4話 代犬
俺は一足先に留置所から釈放されていた。父親が身元引受人になってくれたことと、服がボロボロだったとはいえカーネルほどは露出が多くなかったこと。
そして、カーネルの身体からも俺の身体からも性的なことをした際に付着する体液が一切検出されなかったことから、自白以外の証拠がないということで罪には問われないことになった。ただ、深夜に紛らわしいことをするんじゃないと厳重注意はうけた。
俺は釈放されたが、カーネルはまだ取り調べを受け続けている。カーネルの精神状態が心配だ。出来れば一緒にいてやりたかったが、取り調べが終わると容赦なく追い出されてしまった。
さて、ぎりぎり前科がつかずに出れたのは良かった。とりあえず父から聞いた一人暮らしの部屋に向かうとしよう。最低限の準備はしておくとのことだしまずは確認をしないと。
・・・・・・・・・・
意外と広い。ワンルームかと思ったら何故か2LDKだった。嫌な予感がする。カーネルと同棲することを想定して借りた部屋ではないのだろうか?父がなぜこの部屋を選んだのか気にかかる所だ。
そのうち機会を見て誤解を解く必要があるな。まあ、狭いよりは広いほうがいい。とりあえず良しとしよう。
さて、現状の俺だが相変わらずカーネルとの性的な交際疑惑は解けていない。そしてこの部屋代は父の財布から出ている。生活費もだ。
つまり事実は違うのだが、父の主観では気合の入った魔法少女のコスプレをした変態爺と性的な関係を持ち続けている息子に対して経済的な援助をし続けているということになる。
それはなんというか・・・控えめに言って父にとっては拷問なのではなかろうか?頑張って働いた金が変態爺と愛息子の愛の巣の生活資金へと消える。やはり拷問と言って差し支えないかと思う。俺の父は前世でどれだけの罪を犯したのだろうか?そんな疑問が沸いた。
何度も死んで色々と人間性を擦り減らして図太くなった俺だが、流石にこの状況で甘え続ける気は起きなかった。出来れば早めに自分で稼いだ金で生活がしたい。でないといつか父が疲れ切って、最悪の場合壊れてしまうだろう・・・そんなのはごめんだった。なんせ釈放時に見た父の目は既に虚ろだったからな。
さて、生活費だが月に最低でも20万程度は必要だろう。部屋の家賃も結構する。いいバイトがあれば良いのだが、俺には昼間は体調が悪いという弱点と鏡に映らないという問題がある。まともな仕事にありつけてもどこかで問題が起きる可能性は高い。
悩みはした。悩みはしたのだが、俺は結局生活費のためという極めて浪漫もクソもない現実的な理由で組織の依頼を受けることにした。
・・・・・・・・・・
ドミと名乗った男から俺はある道具を受け取っていた。それは腕輪の形をした道具だ。
なんでもこれを使うと組織から出されている依頼を調べることが出来るのだ。初心者向けの難易度の低いものから難しいものまで自由に選ぶことが可能だった。そして依頼には達成時に得られる報酬についても記載されていた。
調べてみて驚いた。わりといい金額してるのだ。ゾンビ退治一匹一万。ゾンビ相手だから法にも違反しない。あとは殺せるかどうかだが、なんとかなるだろう。
さて、次の機能だ。腕輪は依頼の有無を調べれるだけではない。受けた依頼を行う場所への転送機能がついていた。説明を聞いたときは精神的にダメージを受けていたので説明を流していたが、後から考えたら割とすごい。どんな技術が使われているのだろうか?
ああ、当然ながら元の場所に戻れる機能もついている。片道切符ではない。当然だな。
あとは、依頼の内容を達成したかどうかも腕輪をつけておけば組織の方で確認できるらしい。ドミと名乗った男はニヤニヤ楽しそうにしながらそう説明をしていた。
依頼は基本的には一人で受けるが、二人以上で受けても良い。そこらへんは話し合って好きにしろとのことだった。つまり、カーネルが留置所にいる今、俺は一人で依頼を受けるしかない。
詩音に付き合ってもらう案も考えてはいたが、訓練に付き合ってもらっていたときにも島で話したときも他人と組んで戦う気はないと言っていた。あれは明確な拒絶だった。おそらく何か理由があるのだろう。
幸い、ゾンビの難易度は低い。それなりに槍には慣れてきた。一人で体験してみるのも良いだろうが先ずは経験者の話を聞こう。俺はそう考えていた。
・・・・・・・・・・
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり」
情けない話だが俺は詩音に連絡を取っていた。留置所で鈍った身体の鍛え直しと、依頼についてのアドバイスを聞きたかったのだ。
そしてもう一つ大切な要件があった。謝りたかったのだ。依頼を受ければ死ぬ可能性がある。俺にはループがあるから幸い死んでも終わりではない。だが死ねば確実に俺の中の人間性が擦り減っていた。出来れば今の俺の状態で謝罪をしておきたかったのだ。
「すまなかった」
「・・・」
「俺はあの島で詩音のことを仲間と思っていないのに仲間と口にした。最悪な形で仲間であることを口実にして俺はお前にリサと距離を置けと要求を飲ませた。すまない、最悪だ俺は」
「仲間だと思われていないことは知ってました」
「カーネルにも言われたよ。仲間と思われていないことは知っていたと。それでもカーネルは仲間だと思った相手のために身体を張ると・・・あいつは身を持って俺に証明してくれたよ」
「魔法少女さんは良い方ですから」
「ああ、心よりそう思うよ。あいつはいいやつだ。俺は最低だけどな」
自虐的に思わずそう口にしていた。
「そうですね、最低です。私、家に帰った後一人で泣きましたから。ああ、また一人ボッチだなあって」
「すまない、俺は本当に最低だ。俺に出来るお詫びならさせてほしい」
「でも、いいんです。はっきり言って貰えて踏ん切りがついた面もありましたし、リサさんと距離を置いたほうがいいと自分でわかっていたのも本当でしたから」
「そうか」
「それに嬉しかった点もありましたし」
「嬉しかった点?」
「少しだけ昔のことを思い出しました。私、犬を飼ってたんです。素直ないい子でした。臆病な子だったんですけど、私に危険が迫ると私を背に庇ってくれたんです」
「そうなのか、いい子だったんだな」
「はい、いい子でした。あなたの姿を見ててあの子を思い出しました。本当はこんなことを言いたくないのに妹のリサさんのために必死になって私に立ち向かおうとする・・・リサさんが羨ましいです」
「そんなにいいもんじゃないけどな」
「前からあなたのことは知ってたんです。話をしているとリサが話すので。仲良い兄妹なんだなと、私は一人っ子だったので羨んでました」
「そうなのか」
「はい、なのでお詫びがしたいのなら私を妹として甘やかしてください」
「・・・え?」
「私をリサさんを甘やかすみたいに甘やかしてください。私はあなたの酷い要求を素直に飲んだ結果一人ボッチになりました。辛いんですよ。誰かがいることに慣れちゃいましたから」
「う、うん」
「お兄さんはリサさんあるいは犬の代わりです。お互いに呪われた武器の持ち主ですし気兼ねはいらないと思いますがどうでしょう」




