8話 作戦
「作戦はどうする?」
浩平は筋肉ムキムキの上に空手をやっていて強い。だが、さすがに殺すことを前提に戦ったことはないだろう。俺はそもそも貧弱だし平和主義者だった。
急所を攻撃することに抵抗はなさそうだが、さすがに空手をやっているとはいえ素手で倒せるとは思えない。武器がいるな。
「考えていたが囮を使おう。片方が囮、片方がトドメを刺す役だ」
既に浩平は作戦を決めていたようだ。相変わらず一度覚悟を決めると頼りになる。ぶれないな。
「わかった。俺が囮をやろう。浩平の方が体格がいいし力が強い。俺は・・・見ての通り華奢だからな」
良く言えば中性的、悪く言えば女顔の上に体格も細い。妹のリサと一緒に出掛けたときにお姉ちゃんと間違われたこともある・・・今となっては笑い話だな。生きてまた会えると良いのだが。
さて、俺がトドメを刺す役割をするよりは浩平の方が適材適所で向いている。役割を逆にするよりはこの方がお互いに生き残れる確率は高いだろう。
俺が発端で浩平をこんな事態に巻き込んでしまった罪悪感も感じている。
俺よりも先に浩平を死なせたくない・・・恥ずかしくて口に出しては言えないがそう思っていた。
「俺がお前を廃ホテルの探検に誘ったからこうなったんだ。任せてくれ」
「・・・わかった。すまんが頼む。アイツの油断を誘うために、アイツの要求してきた通りに女としてお前をアイツの前に連れて行こうと思う。悪いが女装してくれ」
「・・・・・・え?」
その時の俺の返事は・・・まるで難聴系の主人公のようだった。
「上下セットの黒いランジェリーをつけてスカートを履いてほしい。ガーターベルトもセットでな」
浩平の顔は・・・驚くほど真剣だった。
そう・・・神木相手に斧を振るった時と同じ顔をして目を血走らせていた。
ゴクリ・・・緊張で自分がツバを飲み込む音がとても大きく聞こえた。
・・・・・・・・・・
「すまない、浩平・・・よく聞こえなかったようだ」
聞き間違いの可能性を捨てきれなかった俺は確認することにした。出来れば女装はしたくないのが本音だった。
「上下セットの黒いランジェリーをつけてスカートを履いてほしい。ガーターベルトもセットで頼む。ウイッグもつけてくれ」
聞き間違いじゃなかった。そして要求が増えていた・・・さっきよりもランジェリーの発音が良かった。そういえば英語の成績良かったな・・・こいつ。
「スカートとウィッグはわかるんだが、ランジェリーとガーターベルトは・・・必要なのか?あとすまん、何故黒色まで指定するんだ?」
浩平の趣味の可能性があるんじゃないか?俺は疑心を抱きながらそう問いかけた。
「ああ、ランジェリーが無いと身体のヴァストラインが変わるからな。あと、ランジェリーとガーターベルトは武器も隠しやすい。必要なんだよ。黒色は光の透過率が低い。物を隠すのには黒が最適だ」
浩平の口からはすらすらと明確な理由が出てきた。
そして無駄にバストの発音が本格的だった。「バ」ではなくて「ヴァ」だった。なんか不思議とむかつくものがあった。
「なるほどな」
納得はしていないのだが筋は通っていた。
だが、どこで女物の下着や服を入手する気なんだ?
まさか俺たち男二人で仲良く女もののランジェリーショップに行くのか。必要とあれば行くが出来れば行きたくない場所だ。
「・・・下着や服は持ってないよな?どこで手に入れる?」
ダメ元で浩平に聞いてみた。行かずに済むならその方が助かる。女とならぜひ行きたいが男とランジェリーショップに行っていいことなど何一つ無い。
「いや、流石に持っていない。入手先には当てがある。任せておけ」
木材の入手ルートは任せておけと言っていた時と浩平は同じ顔をしていた。
あの表情をしているときの浩平は頼りになる。任せておけばよいだろう。餅は餅屋だ。
「ところで」
「なんだ、浩平?」
「吸血鬼退治の作戦の一環でエロい店に行かないか?」
「行く」
反対する理由は何一つ無かった。