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13話 応援


 「頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私・・・頑張れ私!」


 足元に立っているアリシアは何かを見つめながら気付けばブツブツとずっと呟いていた。俺はアリシアの視線がどこに向いているのかを確認した。


 アリシアの視線は俺の足をずっと見ていた。足は逃げられないように拘束されていた。


 「頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私頑張れ私、出来る出来る出来る私は出来るさっきもやれたさっきもやれた」



 「そうそう、アリシア。少し両手を持ち上げて振り下ろすだけでいいんだよ。難しくないって。お姉ちゃんがさっきやってたの見てたでしょ?あんな感じにやればいいんだって」


 ヨナさんはアリシアにそう話しかけていた。つい先ほど宿屋の部屋でまぐわっていた時と同じ口調でアリシアに話しかけていた。そこには何の変化も見当たらなかった。


 変わっていたのは俺の両手の肘から先が失われていること。そして肘のあたりの切り口がグズグズと火傷したかのように爛れていることだった。


 そして、アリシアの目は血走っていた。ずーっと俺の足を見ながら目を血走らせていた。そしてアリシアの呟きとヨナさんの応援は続いていた。


 不意に失った両手が傷んだ気がした。その時になりようやく俺は現状に気持ちが追いついたのだろう。


 気付けば俺は絶叫していた。


 殺される家畜があげるような声だった。




・・・・・・・・・・




 「ほら、アリシア。早くしないと起きちゃったじゃない」


 「ご、ごめんなさい。やっぱり怖くて」



 「怖くてもやらないと仕方ないでしょう」


 「でも・・・」



 「いい、この男はね。さっき初めてのあなたを散々好き放題にしたのよ?初めてのあなたを散々好き放題したの!そんな相手に何をしてもアリシアは悪くないわよ。それにね、憎い酷いこいつ相手にさえ出来ないのならアリシアには一生無理よ?」


 「う、うん・・・」



 「いい?優しいアリシア。お姉ちゃんはね、いつまで生きてるかわからないのよ?アリシアは自分でお姉ちゃんがやるのと同じように出来るようにならないといけないのよ?じゃないとテッドを守れないわよ?」


 「う、うん」



 「今回は運が良かったの、本来ならテッドは助からなかったわ。いい?アリシア。テッドを助けたいならね、目の前のこの男の足を切り落として代わりに差し出さないといけないの。私達の愛するテッドを守るためよ」


 「うん、が、頑張る」



 「そう、いい子よアリシア。私の自慢の妹よ」


 「頑張れ私。私はお姉ちゃんだ。テッドのお姉ちゃんだ。頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ」


 気付けばアリシアは両手を振り上げていた。そして、ゆっくりとゆっくりと一番高く振り上げられた斧が・・・俺の右足に振り下ろされた。



 一瞬痛みは感じなかった。だが、少しした後に俺は無様な悲鳴を上げた。上げ続けた。


 「アハハアハハアハハウヒウヒウヒアハウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


 アリシアは狂ったように笑っていた。そして斧を振り上げ振り下ろし、斧を振り上げ振り下ろし・・・俺の右足を寸刻みに刻んでいった。まぐわっているときは可憐に感じた美しい顔はまるで鬼女のようになっていた。


 俺はその間、無様に叫んでいた。のたうち回りながらながら叫んでいた。


 「アハアハアハアハアハアハアハアハアハアハアハアハアハ・・・ウヒウヒウヒウヒウヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 ようやく斧の動きが止まった。だが、アリシアは壊れたかのようにずっと笑っていた。



 「ほら、アリシア。もう一本!もう一本!」


 「ウヒ・・ウヒ・・アハ・・・アハ」


 アリシアは斧をゆっくりと振り上げた。そして俺の残された左足に何の淀みもない動きで斧を振り下ろした。




・・・・・・・・・・




 「ごめんごめん、痛かったよね」


 俺が痛みにのたうちまわりしばらくした後、ヨナは全く変わらない様子で話しかけてきた。


 「それじゃあ死なないように止血するね」


 止血?そう思った瞬間、左足に高温に熱した金具を押し付けられた。傷口はジュウジュウと焼け、肉の焼ける嫌な臭いがした。


 「じゃ、次ね」


 右足にも金具は押し付けられ傷口を焼かれた。


 俺は肉を焼かれる痛みに狂ったように叫んでいた。



 「よしよし、もう大丈夫だからね」


 「・・・」


 ヨナの様子は何一つ変わらなかった。


 アリシアは狂ったようにブツブツと呟いたり笑ったりしていた。


 「な、なんでこんなことを」


 「うん?最初に言ったじゃないか」


 「な、何を?」


 「先週6人生贄を差し出したって、じゃあ今週は?」


 「・・・」


 「困ってたんだよ、今週の6人の中にね。私達の弟が選ばれてしまった」


 「・・・」


 「でもね、街の決まりでね。誰か代わりを差し出せば弟は助かるんだよ。だからね、君たちが来てくれた時はすごく嬉しかった。ひょっとしたら助かるかもしれないって思ったからさ」


 「・・・」


 「本当はね、私達と弟を君たちの住んでいる街に連れて行ってくれるならこんなことはしなくても良かったんだ。だから精一杯私もアリシアも頑張って気持ちよくなって貰ったんだよ。そして心からお願いしたんだ。でも私達のお願いは断られた」


 「・・・」


 「私達の身体は気持ちよかっただろ?私達も良心はあるからね。最初のお願い事を聞いてもらうか、もしくは弟の代わりになって貰う代金として頑張ったんだよ。それはアリシアも同じだ。初めてなのにね、弟を助けるために身体を張ったんだ。お姉ちゃんだけに負担はかけさせられないって言いだしてね、いい子だろ?」


 「・・・」


 「だからね、アリシアは頑張ったんだよ。経験がないのに頑張ってただろ?あれはね、アリシアなりのお願いを聞いてもらうための、あるいは身代わりになってもらう代わりの誠意なんだよ」


 「・・・」


 「私達の身体を堪能しただろ?だから宜しくお願いするよ。まあ、もう両手も両足も切り落としてしまったからさ。もうどうしようもないんだけどね」


 「・・・」


 「さて、じゃあ後は街長に引き渡せば弟は助かる。もう少しそのままでいてくれたらそれでいい。運ぶのは私達がやるからさ。おかげで本当に助かったよ。次があればまたとっても気持ち良いサービスしてあげる。じゃ、いこうか」


 ヨナはそう言い放ち、俺の身体に縄を括り付けた。そして俺を引き摺って移動させ始めた。



 「ほら、アリシア。あなたもこの縄持って。お姉ちゃんだけに持たせないで」


 「フヒヒ、うんお姉ちゃん」




 狂ったように笑うアリシアと様子の変わらないヨナに俺は引き摺られていった。


 ズルズルズルズルと何処かへ引き摺られていった。



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