11話 初心
「じゃあ・・・どうする?」
女はイタズラっ子みたいな表情をしていた。少しだけクスッと笑っていた。そしてゆっくりとこちらに近づき俺の隣に密着するように座った。
肩に届かないくらいの癖のあるショートヘアが良く似合っていた。髪は青っぽい黒髪だった。苦労しているのだろう・・・まだ若いのに少しだけ白髪が混じっていた。
俺の真横に座り谷間を見せつけながらクスクス笑っていた。大きかった。気付けば俺の太ももに女の手が乗せられていた。
「その・・・」
「あんまり慣れてないの?」
ほぼ無経験だ。多少汚れはしたが童貞ではある。
「まあ、そこそこかな・・・」
何故か俺は見栄を張っていた。見栄を張りたくなる悲しい男心だった。
「ふーん、じゃあ部屋に行きましょうか?お客様」
俺は女に腕を掴まれていた。正確には胸の谷間に腕が挟まれていた。好みではないのだ。決して好みではないのだが既に勃起している俺がいた。既に勃っていたがそれ故に立てなかった。俺の股間はまるで富士山のように隆起していた。
「緊張してるの?」
「いや、そんなことはない」
「じゃあ立ちましょっか」
女にそう言われ俺は右手で股間を隠しながら立ち上がった。左手は女の胸に囚われていた。なんかムニョムニョしていた。
・・・・・・・・・・
俺は女に案内され宿の一室にいた。
「部屋はここよ。他に泊まっている人はいないから、お連れ様とは一番離れた部屋にしてるよ。だからね、いっぱい騒いでも大丈夫だから」
「・・・・・・ゴクリ」
俺は思わず生唾を飲んでいた。女に聞こえなかったか不安だった。
「さてさて、じゃあここに座って」
俺は大きなソファーに座らされた。女が飲み物を準備しているが、短いスカートから艶めかしい太ももが見えていた。
興奮した。あまり好みの相手ではない筈なのだが、ものすごく興奮していた。それと同時に緊張もしていた。
「どうぞ、ちょっとだけ緊張を和らげる飲み物。ちょっとだけ興奮もするかも?」
ゴクリッ、なにかの間違いだろうと思っていたがここまで判断材料が揃えばほぼ間違いないだろう。女からヤル気を感じた。
「ゆっくり味わうように飲んでね。そうそう。ゆっくりね。ねえ、実は初めてだったりする?」
バレていた。何かで察知されたのだろう。俺は無駄な虚栄心を捨てて、素直に甘えることにした。
「はい、実は・・・初めてなんです」
「へえ、そっか。それは何より。あの子も初めてだからさ、初めて同士でいいんじゃないかな」
ん?このお姉さんは・・・ヤラナイノカ?
「じゃ、声かけて来るから楽しみに待っててね。可愛いからさ、優しくしてあげてよ。それとも3人でする?」
「・・・・・・」
女は色気を振り撒きながらこちらを散々挑発して去っていった。あれ?ひょっとしてこれは・・・詐欺?実は金だけ取られて・・・すんごいのが来るやつ?
俺は疑心暗鬼に陥っていた。
・・・・・・・・・・
無限とも思える時間が過ぎただろうか。何か物音が聞こえるたびに緊張した。詐欺なんじゃないか?帰ったほうがいいんじゃないか?
いや、本当だったら惜しい。童貞を捨てるチャンスだ!ヘルズゲート事件で失敗した辛い記憶を活かせ!家は危険だ!ここなら邪魔は入らない!絶対に入らない!さすがにここにはリサは来ない!詩音も来ないはずだ!
悩んでいた俺の選択は結局の所、とりあえず顔を見てから判断しようという先送りだった。
だってまだお金払ってないしさ、詐欺じゃないと思ったんだよ。
悲しい男心だった。そして1時間近く待っただろうか、物音に敏感になっていた俺には部屋をノックする音がものすごく大きな音に聞こえてドキッとした。
リサじゃないよな・・・流石にないよな・・・俺は緊張しながらソファーから立ち上がりドアを開けた。
そこにいたのは・・・少しだけ癖のある綺麗な銀髪を肩まで伸ばした女性だった。俺と同じ年齢か、あるいは少し年下かもしれない。綺麗な顔つきだが少しだけ幼さを感じる顔だった。髪はわずかに湿っていた。
「・・・こ、こんばんは」
女性は明らかにキョドっていた。ガッチガチに固まっていた。
「こ、こんばんは」
俺も緊張していた。
「そ、その」
「はい」
「お部屋、お邪魔しても?」
「どうぞどうぞ」
俺は扉を大きく開き、女性が入れるように場所を開けた。女性は緊張しながらも、おっかなびっくりといった感じで部屋に入った。
・・・・・・・・・・
「その、座ってもいいですか?」
女性はどうしたら良いのかわからないといった感じで部屋に立ちすくしていた。
「どうぞ」
俺は先程座っていたソファーに座るように促した。女性が先に座り、俺も少しだけ距離を置いて隣に座った。
そして無言の時が流れた。
・・・・・・・・・・
喋らない、なんか百面相みたいな感じに表情が変わっているから何か考えているのはわかるんだが、引っ込み思案な性格なのだろうか?何も喋らない。
「あ、う・・・頑張れ私」とか言う小さな声が聞こえるがそこで止まる。
そして俺も何かうまい話でも思いつけばいいのだろうが、何も会話が浮かばなかった。不味い。緊張してやばい。何をしたらいいんだ俺は?目の前の綺麗な女性を相手に何をすればいいんだろうか?
よく見たら着ている服は薄着だ。ネグリジェみたいな服を着ていた。下着は薄っすらと透けて見えていた。白だった。俺は思わず凝視していた。
百面相をしていた女性が俺の視線に気づいたのかこちらを向いた。そして俺の目を見て視線の先を確認した。自分の下着を見ていることに気づいた女性の顔は薄っすらと赤くなり顔を伏せた。




