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光る鹿と覚醒と

事件が起きるのは本編からになります。

プロローグなので世界観説明パートです。

 前世持ち、というのは、稀に現れるそうだ。

 幼少の子どもが口にすることが多く、前世持ちでない大人は右から左へと聞き流す。

 大人になると自然に忘れてしまうことも少なくないという。


 かくいう私も前世持ちだった。ただ、その内容は他と異なる。

 生まれて物心ついた頃から自分の前世の存在を認識したところまでは同じ。


 その前世が、別の世界だったことが大きく違っていた。




+++




 神域と呼ばれる森を有する村が、アレイヤの生まれた地だった。


 木造の平屋や二階建てが並び、緑が多く自然豊か。地面は土を固めただけで雨が降るとよくぬかるみ、教会も兼ねる村長の家の周りだけ石畳が敷かれている。

 村の中心にある噴水は人々の憩いの場であり、村の奥様方のお喋りの場でもあった。


「アレイヤ、また森へ行くの?」

「うん、また木の実を持って帰ってくるね」

「それは助かるけど、服を汚すほどやんちゃしちゃダメだからね?」


 母親に軽く昨日のお出かけをたしなめられながらもアレイヤは手を振って神域の森へと出かけた。


 村にアレイヤと年の近い子どもはいない。

 現在十二歳ということを踏まえれば、ずいぶんと淋しい子ども時代を過ごしている。

 十二年もの間村に新しい子どもが生まれていないことを意味し、暗に高齢化や過疎化が問題となっていた。

 そんな村にとって唯一とも言える子どものアレイヤの遊び場はもっぱら神域の森で、遊び友達は森の動物たち。


 前世の記憶を持つアレイヤも、さすがに十二にもなって動物を友達を呼び続ける危険も重々承知しているが、基礎教育を受けさせてくれる村長の家に行ってもいるのは親よりも年齢が上のおじさんしかいない。村長の息子である。


 森に足を一歩踏み入れると、すぐに小動物たちが現れる。

 大きな動物が森の外近くに現れると村の人たちが驚くからと、最初の頃に約束した。言語が統一していなくても通じるものがあるのは異文化コミュニケーションと言ってもいいのではないだろうか。

 そもそも人間と動物だから発声のメカニズムが違うんだけど。


 小動物――リスとうさぎがアレイヤを先導して森の奥へと進んでいく。

 先にいるのは鹿だ。たまに馬もいる。ライオンや虎などの獰猛な肉食獣は基本的におらず、イノシシに遭遇すると分かった時はすぐに教えてくれて逃がしてくれる。イノシシも草食だから、物理的に攻撃されなければ大した害にはならない。

 さて、今日はいつもの鹿たちと何をして遊ぼうかと滑らか毛並みの感触を想像しながら奥へ奥へと入る。

 馬がいれば、その背に乗せてもらって森の散歩に出る。少し背の高い木の実を取ることもできるので、その時は帰りも馬に乗せてもらうことになる。

 小動物の先導なので、木々の間がとてつもなく狭い箇所がある。体が小さかった頃は難なく付いていけたが、身長も伸びた今では結構な難所である。

 しかし、その先に待つのは森を流れる川から水を引いている小さな湖だ。

 湖はさらに地中を進み、村の噴水へと続いている。


 待っていたのは、鹿だった。

 だが、いつもの鹿じゃなかった。

 光っている。

 全身を真っ白な光で包まれた、知らない鹿が、そこにいた。


「ど……どちらさまで?」


 思わず口から出たのは日本語の発音での言葉。

 動揺しすぎて転生前の言語が飛び出てしまった。

 何語を話したところで対動物には意味がない。


 それよりも、自分で気付かなければならない。教えてもらったとしてもアレイヤには分からない。

 まずは観察。

 いつも遊んでいるはずの鹿とは別の個体と分かる。

 光っているが目の形が違う。

 敵意は感じず、じっとアレイヤを見ている様は何か伝えたいことでもあるかのようだ。


 いわゆる「神域の神獣」的なやつだろうか。

 神域の森なのだから神獣がいてもおかしくない。

 むしろ会う許可をとうとう得られたと好意的に捉えるべきだろう。

 森のヌシではなく、神域の神獣と会えたことは幸運以外の何ものでもない。

 森のヌシがいるのかどうかは知らないんだけど。


「初めまして。私はアレイヤ。会えて嬉しい」


 左足を軽く引いてスカートの裾を小さくつまんで挨拶をする。そろそろ大人の挨拶の仕方も覚えましょうね、なんて言われて必要性を感じなかったけれど、今すごく必要性を感じた。

 光る鹿はそんな人間の挨拶をどう思ったのだろうか、とちらりを見る。


 小さく頭を下げて、挨拶に応えてくれた。


 前世で観た有名な魔法学校の映画でも、挨拶は大事だって言ってた! 間違ってなかった!


 その日から光る鹿と会う機会が増えた。

 光る鹿はアレイヤの手に頭を摺り寄せたり、一緒に昼寝をしたりと、共に過ごす内に神獣の力がアレイヤにも伝わってくる気がした。

 優しく暖かで、太陽のような大きな力。



 いつまでもこんな生活が続くなら、いつ前世の記憶がなくなっても構わないな、と思い始めた十四歳の誕生日。

 密猟者が、光る鹿目掛けて銃口から弾を発出した。

 響く轟音。

 羽ばたき逃げる鳥たち。

 うさぎもリスも一目散に走り去る。


 光る鹿の体からは光が消え、銀色の液体が流れていた。

 何が起こったのか、まったく頭が追いつかない。

 神域の森を普段から利用しているのはアレイヤくらいで、村の人たちが年に二回のお祭りの時期に入るくらいだ。

 立入禁止ではないが、入るのを躊躇う雰囲気が森全体から感じると人は言う。

 だけど、その雰囲気も密猟者には関係がなかった。

 密猟者は三人組の男で、光る鹿を捉えた直後はアレイヤに目を向けていた。

 目撃者だから同じ銃で殺すのか、攫って売るのか。

 その目は間違いなく次のターゲットを狙っていた。


 アレイヤを守るためにうさぎが男たちに飛び出していく。

 他の動物たちも次々に襲い掛かり、鳥たちは仲間を呼んだのか大型で肉食の鳥も空を覆っていった。


 男たちは小動物の襲撃に発狂しながらも銃を乱射する。

 神域の森に似つかわしくない血しぶきが自然を汚す。


 怒りに身を任せて人間に襲い掛かる動物たちの姿がほんの少しだけ変化している。

 神獣を殺され、アレイヤも狙われたことで狂暴な攻撃を始めたことで魔物化しようとしていた。


 アレイヤはここからの記憶がない。

 

 十二歳で挨拶を交わしてから触れ合えるようになるまで一年と少しかかってしまった。

 それくらい神獣という存在は尊いもので、神秘的なものだった。

 友達になるなんておこがましいと理解していたし、なれるとも思わなかった。けれど、歩み寄ってくれたのは光る鹿の方で、それが何より嬉しくて、一生をこの森で過ごそうと思えるほどの僥倖だったのだ。


 それを。


 それを、つまらない人間のエゴで、簡単に命を奪っていった愚かな人間が許せなかった。

 光る鹿の仇を取ろう、アレイヤを助けようと反撃する友達だった動物たちが魔物化する姿を見るのが苦しい。

 悔しくて、

 悔しくて、

 気が付いた時には森が滅んでいた。

 周りには光を発さなくなった神獣の白い姿と、愚かな三人の男たちの息絶えた体。

 心配そうにアレイヤの足元に集まった小動物たち。


 アレイヤは、生まれて初めて魔力というものを解き放った。


 前世持ちのアレイヤは涙を流しながら理解した。


 ここは前世でプレイしていた乙女ゲームの、ストーリーが始まる前のヒロインが力を覚醒させるところだ。



 こんな哀しい覚醒の仕方なら、前世も覚えてなくてよかったし、覚醒しない方がよかった。



次回もプロローグです。


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