サイドストーリー 三者面談
「これを見てください」
俺は詩音にある紙を手渡されていた。
フムフム、リサと同じ学校の三者面談の紙か。これがどうしたのだろうか。まさか俺に来てほしいのか?流石に年齢的に無理があるだろう。
「詩音、俺に来てほしいのか?」
「はい」
「どう見ても親には見えないだろう・・・」
「兄ということで来てください、他に誰も頼れる人がいないのです」
そう言われると弱い。思えば詩音の交友関係は狭かった。思えば4択だった。
1.ロマ(ナイア)
引きこもり丸坊主年中パジャマかネグリジェ姿女
2.ドミ
見た目は紳士で世話焼きだが愉快犯な所があり行動が読めない。遊べるときは遊ぶタイプの愉快犯。常に白スーツ。風呂場でも白スーツ。
3.魔法少女
オン・オフがはっきりしている。仕事のできる真面目な大人。極めて好感が持てる。ただし第三者の評価はコスプレ変態爺でしかない。前科多数あり。
4.俺
なるほど、この中なら僅差だが俺がまだマシだな。納得した。考えたら納得した。仕方ないあぶく銭はあるんだ。日にちもあるしスーツでも買うか。多少は見られる姿になるだろう。
・・・・・・・・・・
「待たせた」
「いえ、まだ時間はありますよ」
予定の二十分前だったが、詩音は既に校門前にいた。心なしかソワソワしていた。最近、なんだろう・・・子供っぽさが出てきて個人的には嬉しい。詩音には幸せになって欲しいものだ。学校ではやはりポニーテールにしているのか、見たのは二度目だが似合ってるな。髪型を変えて制服になるだけでいつもよりは年齢相応に見える。不思議なもんだ。
おっぱいだけは相変わらず年齢相応じゃないけど。
「失礼します」
「どうぞ」
順番が来たので教室に入った。目の前には詩音の担任の先生がいる。真面目そうな男性教師だ。
「本日は宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
男性教師は俺を怪訝そうに見ていた。
「私のお兄さんです」
「なるほど、兄妹ですか」
担任はそういって納得したようだ。各家庭にはそれぞれ事情がある。明らかに問題がなければ深入りしてはいけないところは流す。慣れているのだろう。
「ところで、どうして詩音さんはお兄さんの膝の上に座っているのですか?」
「・・・・・・」
最近ずっとこうだったから何も疑問に思わず受け入れていた。いきなりしくじった。
「先生、細かいことは気にしないでください」
「そうか、わかった」
細かいことなのだろうか・・・違う気がするのだが。
「まあ、詩音さんの成績ですが・・・あまりよろしくないですね」
「はあ」
意外だった。見た目は賢そうに見えるのだ。見た目だけなら生徒会長とかやっててもおかしくはなかった。凛とした雰囲気を持ち身長も高くスタイルの良い美人生徒会長。違和感は全く無い。
だが、基本的に詩音は見た目詐欺なんだよな。普段の生活で勉強している姿など見たことはなかった。興味のないことには全く興味を持たない詩音だ。
「ただ、体育は抜群に良いですね。スポーツ推薦など興味は?」
「無いです。進学予定もありませんし」
まあそうだろう。学校にはそれほど興味も無さそうだし。リサのことは大切に思ってくれているようだが、それも俺のせいで関係を断とうとしている。
なおさら進学する意味など詩音の中ではないだろう。
「すると・・・この希望通り就職するのか?」
「はい」
中卒で就職は本来ならきつい。だが、俺はすでに詩音が余裕でマンションを買えるくらい稼いでいることを知っていた。気付けば俺が借りて住んでいるマンションのオーナーが詩音になっていた。家賃は身体で払えと言われている。流石に断った。
「この・・・ヴァンパイアハンターというのはどんな職業なんだね?」
「・・・・・・」
詩音には一般的な社会性がなかった。一見あるようには見えるのだ。だが、あるように見えるだけで基本的にはコミュ障だった。ポンコツだった。
それ故に初対面ではよく誤解されていた。俺もそうだった。
「この世から消し去らないといけない害虫である吸血鬼を絶滅させる職業です。それなりに収入はあります。安定はしていませんが」
「なるほど・・・」
担任の顔は困ったというような顔をしていた。どう進路指導したものか。子供の無邪気な夢を潰すのもなんだろう・・・うーん、どうしようみたいな顔だった。
「なるほど、まあ頑張りなさい」
「はい」
担任のスルー力は高かった。ひょっとしてわりといい加減なのだろうか。あるいはもう色々と慣れてしまったのだろうか。ありうる話だった。
「この第二希望の・・・妹というのはなんだね?」
「書いてあるとおりです。私は妹になります。ヴァンパイアハンターと両立できる素晴らしい甘美な仕事です。本当はこちらを第一希望にしたいくらいなのです。今も本当の妹になるためにライバル(リサ)を蹴落としたり自分自身の妹力を上げたりと鋭意努力しています。妹の道は一日にしてはならずです。世界は厳しいのです」
詩音は何を言っているのだろう。そろそろ現実逃避したくなってきた。
「なるほど・・・頑張りなさい。3番目の希望は義妹か・・・これは聞かなくて良いな」
後半は何を言っているのか聞こえなかったが大したことではないのだろう。
「はい」
担任はスルーすることに決めたようだ。
これ、俺いる意味あったのだろうか?いてもいなくても結果は変わらなかった気がする。
まあ、本人が満足そうにしてたので良しとしよう。詩音には幸せになって欲しい。何かを我慢して泣きそうな顔をしているのを見るのは嫌だったのだ。俺はもうだいぶ詩音に絆されていた。
帰り道に一緒に紅茶のお茶っ葉を買って帰った。制服姿で少しだけはしゃぎながら紅茶を入れる詩音は年齢相応の子供に見えた。




