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6話 人型


 詩音と別れた俺は一人暮らしの自宅に帰ってきていた。自宅から転送すれば依頼の場所に移動可能だ。さてゾンビ退治と行くか。


 武器は既にある。防具は動きを制限するようになるものはいらない。むしろ邪魔になる。幸いゾンビの動きは鈍いらしい。


 そして俺は半分は吸血鬼になりつつあるため普通の人間より身体能力が高い。よっぽどミスしない限りは避けれる。最悪はループすることになるが流石にないと思いたい。とりあえずいちばん簡単な依頼を選ぼう。




・・・・・・・・・・




 さて、難易度は1のゾンビ退治と。場所は・・・墓場か。それらしいがおかしいな。おっと、風呂場に移動するか。


 腕輪を操作して転送と・・・




 すごいな。どういう仕組みなんだろう。魔法陣のようなものが風呂場の床に現れた。このまま待てば良いのだろうか・・・と思っていたら光が強くなり意識が一瞬飛んだ。




 そして・・・気付けば俺は墓場らしい場所に立っていた。前世で言うところの西洋風の墓が多数ある。ある程度規則的に墓が並んでいる。極めて妙なことに・・・墓があるのだ。


 ここが前世の世界ならば墓があることになんの疑問も持たなかっただろう。だが、異世界転生した現世では墓があることは極めて異質だ。


 異質と言える理由がある。この世界では少なくとも俺の住んでいる国では墓を作るという風習がない。そんな風習はないのだ。


 ではどうするか?墓など作らずに土に埋めるのだ。そう・・・空いている土地があれば掘って埋める。それがこの世界での一般的な風習だった。


 火葬をする風習も存在しない。遺体を燃やすなんてとんでもない。そんなことはしていけないとても罪深い行為だとされていた。殺人よりも罪深い行為だと言われている。そんなレベルだ。



 空き地に適当に埋めてたらそこらへんが遺体だらけにならないかって?そう思うのは最もなことだろう。だが、この世界ではそれでなんの問題もないのだ。


 土に遺体をそのまま埋めると・・・そうすると一週間も経たない内に遺体は不思議と消えてなくなるのだ。微生物にものすごい速度で分解されるのだろうか?理由はわからない。だが、そのまま土に埋めさえすればあっという間に分解されて遺体はなくなってしまう。だから墓など必要がない。


 それがこの世界の実情だった。


 また、そのまま土に遺体を埋めると地の底に眠る神様の元へと誘われて再度生まれ変わることが出来るとも言われていた。故に棺に入れたり墓を作ったりして遺体を保存することは罪深いことなのだ。



 さて、この墓はどうしてあるのだろうか?



 疑問を感じながら墓を眺めていたその時だ。墓石がグラグラと揺れていた。地震か?とも思ったが地面は揺れていない。墓石だけが揺れている。


 まさか・・・中にゾンビがいて黄泉帰ろうとしているのか?そんな想像をしていた。少しだけ距離を取り様子を見ていたら墓石は倒れ、中から不自然な動きをする人間らしきものが出てきた。



 おそらくはゾンビだと思うが・・・まずは様子を観察しよう。



 背後に周り動きをじっくりと見ていた。墓から出てきたゾンビ?はあまり早くには動かずにいる。足を引きずるように少しずつ動いてはいるが遅い。極めて遅い。


 これならば大丈夫か。そう判断した俺はゾンビ?の後ろから横へと移動した。背後からはわからなかったが、横から見ると女のゾンビ?であることがわかった。胸が膨らんでいる。あの膨らみ方で男はないだろう。そして相変わらず動きが遅い。



 俺は次に前から様子を見ることにした。目の動きや表情などを見たかったのだ。


 うん、焦点があっていないな。生きている人間にしてもまともな人間ではないだろう。それに皮膚の色もおかしい。血の通ったような色をしていない。唇は血色が悪く土気色だ。表情は無表情。


 様子をじっくりと見ていた。するとだ・・・目の焦点はあっていないのだが、ゾンビ?らしき女はこちらに少しずつ足を引き摺りながら向かってきた。距離はまだ十メートル程度あるから余裕だ。まだ様子見を続けていた。


 

 「・・・アアア」

 うん、ゾンビだなこれ。表情も視線も声もわかりやすくゾンビだ。身体こそ腐ってはいないが、皮膚の色が明らかに生きている人間の色ではない。土気色をさらに汚くしたような色をしている。


 ふう、緊張するな。とりあえず石突きで転ばせるか。セイッ!俺はゾンビの脚を槍で勢いよく払った。


 あっさりとゾンビは勢いよく顔面から転倒した。顔を見ながら刺さずに済むのは少しだけ気が楽だ。俺はゾンビの肩に右脚をかけて起き上がれないように固定した。そしてそのまま・・・ゾンビの背中に槍を突き刺した。


 槍は簡単に刺さった。呪いの槍だ。通常の槍とは威力が違うのだろう。簡単に刺さった。だが、手に残る嫌な感触は簡単ではなかった。ズブリ・・・という肉を貫く感触は良いものではなかった。そう、嫌な感触だった。



 「アアアアアアアアア」

 刺されたゾンビは抵抗をしていた。相変わらずうめき声しか発せないようだが、暴れていた。俺は刺した槍を引き抜いた。引き抜くときも嫌な感触がした。そして再度、心臓付近を狙って背中を刺した。貫いた。嫌な感触がした。



 ゾンビの動きは止まった。吸血鬼と同じく心臓は急所だと詩音から聞いていたが・・・ふう、聞くとやるとでは大違いだな。



 これで一匹か。お、よく見れば他の墓石も2箇所動いてるな。続きをするか。




・・・・・・・・・・




 疲れた。合計3匹のゾンビ退治を済ませた俺は自宅に戻ることにした。幸い怪我はしていない。だが、死ぬかもしれないプレッシャーと見た目は人と変わらない存在を槍で貫くというのは思っていたよりも嫌な仕事だった。地面には行きと同じ魔法陣のようなものが見えた。光に包まれ一瞬意識を失った俺は・・・自宅の風呂場に戻ってきていた。



 ふう・・・死なずに済んだな。今夜はシャワーを浴びて寝よう。なんとなくだが自分の身体が汚れているような気がするんだ。返り血を浴びたわけではないのだが気分的なものだ。



 シャワーを浴びた。何か夜食でも食べた方が良いのかもしれないが食欲は沸かない。俺は一人、部屋に準備されていたベッドに転がり布団を頭からかぶった。


 

 寝ているのに心臓がバクバク言っている。手首に指を置いて脈を測ってみたが明らかに早い。まだ緊張しているんだな。


 俺はこんなことをやり続けることができるだろうか?ゾンビを三体殺した。手際自体は上手くできた。訓練を受けていたことと、呪いの槍、そして半分吸血鬼の身体能力。これだけ揃っていればまあゾンビには負けないだろう。


 だが、精神は別だ。俺は人間なんだ。人の形をしたものを刺し貫く作業は俺の心を思っていたより強く揺さぶっていた。その夜俺は一睡も出来なかった。


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