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3話 大人

 これは5日ほど前の出来事だ。留置所に入った俺に家族の面会があったのだ。




 「久しぶりだな」


 「う、うん」


 「もう5年ぶりになるのか、元気にはしていたようだな」


 「う、うん」


 「刑事さんから・・・色々聞いたよ。その・・・大人になったんだな。父さんの中ではまだ・・・子供のように思っていたんだが・・・もう大人になったんだな」


 単身赴任で約5年ぶりに顔を会わした父の目は泳いでいた。ものすごく気まずそうにしていた。あと、大人になったの意味合いがすごく・・・気になった。


 「いや、まだ俺は成人してないよ」


 「ああ、そういう意味じゃなくて、その・・・まさかお父さんよりも歳が上の男性と性的なお付き合いしてるなんて・・・大人になったなと・・・」


 しっかり不味い方向に誤解されていた。


 「その・・・これでも人生経験は長いからさ、そういう人もいるのは知っている。だから・・・その思い詰めたりしないでほしい」


 父のそういう問題に対する包容力に喜べばいいのか、誤解されていることを嘆けばいいのか悩んだ。とりあえず誤解は解かないと・・・


 「その、ごかいなんだよ」


 「聞きたくない、息子の性体験の回数なんて・・・もう、5回もしたのか。避妊はちゃんと・・・いや、そういう心配は相手を考えれば不要だったな。すまない」


 いかん、話が通じていない。ごかいと聞いた瞬間父の顔がさらに引き攣った。


 「泣きじゃくるリサから・・・今流行のパパ活をしてると聞いたんだが、嘘だよな?せめて真剣交際なんだよな?」


 「・・・」


 いかん、今までの適当な説明が尾を引いている。かなり不味い誤解をされていそうだ。あと、リサから父親に報告がなされていた。


 「その・・・真剣交際ならいいと思うんだよ。たとえ相手が父さんより年上の方でも・・・同性の方でも・・・ただ、今度からはラブホテルを使いなさい」


 「お、おう」


 動揺していた俺はなぜか反射的にそう返事をしていた。


 「そうか、ラブホテルさえ使ってもらえば今後は犯罪にはならないからな。うん、安心したよ」


 「お、おう」

 どこにも安心材料は見当たらなかったが何故か安心したらしい。


 「あと、すまない。お前も辛いと思うんだが、リサがしばらく顔を見たくないそうだ。すまないがリサの気持ちが落ち着くまで一人暮らしをしてほしい」


 「・・・はい」


 「部屋は準備しておくから、その・・・なんならラブホテル代わりにもなるぞ、ははは」


 ラブホテル代わりに使えと言った父親の顔はさらに引き攣っていた。無理もない。実の息子が自分より年上の変態爺と懇ろになったと思えばいい。俺なら気が狂う。そう考えると俺の父親は随分と懐が深い。経験の違いなのだろうか。


 こうして俺の実家生活は終わりを告げた。呪いの件でいずれ適当な理由で家を出ようとは思っていたが、そんな俺の心配は不要だった。家族から出るように言われたのだ。ある意味渡りに船だったのだが・・・わりと落ち込んだ。


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