2話 不全(下半身)
俺たちは引き続き街の外で待機して様子見をしていた。
街からは百人程度だろうか?思っていたよりは少ない数の人間が荷物を持って逃げ出していた。周囲には亡者はいない。今なら街から出ることは可能だった。
問題は安全な場所に辿り着けるかどうかだが、それは俺には関係ない。俺の目的はカーネルの仲間の聖女の救出と城の吸血鬼を何が何でもぶち殺すことだ。
必ず吸血鬼だけは殺してやる。
一つ目的が増えてしまったから難易度は上がってしまった。だが、俺に命をくれたあの男との約束は決して裏切れない。あの約束は神聖なものだ。言うならば魂の契約だ。必ず城の吸血鬼を殺す。俺はそう決めていた。
街から逃げる人が途絶えた。そろそろ落ち着いただろう。俺とカーネルは相談の上、リュックサックを背負って中に戻ることにした。
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前回訪れた時は夜だったからな、人がどの程度減ったかよくわからない。まあ、とりあえず宿屋で休もう。
あいつらがいない宿屋で缶詰でも食うか。ある程度食料が残っているといいんだが。逃げる際に食料は持っていくだろうし、大したものは期待できないだろな。酒場兼宿屋に着いた。さて入るか。
俺は扉を開けて中に入った。
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「いらっしゃい」
なぜいる。
普通にヨナがいた。出会った時と同じ絶妙に露出度の高い服装で普通にいた。
相変わらず谷間が見えそうな着崩し方だった。スカートはとても短かった。男心をわかっていた。素晴らしい。実に素晴らしい。違う。冷静になれ。
「い・・・いらっしゃい・・ませ」
アリシアもいた。
こちらはシャツのボタンをちゃんと止めていた。スカートはヨナと同じく短かった。ふう、脚がエロい。細い脚がとてもエロい。華奢な肩もエロい。あと、おどおどしてるのにいざやりだすと豹変してとてもエロかった。
違う。冷静になれ。下半身でものを考えると失敗する。
よし!オッケー。俺は冷静だ。
「カーネル?」
「モンダイ ナイ」
問題ある気するんだが・・・こいつらのいる宿屋に泊まるのやだぞ俺?つい先日、斧で両手両足ぶった切られたんだよ俺?多分EDなってるよ俺?あれからなんの反応もないもん。ピクリともしないもん。そりゃトラウマなるわ。
「カーネル、他の宿屋を探そう」
「ヤドヤ イッカショ ダケ」
ダメ元で聞いたがやっぱりないのか。それほど大きな街ではないからな。そりゃそうか。
「住人の居なくなった一軒家を探そう」
「ソウスル?」
具体的に俺がどんな目にあったかはカーネルに伝えて無いからな。牢屋でカーネルと合流したときには俺の身体はもう回復していた。
まさかこの虫すら殺せそうにないような顔と華奢な身体をしている女が、つい先日斧をブンブン狂ったように俺の身体に振り下ろしてたとは思わないだろう。
俺も自らの身体で体験してなければ信じない。多分痺れ薬を飲まされたくらいに考えてるんだろな。
「あ、あの・・・」
俺の足を盛大に寸刻みにしてくれた頑張り屋のアリシアさんが近づいてきていた。
「お詫び・・・させてください」
相変わらずキョドっている。キョドってはいるがこちらをしっかりと見つめていた。発した言葉が嘘だとは思わなかった。悪意は感じなかったし、仮に悪意があったとしても流石に二度目は引っかからない。
性的な意味でお詫びはさせてやりたいが、二度も引っかかるのは御免だった。
それ以外にもこいつらには複雑な気持ちを抱いていた。もうなんかめんどくさくなっていた俺はこちらを見るアリシアを無視して無言でカーネルと二階の部屋に移動した。とりあえず疲れてたから休みたかった。
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今回はカーネルと同室だ。一人ずつ罠にかけるより、二人同時に罠にかける方が難しい。この方が安全だった。カーネルは頷いていた。特に反対はなかった。
日光で消耗していた俺はカーネルに見張りを頼み先に寝ることにした。疲れていた。
起きたら身体はスッキリしていた。回復力が上がっているのだろうか?ドミは吸血鬼は反則的な生き物だと言っていたな。魂を一つ奪っただけでこれだ。城にいる吸血鬼が奪った魂の総量によって、俺たちはとんでもない苦戦を強いられるだろう。できる限り弱いことを希望したいが・・・期待薄だろうな。
弱ければカーネル一人で殺している。無理だから俺に助けを求めた。強くなろう。弱いと約束すら守れない。家族にも詩音にももう会えなくなるからな。
寝起きに色々と考えていたら、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
ガチャリ
ヨナだった。アリシアもいた。
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「少しいいかい?」
「・・・なんだ」
寝起きに見たい顔ではない。
「すまない。食事を作ってきた。どうか食べてほしい。変なものは入れていない。信用がないのはわかっている。だから目の前で私達が食べる。それから納得したら食べてほしい」
「毒味か」
「そうだよ。信用されてないのはわかっている。でも、少しでもお詫びがしたい。だから一緒に来た。アリシアも同じ気持ちだ」
ふう、寝起きにめんどくさいな。今更罠にかけないとは思うが、可能性はゼロではない。カーネルが横にいるから仮に罠があっても問題はないだろうが、わざわざ2度も引っかかりたくはない。
まあ、毒味してなにもないなら頂くか。実際腹は減っているし美味そうな匂いはしてるんだよな。
目の前でアリシアが皿の料理を少しずつこちらを見ながら食べ始めていた。味わうような食べ方じゃない。自分を見ているのをチラチラと時折確認してから、ゆっくりと俺が見やすいように食べていた。俺はカーネルの顔を見た。
「ドク ナオセル」
カーネルは頷きながらそう言った。カーネルの治癒能力は肉体的損傷だけでなく解毒もできるようだ。それを知った俺は食べることに決めた。ただし、念の為脅しをかけた上で様子を見ることにした。
「毒が入っていたら殺す。宣言しておくぞ。毒が入っていたら酷い目に合わせた上で殺す、いいな?」
実際はなんだかんだ殺さないだろう。脅しだがヨナはともかくアリシアは動揺したら顔に反応が出るだろう。特に怪しい反応はなかった。カーネルも頷いていた。
俺は料理を食べた。警戒しながら食べたが味自体は前よりも美味しかった。よく見ると少し豪華だった。
街に贅沢するような余裕はないはずだ。アリシアとヨナなりの誠意なのだろう。素直に受け取るには複雑だった。




