6話 窮地
もし性欲を適切に解消することに失敗すれば、性欲が私達の生を終わらせるだろう。
D.T.O. シコルキン談
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今俺の脳裏にはそれっぽい過去の偉人のそれっぽい言葉が浮かんでいた。
15分だ。15分以内に俺はこの目の前にいる愛する実妹のリサさんを帰さなければならない。
俺は追い詰められていた。とてつもない窮地に追い詰められていた。どうすればいい?どうすれば何故か俺の家の玄関前にいる相変わらず可愛い我が妹を追い返せる?制服姿だが学校帰りなのだろうか?相変わらず俺の妹は可愛い・・・混乱した頭でそんなことを俺は考えていた。
「あがるわよ」
「お、おう」
気付けば家の中に上がることに同意をしていた。俺は無力だ。糞だ。ゴミだ。
「意外ときれいじゃない」
「あ、あた、時間あるときに掃除してるからな」
動揺した俺は噛んでいた。ドジっ子なのだろうか。
「家具もそこそこ揃ってる」
「ああ、調べてな。欲しくなったやつを買ったんだ」
なんせゾンビ退治というあぶく銭がいっぱい入る割のいい仕事についたからな。精神的に病むけど。
「お金は?」
「ちゃんと働いて稼いだお金だよ、その・・・パパ活は冗談だったんだよ、誤解させてすまない」
「そっか、それならいいよ」
「ああ、今日はどうして?」
「メッセージ送ってきたのお兄ちゃんでしょ」
そうだった。最悪の事態を想定して送ったのは俺だった。心配して見に来たのだろうか?
「ああ、そうだったな。すまない。来てくれてありがとう、久しぶりに会えて嬉しい」
嬉しいのは嘘ではない。なんせしばらく顔を見たくないと父づてで言われていた相手だ。会えて嬉しいのは事実だった。
だが、どうして・・・大人の店を頼んだタイミングで家に来てしまったんだ・・・メッセージか電話でいいじゃないか。ありがたい、とてもありがたいんだが致命的にタイミングが悪い。どうか速やかに帰ってほしい。飴ちゃんやるから帰ってほしい。なんならお小遣いあげてもいい。
「いいよ・・・私も悪かったしさ。色々あったんでしょ」
気付けばリサさんはポニーテールにした自分の髪を弄りながら気まずそうにそんなことを言っていた。これは言い慣れないことを言って照れている反応だ。兄歴の長い俺にはわかる。可愛いが早く帰れ。
「そっか、ありがとう。リサ」
ありがたい。ありがたいんだが、残り時間は気付けば後8分になっていた。後8分でどうにかしないとこのリサさんの俺を呼ぶ呼称はお兄ちゃんからゴミへと再び変化するだろう。
あるいはそもそも無視されるかもしれない。残り8分の勝負だ。なんとかしなければ。
「さっきからチラチラと時計見てるけど」
「うん、なんだ?」
「足も貧乏ゆすりしてるけど、何か用事あるの?」
あるんだよ。性欲の発散という人の根源的な大切な用事がな。8分後には来てくれる素敵なお姉さんとその大切な用事を済ませる予定なんだよ。早く帰ってくれないだろうか。我が愛妹。ほんと来てくれて有り難いんだよ。有難いけど今は速やかに帰れ。
「あ、ああ。ちょっと用事が迫っていてな。実はその・・・時間がないんだ。来てくれたのは凄く嬉しい。久しぶりに会えて凄く嬉しい。でも、用事が迫ってて・・・すまない」
後少しでインターホンがなっても何もおかしくないんだ。早く帰ってほしい。相変わらず可愛いけど早く帰ってほしい。
「そ、仕方ないわね。勝手に押しかけたのは私だし、じゃっ帰るわ」
リサさんは目的を果たしたとばかりにあっさりと玄関に移動した。ありがとうございます。聞き分けのイイ妹で本当にありがとうございます。本当にありがとうございます。流石は我が愛する妹だわ。さすイモ。
助かった!首の皮一枚助かった!死ぬかと思った!もうだめかと思った!油断するな!まだ油断するな!家を出るまでは不審な動きを見せるな!油断すれば死ぬ!
「じゃっ、またね。久々に会えて良かったよ」
リサさんは少しだけ笑顔をみせて帰っていった。いい子だ。とてもいい子だ。ありがとうございます。いや、ほんとリサさんはええ子やで。
こうして俺はなんとか生き延びることに成功した。
ふう、助かった。
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リサさんが帰ってから5分経った。そろそろ予定時刻だな。なんだかワクワクしてきた。なんだろうこの気持ち。すっごくワクワクしてきたぞ。まるで遠足の前のようだ。
ピンポーン
よし、時間に正確な素晴らしい仕事だな。素晴らしいと思う。どんな素敵なお嬢さんに会えるのだろうか。心がウキウキしてるな。
「はい、どうぞ」
ガチャッ
玄関を開けるとそこには・・・二人の可愛い女の子達がいた。すごい・・・思っていたよりも見た目のレベルが遥かに高い女の子達だった。俺は当たりを引いたようだ。おや・・・見間違いかな。
なぜコスプレをしているんだろう?あと、俺が呼んだのは一人の筈なんだが・・・好きな方を選んでくれというお店の粋な計らいかな?
女の子達は制服を着ていた。妹のリサさんが着ているような制服だった。そして隣には詩音さんに似た人がいた。同じく制服を着ていた。昔ながらのセーラー服だった。
制服姿を見るのは初めてだが、意外とよくお似合いですね・・・うん。あと、学校ではそういう髪型をしていらっしゃるんですね。少し高く結ったポニーテールが良くお似合いですね。なんでしょう・・・リサとお揃いかな。うん、少しおしゃれな感じの紺色のリボンが黒い髪によくお似合いですね。
うん、現実逃避は良そう。増えたわ。リサが帰ったと思ったら5分後にリサが詩音を連れて帰ってきやがったわ。
なんだろう?わらしべ長者なのだろうか?もう一度部屋から追い出したらもう一人増えたりするのだろうか?
「あがるわよ」
「あ、ああ」
「お邪魔します」
色々と考えていたら気付けば部屋に上がられていた。俺は無力だ。
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「で、どういうこと?」
気付けば先ほどほのかな笑顔をみせていた妹のリサさんはジト目で俺を見ていた。最近買ったキッチンのテーブルセットのイスに俺たち3人は座っていた。目の前には俺が入れた三人分のお茶があった。
「どういうこととは?」
「玄関前に詩音ちゃんいたんだけどさ、どういうことかな?なんで詩音ちゃんを家に連れ込んでるの?」
いたのが詩音でまだ良かった。タイミングを考えたら詩音でなくて俺の呼んだ素敵なお姉さんが既にいても何もおかしくはなかった。
「いや、誤解だ」
「誤解?どんな?」
「詩音を家に連れ込んだことはないぞ、今が初めてだ」
俺が連れ込もうとしているのはとあるお店に所属する素敵なお姉さんだ。詩音に手を出す気はない。誤解するな。
「そうですね、いつもは私の家に来てますし。初めてお邪魔させて頂きましたがいい部屋ですね」
そして詩音さんは何故俺の家の玄関前にいたのだろうか?うん、よく考えたら俺が連絡したせいですね。依頼前に顔を見に来たんだな。うん、少し考えたらわかったわ。後、雑談の中で家も教えてたし。
「ふーん?」
「いや、お茶をごちそうになってるだけだよ。リサが想像してるようなことはしてないぞ」
嘘ではない。俺は抱きまくらになっているだけで淫らなことは一切していない。子供の頃のリサにしていたサービスと大して変わらん。おっぱいの大きさは遥かに変わるがな。なんだろな、この格差は。
淫らなことは何度もしそうにはなっていたがまだしていない。俺の理性は鉄壁だった。
俺はもう・・・警察には捕まりたくなかったんだ。後、詩音の信頼も裏切りたくなかったんだ。
「そうですね、特に変わったことはしてないですね」
ヨイショッとそんな感じで詩音は立ち上がった。そしてトコトコと俺の方に歩いてきて俺の膝の上に座った。そして、背中を預けおそらくはご満悦な顔をしながらお茶を飲みだした。目の前には紺色のリボンでまとめたポニーテールがご機嫌な感じに揺れていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ふんふんふーん」
どうやら詩音さんはご機嫌のようだ。気付けば鼻歌を歌いだしていた。相変わらずマイペースだな・・・こいつ。初対面の時からそこだけは変わらない印象だわ。他は・・・すっごく変わったけど。
最初のクールな印象を少し返せ。ポニーテール引きちぎるぞこの野郎。




