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魔力暴走事件2

 クロードが犯人として学校側に拘束されている。

 レオニールからもたらされた情報は、私の思考を止めるのに十分だった。


「どうして、先生が……?」

「アレイヤ嬢は、彼が光属性の女性と以前婚約関係にあったことは知っているね?」

「もちろんです」

「だからだ」

「……はい?」


 もしかして説明が下手なのか? と不敬発言しかけてこらえる。

 元婚約者が光属性だからってアレイヤを狙う動機にはならないはずだ。


「光属性の人間が同じ国に二人といてはならない。そういう決まりが世界にあってね。君が今この国にいるということは……」


 そういう決まりがあることを、初めて聞いたんですけど?


「学校側はそういう理由でアレイヤ嬢に危害を与える動機があると考えている。彼なら魔力を暴走させるに足る魔力を追加させることも可能だからね」

「私が先生は犯人じゃないって訴えても……意味はないんですね?」


 確固たる証拠がなければ証明にならない。

 見えないから声に出して反応してもらわないと何も分からないが、沈黙は基本的に肯定だ。

 アレイヤは、あの瞬間掴めなかった手を思い出す。

 髪を切られた件では犯人当ての場で魔法を使った記録を行ったけれど、授業中であったこと、魔法を使うので記録用に魔法を使えない状態であったことから今回はできていない。


 本当なら最推しの声を毎回録音したいところをぐっと我慢していたのだ。


 証拠があれば、クロードは解放される。

 ここで問題なのは、「かつて光属性の女性と婚約関係にあった」である。

 誰もが知る情報は、今回の事故に繋げられる原因となったことは間違いない。だが、それ故に「光魔法について知っている人物」だからアレイヤの担当教師となったことも事実なのだ。

 もし本当にクロードがかつての婚約者を思い出して事故を起こしたとするなら、アレイヤに宛がった学校側の過失にしかならない。

 学校側のミスだったとなった場合、自然と考え方は前世の問題に流れていく。


 ――事故なんて最初から起きていなかったと考えた学校側が、私を亡き者にして本当に事故だったと事態を収める可能性がある。


 我ながら恐ろしい考えだと分かっている。馬鹿馬鹿しいとも。

 けれど、体裁に重きを置く学校運営側や貴族の大人たちなら考えかねない。

 光属性の人間は希少なだけで現れないわけではない。だったら、一人くらいいなくなってもさしたる問題には――ならない。


 そもそも、どうして魔力暴走が起きたのか。

 魔力暴走が起きる原因は、まだ魔力について学び始めた子どもが体内を巡る魔力の出力の加減を間違えたり、保持している魔力が想像を超えていたり、急激に魔力量が増えたりすると起きがちだ。とは言え魔法を学ぶ学校にいながらそういったミスが起こる確率はとにかく低い。

 前にゼリニカに光魔法を使う際は鏡に気を付けろと忠告を受けていたので、気にしていない振りをしつつ窓ガラスにでさえ注意していたのに目にダメージを受けてしまっている。

 果たしてこれ、本当にただの魔力暴走なのか?


「アレイヤ様……信じたい気持ちは分かりますけれど、それだけでは学校側は納得しませんわ」


 アレイヤの手にゼリニカのものと思われる手が重ねられる。

 アレイヤがクロードを擁護しているように見えるのも仕方ない。逆の立場ならアレイヤ自身そう思う。けれど、本当に違うのだ。

 ゲーム内のクロードは、主人公に新しい光魔法を授ける重要な役目を担っている。それは元婚約者から与えられていた知識で、同じ光属性だからという理由で教えてくれている。実際に対面してみても恨みや辛みを感じない。


 アレイヤにだけ冗談を言ってくれるし、

 惜しみなく光魔法について教えてくれるし、

 アレイヤの前では一度だって元婚約者の話をしたことなんてない。


 ――……待って? まるで攻略対象者みたいに聞こえるな?


 アレイヤのことを考えてくれているクロードにときめきが止まらない。何よりも好きすぎるあの声で名前を呼んでくれている現実って、相当すごい。別ゲーだけど口説きボイスで致死量級のやつが……いやいや。

 頭の中に浮かんだ妄想をゲームのシナリオという事実で消して、ゼリニカの手にさらに自分の手を重ねた。


「だったらちゃんとした証拠を見つけて、真犯人を探すまでです!」


 前回よりも難易度の上がった謎解きの始まりだ。


「ふふ、君ならそういうと思ったよ」


 どこか楽し気に聞こえるレオニールの声。


「ですが、まだアレイヤ様は入院の必要があるとお医者様が言っておられましたわ。これでは調査のしようも……」

「なら、生徒会の調査の結果を伝えて、そこから推理してもらおうかな。こういうのを「安楽椅子探偵」と言ったかな?」


 アレイヤが入院中であることも初耳だし、レオニールがアレイヤに探偵として期待しているのも恐れ多い。

 確かに真犯人を探すとは言ったが、そこはそれ、地道に証拠を探して見つける方法を考えていた。前回がまさにそうだったからだ。

 それを、話を聞いただけで見つけろとは難易度の高いことを王子は言っている。


 探偵ってあれだろ?

 ノックスの十戒だかなんだかのセオリーがあるんだろ?

 知らない知らない。

 アレイヤ・ノルマンドの前世は乙女ゲームをやっていた声優オタクだ。


 そう、ここは乙女ゲーム「光あれ! ポップアップキュート」の世界。

 ゲームでは事故を起こした直後に治療院で入院する羽目になんてならなかった。事故と言っても魔力暴走ではなくて些細な爆発事故。特殊な石に魔法を付与するだけなのに、石の大きさに対して注入する魔力が多すぎただけというお茶目なドジ。

 いくらゲームでも事故は嫌だと思ってかなり集中して気を付けていたのに、起きたのは魔力暴走。


 なぜ?


 そしてゲームでは落ち込む主人公の下にアルフォンたち攻略者が数人現れて、そこからルートが大まかに分かれていくのだ。

 事故後すぐに治療院に運ばれ包帯で視界を塞がれたアレイヤは、多分ルート分岐の入り口に立てていない。

 ただでさえゲーム開始前に攻略対象が一人退場したのにまたゲームから逸脱してしまっている。ゲームのようなご都合主義の世界線ではなく現実であると実感させられるけれど、だからって納得できるものではない。


 前回は髪を、今回は視界を、奪われているのだ。


「失礼します。レオニール殿下、言われていたものをお持ちしました。……アレイヤ嬢、お気付きになりましたか」


 衣擦れの音と聞き覚えのある声がして居住まいを正す。


「ノーマン様、ですか?」


 ゲームで何度も聞いた声であり、髪を切られた件で味方になってくれた人物。そして今の髪型になるきっかけとなったその人の声を間違えるはずがない。


「……見えないのによく分かったね? もしかしてそれも光魔法?」

「声を覚えていただけです」


 ベッド側の椅子はレオニールとゼリニカで使われてしまっているのか、ノーマンの声は高い位置のまま変わらない。


「髪に続いて、目も……ですか」


 きっととてつもなく心配そうな顔をしているんだろうな、見たかったな。などと邪な思考に陥りかけたが、続いたセリフに耳を疑った。


「クロード・ランドシュニー……本当に犯人だとしたら許せませんね」


 疑いたくなる気持ちは分かる。

 あの声だもの。疑ってくださいと言わんばかりのキャストだ。実際に某健康的なアニメでも「やっぱりラスボスじゃねーか!」と言われたアニメだってある。「どうせ裏切る」ってコメントも多く見た。


 けれど、最初から裏切る配役が多かったわけじゃない。王道主人公だってやってきたし、主人公のライバルキャラだって幾つもやっていたし、回復担当の妖怪キャラが初恋だという人も多くいる。


「そういう声だからって、安易に犯人だと決めつけるの止めてもらっていいですかね⁉」

「心の声だと思いますけれど、思いっきり外に漏れ出ていますわよ?」


 ゼリニカの冷えた声に、レオニールが笑った。


「元気はあるがまだ事故の混乱もあるだろう。アレイヤ嬢、今日はゆっくり休んでくれ。明日また事故の説明をしよう」


 椅子から立ち上がる音が二つ。

 どうやらもう帰るらしい。


「アレイヤ様、こちらをお渡ししておきます。一晩だけあなたの身を守ってくれることでしょう」

「これ、とは?」


 ノーマンに手を取られ、何かを乗せられた。

 四角い箱のようなもの。

 説明はレオニールがしてくれた。


「ただの事故ではなく、何者かによる事件だとしたら今夜の君は無防備だ。だから、悪意のある行為に対する反射魔法が発動する道具だよ」


 魔法でも物理でも、一晩だけ守ってくれるものだと教えられ、背筋が冷えた。


とてつもなく「あの人」をイメージしていると分かる書き方ですね!


いつもいいねありがとうございます!

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[一言] 某健康的なアニメっ何?
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