6.迷惑
◆
「現時点で偏差値、51か。もっと頑張らないと」
「うるさいなぁ。僕には勉強が向いてないんだよ」
「私が、先生をしてあげたのよ! もっと頑張れるはず!」
「無理だよ。僕はもう諦めたんだ」
「諦めたって……。まだ、まだ間に合うよ! ほら、今日も教材を持って来たから!」
アマネは、熱心に僕に勉強を教えてくれた。
アマネに会う前は、僕の偏差値は38。
どこの大学でも受かりはしなかった。
でも、アマネのおかげで変われた。
本当に感謝している。
「もっと、勉強すれば、良い大学に行けるよ! センター試験まで時間がないけど、まだ」
アマネは諦めないで欲しいって言ってくれてる。
だけど、もう無理なんだよ。
「アマネと同じ大学には行けない」
僕には、初めから無理があったんだ。
初めから。
「僕、やることあるからさ、帰るわ」
「ちょっと、待ってよ!」
――これ以上、アマネの足を引っ張るわけには行かない。
お互い、離れるべきだ。
そう、離れるべきなんだ。
「この、恩知らず!」
「あいたっ!」
僕の後頭部に硬いものが激突した。
弁当箱が図書館の床に落下し、卵とかウインナーとかがボロボロ散る。
「私、どれだけミカケに時間使ったと思ってるのよ!」
「僕は、勉強を手伝ってと頼んではないんだけど」
「っ……! 冗談だよね?」
「僕は勉強をしない」
これ以上、君を困らせたくないんだ。
エゴだと思う。
アマネはきっと、僕と勉強することがモチベーションになってるんだと思う。
だけど、こんな僕の為に、志望校が落ちただなんて目も当てられないんだ。
親御さんにも合わせる顔がない。
「もう、僕のことはほっといてくれ! 自分の勉強の面倒も見れない奴が、僕の面倒なんて見るな!」
「うっ!」
――アマネの偏差値は、64まで下がっていた。
アマネは隠していたんだ。
僕にその事を伝えずに、毎日僕と絵を描いていた。
天気が悪い日は、僕の勉強の面倒を見てくれていた。
感謝しかない、感謝しかないんだ。
だから、僕はもうアマネに迷惑はかけたくない。
「……お父さんと同じこと、言うな!」
と、アマネはもう一つの弁当箱を掴んで振り上げたが、彼女はぼろぼろと泣き始めてしまった。
やめてくれよ、もう。
「私……ミカケの色を増やせると思ってた。真っ黒けなミカケの事を変えてあげられると思ってた!」
アマネはグッと歯を食いしばり、鼻水まみれの顔をどうにかギュッと――
「私、バカだなぁ。自己満足甚だしいや」
笑った。
弁当箱と勉強道具をバッグに詰めると、ぐしゃぐしゃになった顔で、
「私、頑張るから! ミカケも頑張りなよ!」
と、アマネは缶コーヒーを渡して来たのだ。
ブラック、無糖。
現実は、甘くは無い。
そんな風に、コミカルに考えれば笑えるだろう。
「私、ミカケのことが好きだったのになぁ」
呟き、アマネは走って図書館から出て行ってしまった。
それから数秒後、周りが急にザワザワし始めた。
落とした弁当箱。
具材は、定番のものばかり。
「何やってんだろ、僕は」
館内は完全に『なんて男だ!』ムードを醸し出していた。
ならば、颯爽に撤退。
僕は弁当箱と中身を回収して、重たい足を持ち上げると、
「黒井君だよね?」
「は、はい」
「私、3年でアマネと同じクラスの青山ってんだけど。ちょっと、話聞かせてくれない?」
「は、はい……」
終わった、と思った。
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