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9話 難度


 「マッタ?」


 「いや、先ほど着いたところだ」


 ドミさんと話し込んでどうなるかと思ったが俺の方が先についていた。カーネルはリュックサックを背負っていた。手にも一つリュックサックを持っている。準備しててギリギリになったのだろうな。


 「コレ モッテ」


 「わかった。中身は?」



 「ミズ ショクリョウ」


 「ああ、最低でも一週間分だったか」



 「ソウ ジカン カカル」


 「了解、俺はまだ弱い。作戦に従うよ」



 俺はリュックサックを背負い腕輪を操作した。




 依頼難度8 吸血鬼に囚われた聖女の救出




 これが俺とカーネルが今回挑む依頼だった。腕輪を操作した。いつものごとく一瞬意識が消えた。そして気付けば・・・



 

・・・・・・・・・・




 「ついたな」


 「ウン」


 到着した場所は平原だった。特に身を隠すような場所は一切ない。敵がいればすぐにわかるが、俺たちも身を隠せないから敵に発見されやすい。そんな場所だ。


 周囲には街と・・・城のようなものがあった。平原から見る城はもやがかかっているかのようにボヤけていた。あるいは蜃気楼のように城自体が揺らいでいるように見えた。最終目的地は城だ。俺たちはあの城をなんとか攻略して中に囚われている聖女を救出する。それが今回の達成すべき目標だった。



 「マズハ マチ テキ タオス」


 「ああ、ウジャウジャいるな」


 街が見えた。街の周囲には人だかりがあった。正確にはゾンビの群れだ。グールもいる。カーネルとの作戦で先ず俺はこの群れを討伐する必要があった。


 幸いグールの難易度は低い。難度は2だ。ゾンビは1だからゾンビになれた俺には打って付けの相手だ。


 要はまず、街の雑魚処理をして強くなりつつ城に挑戦する力をつける。そういう作戦だ。俺たちはリュックサックをその場に下ろした。


 「イコウ」


 「ああ」



 カーネルの頼もしい後ろ姿が見えた。服装こそいつもの魔法少女のコスプレだが、颯爽と街を囲んでいるゾンビとグールの亡者の群れに向かい歩いていた。


 俺も少し距離を置いてカーネルの後を追った。



 亡者の群れがカーネルに気づいた。ワラワラとゆっくりと近づいていた。グールの方が足が早く、何体か先行している。その後ろにゾンビの群れが、ワラワラとゆっくりとカーネルに向かい歩いていた。



 カーネルは亡者の群れを見ても何一つ動揺を見せなかった。左手にステッキを握り、地面に突き刺していた。右手の拳は強く握りしめられ腰の位置でいつでも拳を繰り出せるように準備していた。



 最初のグールがカーネルに襲いかかった。カーネルはグールの顔面に向けて右拳を放った。


 グールの頭部は吹き飛んでいた。即死だった。




・・・・・・・・・・




 すごいな。俺と殴り合った時は手加減してくれてたんだな。当たり前か。



 亡者の群れに意思はない。あるのは血を吸いたいという欲求だけだ。目の前で仲間が吹き飛ぼうと何の動揺も見せずにカーネルに襲いかかり続けていた。


 次のグールの頭部も吹き飛んだ。次も次も次も次もだ。強い。特別なことは何もしていない。だが強い。俺は一瞬だけカーネルの強さに見惚れた。


 さて、俺は俺の仕事をするか。俺は気配を極力消しながら亡者の群れの背後に回り込んでいた。目の前には背を向けた足の遅いゾンビの群れがいた。


 俺はゾンビの群れに対し音を立てないように背後から一匹ずつ静かに心臓を槍で貫いて行った。


 一匹、二匹、三匹、ゾンビを殺すのはもう慣れていた。一月以上殺してきた相手だ。相変わらず腕には嫌な感覚が残っていたが、もう慣れていた。帰ったらシャワーを浴びればいい。それだけの話だった。



 たまにこちらを振り返るゾンビもいた。だがあくまで一部だった。大抵の相手は拳で頭部を粉砕して派手な音を立て続けるカーネルに気を取られ、俺に注意を向けるやつは少なかった。俺は静かにゾンビを間引いていった。



 百匹以上気付けば間引いていた。


 さて、街の周囲にはまだまだいるが、カーネルに群がっているゾンビはほぼ殺した。


 次はグールだな。


 俺はグールの動きを少しだけ観察した。初めて戦う相手だ。カーネルの負担を減らすために早く殺さないといけないが、焦りはミスを生むだけだ。俺はこの一ヶ月のゾンビ退治でそれを学んでいた。


 

 動きはゾンビより早い。だが、普通の人間並だな。何も問題はない。殺そう。



 俺はグールの背に向けて槍を振るった。ゾンビを貫いた感覚とは違い少しだけ硬かったが問題なく槍はグールの身体を貫いていた。


 「ふう、問題ないな」


 俺は槍を引き抜き、次のグールに向けて槍を振るった。


 確かにゾンビよりは早い。だが、問題はない。


 慣れればゾンビを狩るのとそれほど変わらなかった。カーネルと俺で亡者の群れを挟み撃ちにしつつ30分ほど戦い続けただろうか。気付けば立っているのは俺とカーネルだけだった。



 「オツカレ」


 「ああ」


 腕が少し重い。難度2の相手にこれだとまだまだだな。だが、確実に強くなっていた。



 「スコシ ヤスム」


 「わかった」


 カーネルはリュックサックを置いた場所に小走りで走り中から飲み物と食べ物を持ってきてくれた。


 「ありがとう。コーヒーは好きなんだ」


 「ドウゾ コレモ」


 缶コーヒーだが贅沢は言えない。充分嬉しい。甘い缶コーヒーの糖分が労働後の俺には有り難かった。


 ついでにくれたナッツ類の袋をポリポリかじりながら俺とカーネルは一休みした。



 「イドウ スルヨ」


 「わかった」


 俺たちはリュックサックはその場に置いたまま、街に近づくことにした。平原には生きている者はいない。いるのは亡者だけだ。食料を奪われる心配はいらなかった。




・・・・・・・・・・




 まだいるな。


 街の平原側の入口についた。街は壁で覆われていた。反対側は見えないがおそらくは向こう側にもこの壁はあるのだろう。高さは2.5メートルほどだろうか?工夫すれば登れなくは無いが普通の人間の身体能力では簡単には登れない。それくらいの高さの壁だ。


 だいぶ間引いたが、入口付近にはチラホラとグールとゾンビがいた。街を囲っているであろう壁の周囲にはびっしりと数え切れないほどの数の群れがいた。俺とカーネルは手分けして一匹ずつ殺していった。



 街の中に入った。入り口を抜けると大通りだ。それほど広くは無いが住んでいる人間が街中を移動するのに使われていた。そんな形跡があった。


 「いないな、夜だし建物の中か?」


 「ソウ」


 カーネルは以前、留置所から腕輪の力を使いこの街には何度かやってきていた。当然城もある程度偵察済みだ。その上で一人では無理だと判断し俺に助けを求めたのだ。


 

 「コッチ」


 「ああ」


 俺はカーネルの案内に従い移動した。気付けば目の前には酒場兼宿屋だろうか?そんな看板のついている建物があった。


 「ハイル」


 「わかった」


 カーネルは扉を開き中に入った。俺も後に続いた。




・・・・・・・・・・




 「ちゃんと人がいたんだな」


 看板どおり中は酒場だった。中には酒を飲みながらイスに座っている客が何人もいた。酒を飲んではいたが楽しめている雰囲気は感じなかった。


 辛い現実を誤魔化すために酒に逃げている。そんな感じだった。


 「あらいらっしゃい。またきたのね」


 「ウン」


 気付けば酒場の店員さんだろうか?ピッチリとしたシャツと短めのスカートを履いた二十代後半くらい?の女性がいた。シャツのボタンはいくつか外されて着崩していて色っぽい雰囲気だった。


 「今日はお連れさんもいるの?」


 「ウン」


 「はじめまして」


 俺たちは酒場で飲み物と食べ物を注文し女の話を聞いていた。




・・・・・・・・・・




 「街は相変わらずよ」


 「ソウ」


 「相変わらず・・・とは?」


 カーネルは何度も来ているようだが、俺は初めてだった。1から説明してほしいがどうだろうな。


 「お連れさんは初めてよね。今この街はね、ここからすぐ見えるあの城の吸血鬼に支配されてるの。それで、定期的に生贄を6人ずつ吸血鬼に差出してる。先週も6人城に行ったわ。正確には縛り付けて連れていかれたんだけどね」


 「縛り付けて?」


 「そう、街の人間がね。自主的に差し出してるのよ。生贄を差し出さないと街の人間を吸血鬼に好きなだけ殺される。街の周囲を亡者の群れが取り囲んでいたでしょ?生贄を差し出さないとあの群れが街中に放たれるのよ。以前は一回で百人以上殺られたかしら?だからね、街の人間で毎週毎週話し合って生贄を6人決めて差し出してるのよ。百人殺されるよりは6人の方がましでしょ?」


 確かにそうだ。単純計算なら100引く6で94人助かったことになる。だが、そんなに簡単に割り切れるものじゃないだろう・・・。


 「決められた6人はたまったものじゃないからね、逃げようとしたり抵抗しようとしたりするやつも当然いる。だからね、もう選ばれた時点で逃げられないように縛り付けてしまうの。それでも暴れるなら手足の腱を切る。そうすれば逃げられないでしょ?まあ、元々街から出ようとしたら亡者の群れに襲われるから逃げられないんだけどね」


 「・・・・・・」



 「相変わらずってのはこういうことよ、わかった?」


 「ああ」


 心底ろくでもない話だった。


 カーネルから聞いて覚悟はしていたが初めて来たこの街はもう既に終わりかけていた。


 

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