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5話 幸福


 さて、どうしたものか。思っていたよりも遥かに大きな要求が来た。昔の俺ならこの話の裏がないか必死で焦りながら考えたんだろうな。


 だが、俺はもう詩音が悪意に満ちた存在ではないことを知っていた。過大な要求ではあるが、おそらくは本当に今つらいのだろう。リサと出会ってから一年経つと言っていたが、それまでは一人でいることに慣れていたが、リサがズケズケと距離を詰めて付き合ったおかげで一人でないことが当たり前になってしまったのだろう。



 リサは余計なことをしたのかもしれない。人のぬくもりを諦めて生きていた少女にぬくもりを思い出させてしまったのだ。それはずっと諦め続けるよりも酷く辛いことだろう。人間、一度手にしたものを手放すのには酷く苦痛を伴うものなのだ。ましてやそれが誰かと一緒にいたいという人としての根源的な欲求ならばなおさらだろう。


 人は一人では生きていけない。生きていけるかもしれないがその生は酷く味気ない無味乾燥なものになるだろう。実際、俺自身が父親から別居を言い渡されたことに精神的なダメージを受けている。あれほど強かったカーネルも奥さんから見捨てられたことにショックを受けていた。



 辛いのだ・・・たとえどれほど強くても独りであることは辛いのだ。



 俺は間違ったことはしていない。カーネルと殴り合ったあの時間を後悔などしていない。あの時間は俺にとって必要な時間だった。そう断言できる。あれがなければ俺は今も呪いや詩音への罪悪感や後悔でずっと今もモヤモヤと悩み続けていただろう。


 計らずも一人になってしまったがそれはそれでいい。一人の方が家族を呪いに巻き込む可能性は低くなるだろう。呪いのことについては家族に話してはいけない。リサには吸血鬼のことについて話してしまったが、呪いの件に関しては秘密を守る必要がある。なぜなら話せばそれは家族を禍に巻き込む可能性があるからだ。



 そう考えるとカーネルと詩音はそういった秘密だけでなく呪いの辛さを共有できる唯一無二の存在と言っていいだろう。関係は大切にすべきだ。それに俺自身も二人を大切に思いつつある。


 さて、長くなったが俺の返答はこうだ。



 「詩音、お前を妹と思うのはちょっと無理がある。だが、大切な仲間だと思いつつあるのは嘘じゃない。だから、じっくり関係を構築させてくれないか。いきなりは無理だ。だが、できる限り詩音の意に沿うようには努力する」



 仲間に嘘は極力付きたくない。安請け合いはしたくなかった。それに詩音はリサと違って大人っぽい。下手したら同年代どころか年上に見える。妹扱いはちょっときつかった。


 「そうですか、私も自分で言って妹扱いは言い過ぎたかなと思うところもなくはないですし・・・それで構いません」



 「そっか、では改めて宜しく頼むよ。詩音」



 「はい、改めて宜しくお願いしますね」


 こうして俺と詩音は少しだけ仲良くなった。今後どうなるかはわからないがお互いの気持ち次第だろう。




・・・・・・・・・・




 「鈍ってますね」


 「だろうな」

 無理もない。ようやく槍に慣れた程度の人間が一週間以上訓練を休んだのだ。鈍ってて当然だった。



 「ふう・・・今日もありがとう。付き合ってくれて本当に助かる」


 「いいですよ、私も付き合って貰う予定です」


 「御手柔らかに頼むよ、ところで事情があってゾンビ退治をしようと思ってるんだがどう思う?」


 「注意してやれば大丈夫でしょう。一対一ならですが」


 「そうか。ちなみに多対一なら?」


 「怪我をします。最悪は死にます」


 

 やはりそれほど甘くはないらしい。まあでも一対一ならいけると聞いてホッとした。


 「わかった。一対一で安全優先でやるよ」


 「そうしてください」


 「他に注意点はあるか?」


 「不安があるならできる限り準備をしてから臨むべきです。練習ではいくらでも失敗できますが実戦の失敗は大抵死に繋がります」


 「ああ、そうするよ。他には?」


 「どの依頼を受けるか悩んだらドミさんに相談すると良いです。私はそうしてます」


 「ドミさんか、あの人はどんな人なんだ?」


 「本人も言ってましたが世話焼きな人ですね。口癖は『君たちは幸せになるべきだ』です。もう何回聞いたかも忘れるくらい聞きました」


 「そうなのか?意外だな」

 初対面の時は俺の状態があれだったからな、言われたのかもしれないがよく覚えていない。


 「おそらくお兄さんも付き合う内に言われると思います。私が吸血鬼退治の旅をしているときにドミさんとは出逢いました。そして初対面のときに言われましたよ」


 「へえ、そうなんだな」


 「はい、最初は無視していたのですがあまりにもしつこく言われるので根負けして組織には入りました」


 「なるほどな」

 旅をしていた時に出会ったということはやはり強いのだろうか。


 「吸血鬼退治の旅をしていたときってことは危険な場所を旅してたんだよな?てことはドミさんも強いのか?」


 「強いです。吸血鬼をあっさりと倒してましたから」


 「俺もいつかはそうなれるといいな」

 どれくらい差があるのだろうか。とりあえず俺はゾンビ退治からなんだが。


 「わかりません、でも呪いの武器は使えば使うほど力を引き出せるようになります。きっと戦い続けるうちに強くなれるでしょう」


 「わかった。ありがとう」




 「はい。頑張ってくださいね」



 「ああ」



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