表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4.呼び捨て

 ◆


 緑。

 黒板の色だ。

 何故、黒板というのかは前に調べたことがあるが覚えていない。


「馬鹿だね、ミカケ君。黒板は昔、黒かったのよ。だけど、黒色の素材が高いとか、緑の方が目に優しいとかの理由で黒板は緑色なのよ」

「へぇ。そんなんだ。白木さんは物知りだね」

「私、偏差値70あるから」

「えぇ!? 良い大学いけるじゃん!」

「だから、私は勉強せずともいいのよ。ミカケ君とは違ってね」

「何言ってんだこの生徒会長。生徒の鑑であるべきお方が、蓋を開けたらこんな感じだとはな」

「こんな感じって何よ!」


 放課後、僕と白木さんはオレンジ色の空を眺めながら絵を描いている。

 天気が悪い日は、僕の勉強を見てもらっている。

 そんな日常が続き、もうすぐ冬が来る。

 皆は塾に通っているが、僕の家では通う程の経済力が無い。

 の割に、絵の具はちゃんと買っている。

 なんなら、最近では白木さんも半分出してくれる始末だ。


「ねぇ、ミカケ君」

「なに?」

「そろそろ、下の名前で呼んでくれても良いんじゃ無い?」

「え?」


 時々、白木さんはギュッと距離を縮めて来るようなことを言ってくる。

 恥ずかしいことを言う確率は、毎日白木さんを電停まで連れて行く時に、踏切がちょうど降りているくらい――、例えが悪かった。


「僕、白木さんの下の名前知らないし」


 |天音《アマネ》。

 白木 天音(アマネ)


「嘘でしょ!? アマネよ! 何ヶ月も一緒にいて知らないとかありえない!」

「アマネっていうんだ! へぇ」


 可愛い名前だと思う。


「ねぇ、アマネって呼んでみてよ」

揶揄(からか)ってるのか?」

「うん! 盛大に!」


 ニヤニヤしやがって!

 逆に、コッチからも攻めてやりたくなる。


「アマネ」

「っ」

「アマネ。何固まってんだよ」

「おっ、おう。まさか、呼び捨てにされるとは」


 ガッツシとボディーブローを決めてやったが、残念ながら自分の心臓にも自爆ブローが入った模様。

 顔が熱くて、すぐに宿題に目を落とす。


「ミカケ」


 来ると思った!

 やはり、白木さんのことだから、僕を呼び捨てにするカウンターを決めて来ると確信していた。


「アマネ!」

「ミカケ!」

「アマネアマネ!」

「ミカケミカケ!」

「アマネアマネアマネアマネアマネ!!」

「ミカケミカケミカケミカケミカケ!!」


 ――どうして、今日は夕暮れが短いのだろう。

 もう少し、夕暮れが長くあってくれれば良いのに。

 僕が彼女に筆を持たせ、二人で絵を描くその瞬間。

 僕は、その瞬間だけ、自分は一色の絵の具じゃなくても良いって思えるのだ。


 アマネ。

 その響きが、僕の勉強を妨げる。

読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマークをよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ