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7話 領域


 人はね、極限まで集中するとね、おっぱいが止まって見えることがあるんだ。

 あれほど素早く動くおっぱいがね、まるで止まっているように見えるんだよ。



       詩人スペルキャスター 獄中の両手ダブルハンドにおっぱい




・・・・・・・・・・




 「ふんふんふーん、ふんふんふーん」


 膝の上には上機嫌な詩音さんがいた。何の曲かはわからなかったがご機嫌なのはわかった。いつもは静かに寝ていましたが、鼻唄を歌うときもあるんですね。俺は詩音の新たな一面に直面していたよ。


 そういえば趣味はピアノだったな。すっかり忘れていたが。あと、脳内で謎の詩人が謎の詩を読んでいた。いかんな、どうやら混乱しているようだ。



 そして、リサさんの新たな一面にも直面していた。こちらを廃棄物ゴミでも見るかのような目で見ていた。今迄で一番きつい目で俺を見ているかもしれない。そのエムの趣味のある人にはきっとたまらない視線だろう。



 「・・・・・・」


 「・・・で?」



 「うん、何かな?」


 「変わったことはしてないって言ってなかったっけ?」



 それ言ったのは今膝の上に乗っている人なんだよな。


 「うん、膝の上に載せることはおかしいことじゃないと思うんだよ」


 「付き合ってるの?」


 まあ、そう思うだろう。この距離感だし。


 「いや、そういうわけではない」


 「・・・まあ、いいけどさ。本人幸せそうだし」


 意外と追求が緩かった。なんだろう。


 「最近さ、詩音ちゃんが明らかに学校で幸せそうなのよ」


 「ほう」


 「相変わらず私とろくに会話しないんだけどさ、なんか時折幸せそうにして少しニヤニヤしてるのよね」

 まあ、私じゃないとわからないくらいの微妙な変化なんだけどさ。そう呟いていた。


 「ほう」


 「なんでだろなーって疑問に思ってたんだけど謎解けたわ」


 「う、うん」



 「よくわからないけど本人が幸せなのなら私は受け入れて応援するよ、クソ兄貴もちゃんと詩音ちゃんのこと大事にしなよ」



 「ああ、それはもちろんだ」


 詩音は仲間だ。恋人同士では無いが大切な仲間だった。リサの思う大切にすると俺の思う大切にするに齟齬があるのはわかっていたが、大切にしたいというのは本当だった。



 色々と誤解があるのかもしれない。でも詩音を仲間として大事に思う気持ちに嘘はなかった。


 俺の気持ちが伝わったのだろう。ジト目で俺を見ていたリサが俺を見て少しだけ笑顔で笑っていた。


 「じゃ、見てるのもあれだし帰るわ」


 「そうか?別にいてくれても構わないぞ」


 

 ピンポーン




 悪魔の呼び声が聞こえた。それは俺を破滅へと誘う悪魔の声だった。


 本来ならばこれは俺を快楽へと誘う祝福の鐘の筈だった。だが・・・神はもう死んだ。何か適切な手を打たなければ神の祝福は失われ地獄の門が今すぐにでも開こうとしていた。



 不味い。膝の上には詩音が座っていて身動きが出来ない。そして今からリサは帰ろうとしている。このまま返してしまえば玄関でリサとわざわざ家に来てくれた素敵なお姉さんがエンカウントだ。そうなれば終わりだ。


 考えろ。考えろ。考えろ。俺が今取りうるベストの選択肢はなんだ?考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。何かいい案はないか?丸く収めるいい案はないか?




 その時俺の脳裏には電流が走った。スポーツ選手が過酷な練習を続けた際に入ることが初めてできる領域ゾーンとも呼ぶべきものに俺は入っていた。


 これだ!この手だ!



 「リサ、待ってくれ・・・その、リサを仲間外れにしたくない。詩音も大切だが、リサのことも大切なんだ。なんせ・・・家族だしな。もう少しいてほしい。頼むよ。久しぶりだしリサともっとゆっくり話がしたいんだ」


 俺は真剣な表情でリサにそう話しかけた。



 「そ、そう・・・まあ、そこまで言うなら。急に何よ・・・もう」


 ちょろい。リサは照れていた。普段はこちらをゴミ扱いしかねない愛する妹が照れていた。さっき追い返されたのを忘れているらしい。よし、次だ。



 「詩音、少しだけ済まない。おそらく何かの勧誘か間違いだと思うのだが来客に対応させてほしい。少しだけ失礼するぞ。ここでいい子にして待ってるんだぞ」


 まあ、今インターホンを鳴らしているのはほぼ確実に俺が呼んだとあるお店に所属する素敵なお姉さんなんだがな。


 俺は膝の上に座る詩音さんを優しく抱き上げた。そして俺は詩音さんを大切に運び、リサの膝の上に乗せた。

 

 「ちょっと・・・急に何するのよ」

 リサはジト目で俺を見ていた。無理もない。いきなり膝の上に誰かを載せたら文句の一つくらい言うだろう。当然だ。



 「リサ、少しの間だけ詩音を頼む。詩音は信用している人の膝の上に乗るのが好きなんだよ。良ければ少し優しく抱きしめてやってくれ」


 そう・・・間違ってもトコトコと俺の後を着いて玄関まで来ないようにな。お前の手でその危険人物を拘束しておいて欲しいんだよ。なーに、外にいる素敵なお姉さんと話を着ける少しの間だけでいいんだよ。すぐに済むさ。



 「・・・信用・・・そ、そう。少しだけよ?」


 我が妹ながらチョロかった。照れていた。なんだろう、実は騙されやすいんだろうか?少し心配だ。


 しばらく交流がなかったのもあるのだろう。リサは詩音を膝に乗せた状態で手をお腹に回し、軽く抱きしめるかのようにホールドしていた。照れてはいたが嫌そうには見えなかった。よしこれで二人は身動きが取れないはずだ。計算通りだな。



 我ながら神策だな。もはや今孔明と言っても過言ではない。




・・・・・・・・・・




 俺は玄関に財布を持って移動し、無言で扉を開けた。口元に縦に指を立てて沈黙のポーズを取りながらだ。そして静かに扉を閉じた。



 「あの、お客様。お呼び頂いたヘルズゲートのサクラと申しますが何かございました?お部屋を間違ってはいませんよ・・・ね?」


 「ああ、間違いではない。そして大きな声を出すな。極力静かな声で話してくれ。そう、それでいい。確かに俺が君を呼んだ。すまない。本当にすまない。先ずはこれを受け取ってくれ。5万ある」


 「はあ・・・では、お釣りを準備しますね」

 明らかに困惑している。だが、指示通りにサクラさんは聞いてくれた。いい子だ。



 「釣りはいい。来客が来てしまったのだ。すまないが今日はこれで速やかに帰ってほしい。君に不満はない。だが、家に今家族が来ているんだ。君を今家の中に入れると・・・とても不味い事態になってしまうんだよ」


 「・・・なるほど、わかりました。それではこれで。次回にちゃんとお返ししますね」


 「すまないな、君のような素敵モノワカリノイイなお嬢さんに出会えてよかったよ」


 「いえ、ではこれで。また呼んでくださいね」



 ヘルズゲートのサクラさんはそうして何事もなく帰っていった。清楚な美人だった。今度は楽しみたいものだ。




・・・・・・・・・・




 ふう、疲れたな。さて戻るか。



 その後、何を話したかはあまり覚えていない。


 無理もない。スポーツ選手が領域ゾーンに入ると凄まじい運動性能を発揮すると聞くがそれは諸刃の剣なのだ。過剰な性能は同時に肉体をも蝕む。俺の脳は一時的に酷使したことで機能が低下していた。


 二人は気付けば2時間ほど家にいた。帰った時には19時半になっていた。疲れた。とりあえず少し寝よう。


 カーネルとの待ち合わせに寝坊しないようにタイマーをかけて俺は少しだけ仮眠した。


 幸い寝坊はしなかった。


 

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