1.黒と白
既に完結作です。
最後まで投稿するので、ぜひ読んでいって下さい。
◆
白木さんは誰にも染まらない。
純白無垢で、僕のクラスの中では憧れの的だ。
高校3年の秋。
僕は夕暮れ映える空を眺めながら、空白のパレットを眺めていた。
僕には、色が足りない。
3年間、美術部として活動を続けていたが、僕が部長の代で廃部になる。
というか、停部になる。
理由は、単純に後継者が居ないからだ。
僕一人でどうにか活動させてくれていた先生方には感謝してる。
最後のコンクールも出させてもらって、金賞を頂き、僕の高校の青春は幕を閉じた。
これからの世界は、白と黒だ。
つまり、紙と鉛筆。
受験勉強だよ。
目指すは芸術大学!
――ではなく、文系の大学だ。
僕はもう、筆は取らない事にした。
「今日はオレンジ色だな」
呟き、赤と黄の絵の具をバッグから取り出す。
君たちは混ざり合うと、ちゃんと綺麗なオレンジ色になる。
凄いよね、間違い無いんだから。
『黒井、もう少し他人と関わればどうだ?』
先生から今日、言われた。
僕は、他人と関わることが苦手だ。
どうも、僕は人とは違う色なんだ。
他人と協力しようとしても、どうしてか上手くいかない。
だから、僕は一人でも活動できる部活を探したんだ。
先輩は居たが、褒められた記憶以外無い。
僕から何か話した記憶がないという意味だ。
『黒井君。もう少し他人に合わせる努力をしてみたら?』
他人の事を考えたく無い。
他人の色に染まるのは専ら御免被る。
パレットの上にあるのは、一色だけでいい。
僕の人生は、一つの色だけでいいんだ。
「あれ、誰かいる」
僕は入り口の方から聞こえた声に振り返る。
「ここ、廃部室だけど」
白木さんはそう言った。
短髪で、肌が白くて、ちっちゃくて、可愛い。
それでいて、胸は良い感じに膨らんでいて、ぷっくり太ももがナイスだ。
「すみません。僕、美術部なもので」
僕と白木さんとは面識は無い。
白木さんは生徒会長だ。
僕は白木さんを知っているが、白木さんは僕を知らない。
「あれ、潰れたって聞いたけど。まだ活動してるの?」
「いえ、僕はこの秋で引退しました」
「ふーん。あっ!」
白木さんは僕の後ろに来ると、指差して、
「もしかして、金賞取った人!?」
「あは、そうですけど」
「ビショウちゃんって男の子だったの!?」
「び、びしょ?」
「ほら、名前よ! 黒井 美翔! 女の子だと思ってたけど」
「あはは、そういう事ですか。僕の名前はミカケって言います。黒井 美翔」
「なるほどなぁ! 私、あなたのファンなの!」
「えっ」
急に僕の心がキュッとなった。
ファンだなんて、三年間で初めて聞いた。
「あなた、一年生の時に銀賞取ったでしょ? 文化祭の時に飾ってたやつ! 確かタイトルが……てんしょうける?」
「天翔ける、です」
「それそれ! 画用紙を全部真っ黒に塗って、そこに絵の具をグシャって!」
天翔ける……。
僕の初めての作品だった。
ストレス発散のつもりで書いたのだが、『面白い発想』とか言われて銀賞取ったやつだ。
それから、僕には才能があるんじゃ無いかって絵を描き続けたけど。
「ね、今は何描いてるの?」
うっ!
近い!
僕にあまり寄らないで欲しい!
「い、今は夕焼けでも描こうかと」
「へぇ! 私も描いていい?」
「いいですけど」
「じゃ、そのパレット貸して!」
この人は、僕の物をどんどん奪って来る。
パレットを貸した僕は、椅子も取られた。
「白い絵の具貸して!」
「は、はい」
結構高い油絵具なんだけど、彼女は半分くらい一気に捻り出した。
少しずつ出すだろ普通。
余ったら、もうそれ使えなくなるのに。
「へえ、この絵の具ってゴツゴツしてるのね」
「そうですよ。あと、高いのであまりそんなにギュッてたくさん出さないでください」
「あぁごめん。あとで缶コーヒーでも奢るから。てか、これいくらくらいなの?」
「千円くらいです」
「高っ! ごめん、缶コーヒー十本買うから!」
そういう問題では無い。
「良いですよ。どうせもう使わなくなるし」
「なんで?」
なんでって。
大学に進学するからだよ。
「やめちゃうの、絵を描くの」
「そうですよ。これからは勉強しないと」
「だったら、大学に行って続ければ?」
……。
「辞めると決めたので」
「えぇ、もったいない」
白木さんは、僕が作ったオレンジ色の絵の具を掬い、たっぷり白と混ぜた。
「ちょっ!」
「え、なに?」
「パレットの別の場所で混ぜてくださいよ! 白が全部使えなくなるじゃないですか!」
「あぁごめん。 まぁ、この一色しか使わないから」
「それじゃ、絵にならないでしょ」
「てかミカケ君。なんで敬語なの?」
ミカケ君。
初めて女子にそう呼ばれた。
「初対面ですし」
「でも、同学年ですし」
白木さんは正しく切り返してきた。
鍔迫り合いにも成らず、僕は顎に手を当てた。
「それもそうだね」
「うんうん。でさ、このキャンバス、全部使っても良い?」
「良いですよ。まだたくさんありますから」
「よしっ!」
と、白木さんはギャンギャンに絵の具をつけて、アニメみたいに大振りで描き始めた。
絵の具が散る。
「あははっ!」
「こ、怖いよ白木さん」
夕暮れを描いている。
だがしかし、とても美しい描写だった。
確かに、オレンジ色にしてはまだ明るい午後六時前。
白を足す事は悪くはなかった。
「上手だね、白木さん」
「でしょ! ミカケ君、黒!」
手を差し出した。
また僕から黒を奪おうとしている。
「一色しか使わないんじゃなかったの?」
「作戦変更!」
「なんじゃそら。あまりグリッと出さないでね」
「分かったって! 缶コーヒー二十本奢るから!」
いや、そういう問題ではないのだけど。
読んでいただきありがとうございます。
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次回の投稿は、6/23 20:10を予定しています。