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魔力暴走事件1

前にアップしていたものから大幅に書き換えました。

 学生時代、絶対に休みたくない授業はあっただろうか。


「授業めんどくさいですね。何か食べに行っちゃいましょうか?」

「だったら甘い物がいいです! もちろん先生の奢りで!」


 たった二人だけの、一対一の授業がある。

 その名も「種別クラス」。魔法の属性によって分けられるこの授業は、当然生徒はアレイヤただ一人。


「冗談を言えるのもそうして返してくれるのもアレイヤ様だけです。さて、授業を始めましょうか」


 なんだ、本当に冗談なのか。と心の中で落ち込んで気を取り直す。


 クロード・ランドシュニー。

 物腰柔らかな黒髪眼鏡の男性教師。


 乙女ゲーム「光あれ!ポップアップキュート」では似た雰囲気を持つ知的属性の攻略対象のノーマン・ドルトロッソがいるので攻略対象者ではなくなっているものの、そのキャラクターボイスは話題になるほど。

 クロードは「裏切るキャラ確定」だの「永遠の少年声」と名高い超有名男性声優が当てられたことによって人気がある。

 某最高僧とお供の妖怪三人のファンタジーアニメで即落ちしました。

 キャラデザインの推しがノーマンなら、声の推しがクロード。いや、最推しがクロードです。よろしくお願いします。


 最推しの声を独り占めできる授業があるなんて幸せしかないだろうが。


 一言一句漏らさず聞き取り記憶しなければ、とオタクの本領を発揮するので、成績は外のクラスをさておいてダントツのトップらしい。

 同じ学年には第二王子で王太子内定の呼び声高いレオニールもいるというのに。


「さて、今回の授業はこの魔法石に魔力を注入して、色を変えます。魔力を注入するだけなら入学式でも魔力識別の儀式でやったと思いますが、色を変えるまで魔力を注入するのはこれまでになかったでしょう。魔力を入れすぎると石が破裂してしまうので、破裂しないように量を調節してくださいね」


 そう言いながら、アレイヤの前に手の平大の石を置いた。

 石を破壊してしまう、ではなくて石を破裂って聞いたことない言い方だけれども。


「キミの魔力量ならこの程度の大きさがいいと思って、大きいのにしてみました」


 優しく微笑んではいるが、手の平大の大きさの石に魔力を注入するには結構な魔力が必要になる。石は無機質だからだ。生きている人間に魔力を注入して魔力を覚醒する方法はあるが、それは生きていて魔力を循環させやすい流れがあるから。生きているから循環する状況にある。

 無機物はそうではない。だから簡単に言ってのけるクロードの笑顔に意味があるように思えてならない。


 いや、意図ならある。


 光魔法の使い手であるアレイヤの力を試したいのだろう。

 クロードは以前、希少な光魔法の使い手と婚約関係にあった。ゲーム情報だが、その相手がどうなったのかは分からないが、クロードはまだ独身のままだ。

 多分、ヒロイン(アレイヤ)が現れたことでお役御免扱いを受けたのだと思われる。

 怖くて調べる手が止まってしまう。


「できますよね?」と笑顔で圧をかけてくるクロード。アレイヤはやるしかないと頷いた。

 ゲーム主人公のアレイヤが数少ない光魔法の使い手で、個人授業の時間に小さな事故を起こすシーンがある。

 流れが分かっているのなら慎重に事を運べば事故なんて起きないのではないかと、来るべき日に備えて毎日努力を重ねてきた。真面目にしておけば大人になってから楽になる、と前回の人生で学んだからか、今世では集中して時間を過ごすことに躊躇いはない。



「な、なんで⁉」


 事故は、唐突に起きてしまった。

 光魔法の暴走――もとい、アレイヤ・ノルマンドの魔力の暴走事故によって、一つの教室を使えなくしてしまった。


+++


 真っ白な光に視界を奪われる前に見えたのは、必死にアレイヤを守ろうと腕を伸ばすクロードの姿で、攻略対象でもないのにどうして守ろうとしてくれるのかに囚われて、他に意識が向かなかった。

 その手を掴もうと手を伸ばしたけれど、足の裏に何かが引っ掛かって叶わなかったところで意識が飛んだ。



 目が覚めても、視界は暗かった。


「なるほど。魔力暴走……」


 くぐもった誰かの声がして、耳に何か当たっていることに気付く。指で触れると包帯だと分かった。耳に怪我を負ったのではなく、目を塞ぐ形で巻かれた包帯が耳にまで及んでいるらしい。


「ん……」


 これが夢なのかそうでないのか、声を出してみると意識がはっきりしてくる。


「アレイヤ嬢、気が付いたかい?」


 耳の包帯を動かして音を拾う。場所は分からないけれど、複数の人間の気配がする。


「ここは学園の外の治療院だよ。魔力暴走を起こして倒れていたんだ。覚えているかい?」

「魔力暴走……? というか、あなたは」

「殿下、やはり目が見えない相手に名乗らないのは……」

「ああ、そっか。自分から名乗るなんてことあまりしないから、つい」

「レオニール殿下、と、ゼリニカ様ですか?」


 二人の声のやりとりで察しがついた。ゼリニカの声は特徴的というか、担当声優さんの声を山ほど聞いていたからよく分かった。

 しれっとレオニールが名前で呼んでいるが、否を言える立場ではない。


「あなたほどの魔力量を持つ魔法使いが魔力暴走を起こすだなんて、どうしてしまったんですの? まさか、授業で手を抜いたのではなくて?」


 見えてはいないが金髪碧眼の悪役令嬢然とした佇まいでアレイヤを追及しているらしい。

 目が見えていないからか、転生した事実を忘れてドラマCDを聞いている気分になる。


「手を抜いて魔力暴走とは……。面白いことを言うね、ゼリニカ嬢は」


 ははは、と余裕のある笑い声を上げるレオニール。


「お二人はどうしてここに? お見舞い……ではありませんよね?」


 現在王太子ほぼ内定と言われているレオニールと、公爵家の令嬢のゼリニカが元庶民の男爵令嬢を見舞う理由がない。声をかけてはくれるが、親しい間柄と言うには家格が釣り合わない。

 だったら、今回の件の話を聞きに来たと考えた方が自然だ。


「お見舞いも兼ねていますわよ。見えていないでしょうけれど、今あなたの周りには無数の花で溢れていますわ」

「え、お花ですか? 見たかったな」

「全部百合ですわ」

「ゼリニカ様、ご存じだと思いますがそれだといずれは窒息してしまいます。それから花がないことは香りの点で否定できます」


 冗談で済ますには聞き流せないのと、クロードとは違ってノータイムでツッコミを入れられないのが貴族社会の難しいところだと再認識する。

 ゲームと同じく選択肢が出てくれれば楽なのに。


「うん。元気そうで何よりだね」

「ですわね、殿下」


 レオニールとゼリニカの二人が下位貴族のアレイヤに接してくれるのは、十日ほど前に起きた悲しい髪切り事件がきっかけである。

 第一王子で現在謹慎中のアルフォンが、婚約者だったゼリニカとの関係を破棄したいがためにアレイヤは利用され、長く伸ばしていた髪をばっさりとロイドというアルフォン派の貴族に切られた。

 ロイドが実行犯でアルフォンが指示したことを、犯人役にさせられそうになっていたゼリニカと証人として同席してもらったレオニールの前で指摘した。それがきっかけになって、興味を持たれてしまった。

 光属性のアレイヤ・ノルマンドにではなく、探偵としてのアレイヤ・ノルマンドに。


 ――探偵ではありませんけどね?


「殿下、ゼリニカ様。使っていた教室はどうなりましたか? やはり……破壊してしまったのでしょうか」


 光魔法の暴走は神域の森で発現して以来だ。あの時森は全壊に近い惨状になった。ならば今回もと考えるのは自然な流れだろう。

 なぜ暴走したのかという原因よりも、つい最近髪を切られたことを謝罪したばかりなのに、また義両親に頭を下げなければならなくなったことに絶望していた。

 修理費用に出世払いは適用できるだろうか。

 そもそも、この世界に出世払いってあるのか?


「気にせず頼ればいいではありませんか。あなたはすでに子爵家の令嬢。何のためらいがあるのです?」


 修理費用についての不安を零せば、悪役令嬢になるはずだった公爵令嬢のこのお言葉。貴族令嬢は高慢ちきになれと仰る――違うか。


「婚約者の方がいればそのお方に頼る、というのも手ですけれど、あなたはまだ婚約者がいませんものね」


 元婚約者が学校に姿を出せなくなってからというもの、ゼリニカは結構自由に振舞っている。これまでは次期王妃のプレッシャーから一挙一動に気を張っていたのかもしれない。

 悪役令嬢になれなかった彼女はさしずめツンデレ担当か。

 金髪碧眼にツンデレ要素は王道で強い。

 視界が塞がれた中でゼリニカは明るく振る舞ってくれていて、レオニールは和やかな雰囲気を作ってくれている。

 和やかな空間で、それでもアレイヤは聞かなければならなかった。


「それで、あの、先生は……クロード先生は無事ですか?」


変更点)以前アップしていたものではノーマンは黒髪眼鏡と眼鏡が付いてましたが、ノーマンは眼鏡ではなくなりました。

クロード先生だけが眼鏡です。



魔力暴走事件編では朝7時投稿しようと思います。


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