10話 談話
カーネルと俺は酒場で出されたレモンとオレンジのような味のする果実水と何かの肉の煮込み料理を食べていた。何の肉なのだろうか・・・少し不安ではあるがカーネルは普通に食べている。おそらく大丈夫だろう。
「美味しい?」
「え、ええ」
不安はあったが不味くはなかった。嘘ではなかった。
「そう、お客さんまだ若いけどお連れさんとはどんな関係?」
「・・・大切な仲間です」
「そう、仲良いのね。今夜は泊まっていくの?」
俺はカーネルの方を振り向きどうなんだ?という意味を込めて見つめた。
「ツカレタ ヤスム」
「わかった。カーネルの判断に従うよ」
「そう、じゃあお部屋少しだけ掃除するように伝えておくわね」
女は少しだけ上機嫌に見えた。そして掃除するように伝えに行くためだろう。店の奥に消えていった。
・・・・・・・・・・
「なあ、カーネル」
「ウン」
二人になった俺はカーネルに聞きたいことを聞いていた。
「この街さ、酷い状況だよな」
「ウン」
「この状況ってさ、本当によくある普通のことなのか?」
「ソウ フツウ ナンドモ ミタ」
「・・・そうなのか」
「ソウ」
世界は厳しかった。俺が知らなかっただけで平和な世界から一歩足を踏み出すと世界には絶望が溢れていた。この街がどこの国に所属する国かは知らないし位置もわからない。だが、平和な俺が住んでいた国を離れれば・・・こんなろくでもない世界が広がっていた。
詩音は・・・こんな世界を旅していたんだな。俺は詩音のことを考えていた。今でも年齢だけを考えれば詩音は子供だ。今ですら子供だ。身体は成長して大人だが、俺に容赦なく甘える姿を見ると・・・おそらくは子供の頃に本来なら得られるべき愛情というものを得られなかったのだろう。
あるいはとんでもない辛いことがあってトラウマでもあるのかもしれない。抱き枕になることを拒否した時の何かを諦めるかのような詩音の暗い表情からはそんな想像を俺にさせていた。
俺に懐いてくれるのは嬉しい。大切な仲間だし見た目は極上の美女なのだ。見た目だけなら好みだった。おっぱいも大きいしな。
でも改めて思ったよ。
詩音に手を出す訳にはいかない。彼女はまだ子供だ。俺への甘え方は親だったり兄だったりあるいは飼っていたペットだったり、そういうものが複雑に絡み合った甘え方だ。そこに色恋や性的な意味はない。
仮に俺が詩音にそういう意味で手を出せば彼女は傷つくだろう。それは何が何でも避けるべき最悪の事態だ。
自慰の回数・・・増やすか。限界ギリギリまで出してから会えば物理的に勃たないしな。あるいはヘルズゲートのサクラさんに・・・見た目は好みだったな。惜しいことをした。
まあお楽しみが邪魔されてしまったのは本当に残念だったよ。でも、来る前にリサに会えて良かったと思う。それは嘘じゃない。大切な愛する妹に会えて嬉しかった。
俺はこの依頼の中でおそらくは死ぬだろう。一度で済むとは思えない。おそらく何度も死ぬだろう。死ねば俺の人間性は少しずつ失われる。別人になる訳ではないが、死ぬ前の俺と死んだ後の俺には僅かだが少しずつズレのようなものが発生していた。ループ能力があっても死にたくない理由の一つだった。
カーネルに助けてくれと頼まれてこの話を聞いたときに悩んだ。おそらく間違いなく命を落とすからだ。俺は自分自身の強さにそれほど自信はない。
だが、だがだ・・・助けを求めるカーネルを見て俺は自然と答えていた。
「わかった、俺で良ければ力になる」
そう、答えていた。
その時の俺の脳裏には、馬鹿で糞ったれな俺が放つ槍に腹をぶち抜かれても俺のために身体を張るカーネルの姿が浮かんでいた。
カーネルはいつもの顔で笑っていた。仲間のために身体を張って何が悪いと血を流しながら笑っていた。
衣装は相変わらずだったが誇るべき尊敬すべき仲間だった。いつかはこうなりたいと思わなかったといえば嘘になるだろう。
命は大事だ。とても大事だ。だが、大切なのは命だけではない。仲間も大事だ。カーネルのために命の危険を犯すのなら悪くない。そう思っていた。
・・・・・・・・・・
「できたわよ」
カーネルと話しつつ考え事をしていたら時間が過ぎていた。気付けば女が戻って来ていた。
「ああ、部屋の準備が終わったのかな?」
「そう、この状態だと外からのお客さんなんて来ないしね。しばらく埃を被ってたんだけどさ。久々に楽しく二人で掃除したわよ」
「二人?」
「そう、うちのもう一人の看板娘。後で部屋に行かせるから」
「うん?」
「疲れてるだろうし、嫌いじゃないでしょ?部屋は二つ空けてるから」
「・・・・・・」
予想外な展開だった。え?どうすればいいのこれ?困った俺はカーネルの方を振り向いた。
「ジャア アス マタ」
カーネルはいつもの笑顔を見せて2階に上がっていった。隣には少しだけ楽しそうにしている女が残っていた。




