表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/159

4話 勇魔


 あの夜は乱れまくった姿を見せていたアリシアだったが、一晩経てば元の姿に戻っていた。


 俺がベッドに入った瞬間ガッチガチになっていた。ビクンッとわかりやすいくらい身体が緊張で跳ねた。


 ちょっとだけ笑えた。


 「なあ」


 「は、はい」



 「不安だろうが、少しは安心しろ。これでも約束は守る方だ。酷いことはしない」


 「う、うん」


 気休め程度の効果だが、言わないよりはマシだろう。本心でもあったしな。



 「弟は・・・テッドはその後・・・どうだ?」


 「はい・・・その、なんとか」


 牢屋にいたテッドは手足の腱を切られていた。おそらくは・・・今週切られたのだろう。まだ怪我も治っていないはずだ。おそらくろくに動けないだろう。


 「良くなるといいな」


 「・・・ありがとう・・・ございます」


 家族のために身体を張るやつは嫌いじゃない。もう責める気にはならなかった。


 心から憎い相手には酷く出来る。だが、嫌いじゃない相手に、あるいは少しでも好感を抱いてしまった相手に酷いことをするのはとてもしんどいのだ。


 思えば詩音に酷いことをしたときは酷く辛かった。酷いことをしたのは俺の筈なのに、何故か自分が打ちのめされていた。


 もうとっくの昔に負けていた。意地を張っても余計なストレスを溜めるだけだろう。気楽に好きにしよう。



 「ヨナとは仲がいいのか?」


 「はい、凄く優しくしてくれます」


 はあ・・・アリシアだけではなくヨナにも優しくしてやる理由が出来てしまった。


 妹に優しいやつに・・・冷たくは出来なかった。ヨナは俺と同じだった。性格やら生い立ちやらは違うだろう。ただ、妹が・・・大事だったのだ。


 自分の良心を捨てて家族以外の誰かを裏切り続ける鬼になれる程度には大事だったのだ。


 はあ、あんなんでも昔は苦労したんだろな。髪に白髪も混ざってたし・・・。


 なんだろなあ・・・二人とも出来れば普通の出会い方がしたかったな。まあ、贅沢な話か。普通の出会い方をしていたら姉妹同時テロならぬ姉妹同時エロなんて無理だったろうし。


 ふと、余計なことを思い出してしまった。


 あのときのヨナとアリシアの乱れきった姿を思い出してしまった。思い出すとムラムラした。


 なんとか思考を逸らそうと俺は先程の顔面にパックを塗ったカーネルの顔を思い出した。効果は抜群だった。俺の股間は萎えた。



 「その・・・しないんですか?」


 何とか理性を回復させようとしていた時にアリシアがそんなことを囁くように聞いてきた。いやらしい声ではないのだが、耳元で囁かれると脳に電流が走った。端的にエロかった。


 挑発してるのか・・・こいつ?この初めての癖にめちゃくちゃ乱れたこのエロ貧乳女・・・もう一度同じ目かもっと酷い目にあわせてやろうか?ああ、こいつのヒイヒイ泣いて乱れる姿が見たい。


 一瞬そんな思考が浮かんだ。いかんいかん。


 「しないんですか?」


 追い打ちをかけてきた。よしやるか。本人もこれはやる気だわ。俺かなり頑張ったわ。これだけ我慢したら充分優しくした。その筈だ。よしやろう。








 そんな風に思った時だ・・・空が爆発した。




・・・・・・・・・・




 轟音だった。爆弾が落ちたのかと思った。俺たちがいた部屋の屋根や壁が半壊して大きな穴が開いていた。穴からは空が見えた。


 状況を確認してる間も爆発するような音は続いていた。街のあちこちで何かが爆発するような音が響いていた。アリシアの悲鳴が聞こえた。



 アリシアが何かを見て悲鳴を上げていた。


 俺はアリシアが見つめている先を見た。そこにはバラバラになった人の身体のような物が落ちていた。



 屋根を破壊したのは空から落ちた人の身体だった。



 爆発音は続いていた。ゆっくりと一回ずつ爆発音がしていた。まるで回数を数えさせるためにゆっくりと爆発させているように思えた。嫌な予感がした。


 だいたい100回ほど爆発音がしただろうか?嫌なことにそれは街から逃げ出した人間の数と・・・おそらく同じだった。




・・・・・・・・・・




 「いけないな!いけないな!」


 遠くからそんな声が聞こえた。



 「街から逃げ出すのはだめだ!だめだとも!」


 続けて聞こえた。



 「逃げ出したやつは全員捕まえて殺した!面倒な仕事だったよ!全くもう!」


 面倒な仕事をさせるなとばかりに大声で文句を言っていた。



 「それはさておきだ!出てきたまえ!中々の手際だった!褒めてやる!挨拶くらいしたまえ!」


 それはおそらくは俺とカーネルのことだった。



 「さあさあさあ!待っててやる!待っててやるから出てきたまえ!嬉しいんだよ!来てくれてありがとう!待ってたんだ!呪いの武器を持つものよ!」


 間違いない。俺たちに語りかけている。



 「挨拶と宣戦布告をしたいだけだ!戦う前にはそれくらいしたまえ!礼儀だよ!礼儀!逃げ隠れせずに出てきたまえ!ガッカリさせるな!」


 判断に悩んだ。相手はおそらく俺の目的の吸血鬼だ。城に閉じこもっている時に殺すよりも、わざわざ街まで出てきてくれている今の方が殺しやすい。さて、どうしたものか。



 「おお!勇者よ!素晴らしいな!好きだぞ!とても好きだ!素晴らしい!素晴らしいな!」


 どういうことだ?まさか・・・


 俺はアリシアを宿の中から出ないように言い含めて、慌てて宿を飛び出した。そして気配を隠しながら声のする方の様子を伺った。




 カーネルだった。カーネルは吸血鬼の前に堂々と立っていた。吸血鬼はカーネルを見て素晴らしいと褒め讃えていた。


 「素晴らしい!素晴らしい!弱きものよ!か弱きものよ!素晴らしい!感動したぞ!」


 吸血鬼は感極まっているように見えた。



 「戦力差はわかっているはずだ!勝ち目のないことなどわかっているはずだ!どうして私の目の前に立った!?聞かせてくれ!勇者よ!素晴らしき勇者よ!」


 「マモル ベキ ナカマ イル ナラバ ワタシ タタカウ」


 吸血鬼は泣いていた。ポロポロと涙を流し泣いていた。本心から感動したかのように泣いていた。


 カーネルの答えを聞いた吸血鬼は、カーネルの方を向き膝を下り、まるで尊敬すべき相手に敬意を示すかのように顔を伏せた。



 「素晴らしい。本当に素晴らしいよ。ああ、君の名前をどうか聞かせてほしい」


 「カーネル」



 「覚えておく。君が死んでも覚えておく。君という素晴らしい勇者がいたことを覚えておく。どんなことがあろうとも覚えておく。心から言うよ。ありがとう。勇気が出た。勇気が出た。君が大好きだ。心より尊敬するよ」


 吸血鬼は泣いたあとカーネルに丁寧に頭を下げた。そしてお礼を告げた。それはまるで本心のように見えた。どういうことだ?



 「さて、それでは始めるか。挨拶代わりだ。おっと、その前に自己紹介だな。私の名はドライだ。ドライと呼んでくれカーネル。本名だ。全ての吸血鬼の王であり、魔王とも呼ぶべき最強の吸血鬼であるドライ様の数多いる分身のドライだ。嫌いな名前なのだが君のような勇者に覚えてくれたらとても嬉しいよ、カーネル。どうか憎しみでも敵意でもいい。殺し合うときは君の想いを込めて名前を呼んでくれ。私もそうする」


 吸血鬼は話し続けていた。話し続けながら掌を上にかざしていた。かざした掌にはいつしか赤い球体が産まれていた。


 球体はどんどんどんどん大きくなり2メートルほどのサイズになっただろうか。



 「では行くぞ、カーネル。受け止めるなり躱すなり好きにしたまえ」


 吸血鬼が掌の向きを変えた。カーネルのいる方向にクイッという感じで変えた。


 赤い球体がものすごい勢いでカーネルに向かい飛んでいた。まるで弾丸のような速さだった。




 カーネルは不動だった。飛んでくる球体を残された片目で見つめながら左手に持っているマジカルステッキを地面に勢いよく突き刺した。そして右腕を前に突き出した。



 爆発が起きた。とてつもない爆発が起きた。鼓膜が破れたかと思った。耳が一瞬キーーーンという音がしてそれ以外は聞こえなくなった。破壊で生じた煙で前も見えなくなった。


 激しい爆風が去った。少しずつ煙が薄くなっていた。俺は慌ててカーネルがどうなったか確認した。



 カーネルは・・・酷い怪我を負っていた。明らかに酷い・・・もう戦えない。今すぐ治療しないと不味い。そんなレベルの怪我を負っていた。


 カーネルの背後の街は破壊されていた。破壊され尽くしてカーネルの背後には街はもうほぼ存在しなかった。カーネルの身体に護られた部分だけがかろうじて残っていた。



 カーネルは立っていた。片目の眼光は鋭く、相変わらず吸血鬼を見つめていた。この程度の怪我など大したことはない。そう言いたげな視線だった。



 「素晴らしい。本当に素晴らしい」


 「アイサツ オワリ?」


 効いていない筈がない。明らかにボロボロだ。だが、カーネルは何も変わらなかった。



 「見事だ。本当に見事だカーネル。城で待っている」


 吸血鬼はカーネルに深々と一礼して去ろうとした。心からの敬意を表する。そんな丁寧な一礼だった。そしてこちらに背中を見せた。俺に背中を見せた。





・・・・・・・・・・




 殺意が湧いた。元々殺す予定だった相手だ。その上目の前で俺の仲間のカーネルにとんでもない傷をつけた相手だ。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す。


 そう思った瞬間俺は疾走していた。背後から心臓を刺す。それで終わりだ。卑怯も糞もない。お前は今すぐ死ね。1秒でも早く死ね。



 吸血鬼の背中が目の前に迫った。殺した。



 そう思った瞬間だ。俺は背後から右腕を肩ごと斬り落とされていた。


 

 誰だ!俺は緊急回避をするように横に大きく飛んで振り返った。


 そこには騎士が着るような鎧を着た敵がいた。俺を斬った血を手に持った剣から滴らせながら俺を見つめている騎士がいた。騎士は頭部まで完全に覆われた鎧を着ており中身は一切わからなかった。






 「うん、君は・・・女装していた嘘つきの子じゃないか?元気だったかね?」


 吸血鬼の声がした。とても近くから吸血鬼の声がした。俺は慌てて振り返った。



 「やはりそうだな。久しぶりじゃないか。あのホテル以来だね。その後は順調かね?」


 「どういうことだ・・・?」


 

 「うん?ああ、私は分身だと言っただろう?君と前にあのホテルで出会ったのも分身だ。だから君のことはわかるよ。久しぶりだね」


 「・・・マジで?」


 俺は思わずそう返していた。



 「マジだとも。嬉しいね。やはり私達のカンは当たっていたか。見逃して正解だった」


 「・・・・・・」



 「質問があるのだがね。いいかい?」


 「・・・なんだよ?」



 「君・・・何か変わった能力とか持ってないかい?」












 聞かれた瞬間全身に怖気が疾走った。




 おぞましい予感に身体が震えた。かつて同じ質問を俺にした相手がいた。




 それは・・・あの島で出会った狂ったロマだった。あの狂った女と一言一句同じ質問を目の前の吸血鬼は俺にしていた。





 幕間 NORMAL END

 

趣味全開の拙い作品ではございますが最初からここまでお読み頂けたなら嬉しいですね。少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。評価やブックマーク宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ