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9話 選択



 「店はオレに任せておけ」


 そういい放った浩平はいつもの頼りになる顔をしていた。



 俺たちは気づけば駅前の・・・大人の事情で詳しくは描写の出来ない・・・エッチなことが可能な大人の店のあるビルの前にいた。



 ビルの入り口にある看板にはどの看板にも店名が書かれていない。

 各部屋の看板ごとに、部屋番号と派手な極彩色で描かれた蝶のような模様だったり、何か劣情を誘うよな図柄が書いているので営業はしているようだが・・・ここで本当にあってるのだろうか?


 まさか、許可をとっていない違法店モグリじゃないだろうな・・・。


 ふと見ると浩平はスマホを見ながらテクテクと歩きそのままビルの中に入りエレベーターに乗っていた。無邪気に嬉しそうに手招きをしている。俺にはそれが三途の川の船を漕ぐ船頭が沈む船に乗れと不気味に手招きをしているように見えた。なぜか嫌な予感がしていた。



 エレベーターに乗った俺は聞いた。


 「なんて名前の店に行くんだ?俺、こういうの初めてなんだよ」


 エッチなお店初体験の俺はワクワクしていた。



 浩平の返答は・・・


 「妹パラダイスだ」


 自信満々な返事が返ってきた。



 俺の耳がおかしいのだろうか。嫌な店名が聞こえた気がした。


 「いも・・・なんだって?」


 聞き間違いであって欲しい。



 「妹パラダイスだ。妹天国シスターズヘブン義妹学園シスター・イン・ロウ・スクールと・・・いもうと倶楽部も候補で悩んだんだが・・・」

 聞いていない情報が追加で浩平の口からスラスラと俺の耳に流れてきた。どうやら聞き間違いではなかったようだ。そして相変わらず無駄に英語の発音が良い。



 どうやら俺の妹に対する思いと、浩平の妹に対する思いには・・・少しだけ違いがあるのかもしれない。



 つい先ほどまでバッチリあっていた俺と浩平との息が・・・明確にずれた気がした。




・・・・・・・・・・




 浩平の真剣な顔を前に俺は何も言えず、俺たちは妹パラダイスの中に足を踏み入れた。



 「いらっしゃいませーー!」

 髭面の愛想のいいガタイの良い男がにこやかに声をかけてきた。



 「当店は初めてでございますか?」



 「初めてです」

 流れるように既に浩平が返事をしていた。


 受け答えは浩平に任せよう。俺も浩平もピカピカのチェリーだがこの店はやつの選んだ店だ。


 どのように店員と受け答えをすれば楽しめるか下調べして作戦を立てているだろう。


 大雑把な馬鹿に見えてなんだかんだ準備の良い浩平の選択を信頼していた。



 時々気になる単語が聞こえていた。


 「体臭の強い女性をお願いします」「オプションはこれとこれとこれを・・・あ、おしっこもお願いします」



 時折不安を感じる単語が出て来た気もするが初体験の上に下調べ不足の俺が口を挟んでも良い結果は出ないだろう。浩平の性癖の可能性もある。他人の性癖に口を出すべきではない。


 エッチなお店で歴戦の勇者のように堂々と振る舞う浩平の姿を信じて見守ることにした。




 浩平と店員とのやり取りが終わり、質問用紙を渡された。


 何でも細かいプレイ内容の要望を書けるらしい。


 代表的なものをあげると、接客してくれる女性が俺たちをプレイの際にどんなふうに呼んでくれるか呼称を選べたりするらしい。




















 「お兄ちゃん、おにいちゃん、オニイチャン、お兄様、兄上、お労しや兄上、兄君、兄貴、クソ兄貴、兄様、兄たん、ニイタン、兄上様、兄君様・・・〇〇君、○○ちゃん、ゴミ兄、ブラザー」



 呼ばれたい呼称を○で囲んでおけば、接客してくれる素敵な女性レディがその希望通りの呼び方をしてくれるようだ。


 たかが呼称一つにここまで選択肢を考える・・・人の業や執念のようなものを手元の質問用紙から感じていた。まるで呪われた質問用紙だった。


 この店はどうやらカルマの深い上級者向けの選択肢も豊富なようだ。そう感じた。




 初心者の俺にはお兄ちゃんとおにいちゃんとオニイチャンの違いがわからなかった。



 浩平に聞くと一番舌っ足らずなあどけない感じで呼んでくれるのがオニイチャンらしい。


 そして比較的一番しっかりした口調で呼んでくれるのがお兄ちゃん。


 おにいちゃんはその中間らしい。明確な説明だった。返答に悩んでいる様子は一切なかった。知っていて当たり前の常識をお前は何故質問するんだ?そんな様子だった。


 


 まさか実妹がいながら本気の妹萌えなのだろうか?俺は違う意味で浩平のご家庭の事情が心配になった。まさか性犯罪とか・・・やってないよな?実家は自分から自発的に出たんだよな、決して妹に性的に手を出して追い出された訳じゃないよな?


 吸血鬼退治とは無関係な点で俺は不安を感じていた。




 ふと、周囲を見回すと待合室にいる男たちが真剣な目で質問用紙にカリカリと書き込んでいる姿が見えた。


 時折、判断に悩むのか手が止まったりもするが全員真剣に書いている。目が血走っているやつもいる。


 それは・・・まるで試験を受ける人間が必死に少しでも高得点を取れるように、悩みつつ答案用紙に答えを書き込んでいるようにも見えた。






 すごいな。でも俺妹属性は萌えないんだよな。


 実の妹がいる人ならば納得してくれるだろうが、実の妹なんぞしょせん糞だ。なんの興奮もしない。使い終わった公衆便所のトイレットペーパーの芯程度の存在だ。あるいはそれ以下だ。


 勿論二次元の妹には興奮可能だ。だが実の妹に性的な価値などない。言うならば中身を取った後の枝豆のサヤ程度の価値しかない。妹なんぞ兄にとってはその程度の存在だ。そこらへんの鳩にくれてやるパンくずの方がまだ価値がある。糞食らえだ。




 そんなことを考えていた。


 ふと浩平の方を見ると、そこには既にすべての項目にビッシリと書き込みが済んだ答案用紙を手にした浩平がいた。


 百点満点の回答を既に記入したから見直す必要などオレにはない。


 そんな自信に満ち溢れた漢の顔をしていた。





 出来れば吸血鬼と戦う時に見たい顔だった。



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