたことになる。それで犯人が分かれば簡単な話だが、恐らく有力な証言など出ない。

 せめて教室に細工をした痕跡があれば話はまだ変わるのだろうが、事故後に教室に入ったレオニールが「何も変化はなかった」と言うのなら望みは薄い。

 もう一度詳細をレオニールから聞く必要が出てきた。


 所在不明とされている石の行方。

 事故だった場合、原因の追究。

 事件の場合、被害者の特定。


 この三つが解明できなければ真犯人を導き出すのは不可能と言える。


「レオニール殿下、いくつかお聞きしたいことがあります」

「うん、なんでも聞いてくれ」

「私とクロード先生を運び出した後、教室の調査に入られたとのことでしたが、その詳細をお教えいただけませんか?」

「もちろん。とは言っても、昨日言ったことがすべてだよ。事故らしい証拠も、事件らしい証拠も見つけられなかった」

「いいえ、そういうことではなく、どなたがどういう風にお調べになったのかを。分かる範囲で構いませんので」

「……ふむ、では調査がどうやって進められたのかを話そうか」


+++


 サンドラ・トラント侯爵令嬢が生徒会長として指揮を執り、他の役員が教室内を調べるという動きをしたとレオニールは言う。

 サンドラやレオニールが調べている最中で気になった疑問点を三人の教師が深く調査をしていき、調査時間は一時間ほどで終わった。


「ちなみに、殿下はどこをお調べになったんですの?」


 ゼリニカの質問に、アレイヤは脳内で事故前までの覚えている教室の中を呼び起こす。

 普通の正方形の部屋で、広さは平均的な教室より狭い。

 理科とか美術とかの準備室等よりは広いくらい。


「僕はサンドラ嬢に言われて最初は部屋の中央に彼女といたよ。副会長だからと言われてね。それからすぐに後方のロッカーに気になるとこがあると言われて確認したくらいかな。もちろんロッカーには何もなかったけどね」


 教室に何かが仕掛けられていないかどうか、事故が起こるような何かがあったのではないかとか、考え得る限りの調査を行ったと締めくくった。

 結構隅々まで調べたよ、と王族として校内の調査に携わったのが珍しい体験だったのか口数が多い。


 なるほど。


 それだけ調べて何も出なかったというのなら、本当に何もなかったか、犯人が回収を済ませた後かのどちらかで間違いない。


「調査というのは、私が運ばれてからどのくらい時間が経過して行われたのでしょうか?」


 アレイヤの質問に、レオニールは「えっと」と少し考えてから答えた。


「そもそも強い光に気付いて廊下に出て、僕が最初に倒れている君たちを見つけたんだ。そこから学園の警備が駆けつけてしばらく封鎖。サンドラ嬢が駆けつけてきて生徒会の面々と副学長と学年主任、備品管理責任者の先生方をお呼びしてすぐだったね」

「さすがです、レオニール殿下。なんとなく分かった気がします」


いつもいいねをありがとうございます。

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