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2話 御迎

 

 これは3日ほど前の出来事だ。


 俺とカーネルは引き続き留置所の中にいた。カーネルには前科があった。故に俺よりも厳しく取調べを受けていた。


 「お前は何回捕まれば気が済むんだ!この変態爺が!」


 留置所の壁は安普請なのか薄かった。カーネルが刑事に罵倒されている声が今日も聞こえていた。


 「チガウ チガウ」


 「何が違うって!お前はそんな下着丸出しのミニスカート履いて恥ずかしくないのか!妻と子もいるんだってな!奥さんやお子さんに悪いと思わないのか!ええ!妻子よりも己の性癖に殉じた変態爺!腹筋がいい感じに割れててむかつくんだよ!」


 「ゴカイ ゴカイ」


 「お前の公然わいせつの前科は5回じゃすまないだろ!もう両手の指でも足らないんだぞ!しかも毎回毎回黒のTバック履きやがって!いやらしいんだよ!すけべ爺!その尻と剥き出しの太ももは俺を誘ってんのか!!この性の権化が!」


 「チガウ チガウ」


 辛い。聞いてるだけで精神が削られる。幸い俺はカーネルの事情を推測ではあるが知っている。故に誤解だと理解できるが警察からしたらそんなもん知ったことじゃないだろう。


 無理もない。あれだけ気合の入った露出度の高い魔法少女のコスプレをしているんだ。まさか呪いでむりやり着せられているとは普通は思わない。本人の趣味としか思えないだろう。


 後、不自然にたどたどしい幼女のような話し方でずっと話しているが呪いは服装だけではなくて言語にも影響があるのだろうか?推測だがカーネルの出身が仙台なことを考えるとおそらくそうなのだろう。外国人だから言葉が苦手なのかと当初は考えていたが、違うのだろうな。おそらく言語障害に類する呪いもあるのだろう。


 それにしてもあの服装・・・下着は確かに歩くたびに見えていたが公然わいせつ罪になるのか・・・世間は厳しいな。服装の自由はどこに行ったのだろう。ちょっと変わった服装くらいしてもいいじゃないか。男がミニスカートを履いて何が悪いんだよ。


 「この筋金入りの変態爺が!喜べ!奥さんに連絡をしたが身元引受人になるのは嫌だそうだ!つまり釈放はない!制限時間いっぱい念入りに調べてやるからな!」


 「・・・ア・・・アア」


 慟哭のような小さな声が聞こえた。カーネルは奥さんに見捨てられたようだ・・・辛い。想像するだけで辛い。俺にも似たようなことは起きているがカーネルよりはましだ。




 その晩、カーネルは俺が取り調べを受けている間に部屋で首を吊った。留置所の警戒は強い。本来なら首を吊る道具などない。


 マジカルステッキだ。カーネルはマジカルステッキで首を吊っていた。


 部屋に戻った俺はブラブラと揺れるカーネルの身体を見て絶叫をあげた。地面は何かの液体で濡れていた。




・・・・・・・・・・




 「カーネル・・・どうか死なないでくれ」

 独りは辛い。俺は幸いまだ家族には完全には見捨てられていない。だが、別居を言い出された時は辛かった。奥さんとお子さんに見捨てられたカーネルの気持ちはどれほど辛いだろうか・・・俺には掛ける言葉が見当たらない。せめてできるのは手を握り続けてお前は独りじゃないと伝えてやるくらいしか出来ない。


 「マガ サシタ」


 幸いカーネルは息を吹き返した。鍛えられた肉体が功を奏した。頸椎が折れなかったのだ。話を聞くと58歳にもなって魔法少女のコスプレをしている自分のことを冷静に考えるとたまに死にたくなる衝動に駆られることがあるらしい。普段はなんとか耐えているのだが、逮捕と奥さんに見捨てられたことが重なり衝動的にやってしまったらしい。


 「ゴメン モウ ブジ」


 ちっとも無事には見えなかった。俺はカーネルの手を握りながら引き攣ったような顔をしていただろう。大切な仲間に対して大したことが出来ない俺はなんと無力なのだろうか。


 まあ、俺も人のことを心配してられるほど気楽な状態ではないのだが。うん、俺にも問題は色々と起きていた。

 

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