1話 日々
ここから3部開始です。
予想外な初恋話を聞いていっぱいいっぱいだった俺は浩平と別れた後、家に帰って寝た。なんか疲れてたのか節子と話してスッキリしたせいなのかわからないがすごくよく寝た。熟睡だった。
そして目が覚めた。目が覚めた俺はこう呟いた。
「初恋は実らない・・・そんなもんだ」
俺は投げていた。浩平の恋についてはもうブン投げることにした。うん、一瞬カーネルを紹介することを考えたが流石にない。この初恋は実らせてはいけない。俺はそう判断した。
さて、今日は元気にゾンビでも狩ろう。よく寝たし体調がいい。準備運動したらゾンビ狩りだ。気づいたら稼いだ3万は全て消えていたしな。
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お、墓石が動いてるな。あそこから出てくるぞ。まだかなまだかな。
お、出てきた。よしよしいい子だ。
よーしよしよしよし、焦らすなよ早く出てこいよ。まだかなまだかな・・・お、出てきた。
「・・・アアアアア」
ゾンビと目があった。そこでようやく俺は素に戻った。何やってたんだろ?さっきまでの俺。とりあえずゾンビ来てるし距離を取ろう。舐めてかかれるほどまだゾンビには慣れていない。
距離を取ってようやく冷静になった頭で俺はゾンビを見ていた。男のゾンビだった。動きや表情におかしなところはなかった。よし・・・狩るか。
俺はゾンビの後ろに回った。半分は吸血鬼の俺の脚は速い。ゾンビは俺を見失ってキョロキョロしていた。後ろから無造作に脚を払うとゾンビは勢いよく前に倒れた。
俺は背中から容赦なく心臓を狙い突き刺した。
「一撃でいけたな・・・」
思わずそう呟いていた。初回よりはうまくいった。少しだが慣れたのだろうか。嫌な手応えは相変わらずあったが、最初よりはマシだった。
よし、続けてやろう。俺は墓石を観察し出てくるゾンビがいないか観察することにした。罰当たりではあるが墓石を叩いて刺激したりすると、それに反応して起き上がるゾンビもいた。合計8匹倒した俺は自宅に戻った。
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シャワーを浴びていた。返り血は浴びていないが、人の身体をしたものを殺すのはいい気はしない。なんとなくだが身体が汚れたような感覚があった。シャワーを浴びると少しだけスッキリするのだ。
ふう、そろそろ昼か。稼げたし奮発して出前でも取るか。俺は出前で中華を取ることにした。炒飯に餃子と鶏の唐揚げ。昔から好きな組み合わせだった。待ち時間を見ると40分ほどで届けてくれるらしい。稼げて気が大きくなっていた俺は即刻注文をしていた。
お、詩音から連絡が来てるな。訓練のお誘いか、ありがたい。
以前は罪悪感から詩音との訓練を苦痛に感じていたが、謝罪して新たな関係になった今となってはありがたい時間だった。週に2回、あるいは3回ほど詩音との訓練は行われていたが、変わらず行ってくれるらしい。本当に有り難い話だった。
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中華が届いた。中華は久々だ。なんだかんだトラブルもあったし実家では中華が出ない。中華が食べたければ外食するしかなかったのだ。
さて、味はどうかな。うまい。炒飯がうまい。出前なのにちゃんと米がパラパラになっている。素晴らしい。そして唐揚げを・・・うまい。肉汁と塩コショウが絶妙にうまい。そして餃子を・・・一口かじり俺は噴き出した。
すっかり忘れていたが、ニンニクは吸血鬼の弱点の一つだった。
餃子をかじった俺は吐き気を催し、食べたものを盛大に吐いた。炒飯はまだ消化されておらず、ゲロ色にツヤツヤしたお米が出た。ゲンナリした。
すっかり食欲を無くした俺は夕方までふて寝した。起きたら吐いたゲロがそのままあった。切ない。実家なら誰かが片付けてくれただろう。一人暮らしの切なさを感じた。
ふて寝して起きた俺が最初にしたことは寝る前に吐いたゲロの後片付けだった。
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夕方になり俺は詩音と近所の人気の少ない公園で合流していた。詩音は自分の予定が無いときは学校が終わった後に俺の訓練に付き合ってくれていた。
「少し上達しましたね」
「そうか」
「はい、前より動きがいいです」
「ありがとう」
実践を経験したからだろうか、少しだが上達したと褒められた。悪い気はしなかった。訓練は2時間ほど続いた。
「暗くなってきましたね」
「そうだな」
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな、良かったら送ろうか?」
気心が知れたからからだろう。気付けば俺はそんなことを言っていた。送られる相手は俺より遥かに強いのだが。
「そうですね、ではお願いします」
「じゃあ行こう」
「はい」
意外とあっさりと一緒に帰ることが決まった。正直断られる可能性の方が高いと思っていたが、やはり一人は寂しいのだろうか。
「一人暮らしだよな?家ではどんなふうに過ごしてるんだ?」
「本を読んだりでしょうか」
「本?」
「色々な物語の本を。子供っぽい趣味かもしれませんが・・・好きなのです」
「別に子供っぽいとは思わないけどな」
少なくとも実年齢はどうあれ見た目は俺と同じ大学生に見えるしな。
「そうですか」
「ああ、そう思う」
穏やかな時間だった。とりとめのない話をしながら歩いていたら家の前についていた。
「ここか」
「はい、そうです」
ちょっと豪華なマンションだった。すごいな稼いでいるのだろうか。これはひょっとして分譲マンションじゃないのか?
「ありがとうございます」
「うん、こちらこそいつもありがとう。送るくらいはさせて欲しい。大したことじゃないしさ」
そういった後、詩音は何か考えるような表情をしていた。一瞬何か言いたいことがあるのかと思ったが特に何もなくさよならの挨拶をした。
詩音を送った後、スーパーに寄って自分の食べれる食料を吟味して買い込んで帰った。餃子事件の失敗はもうしたくなかったのだ。




