1話 転機3
カーネルと俺は仲良くなっていた。月明かりの下お互いボロボロになるまで殴り合ったあの件以来、俺は心からカーネルのことを仲間だと思えていた。
ある日のことだ。仲良くなった俺たちは二人で昼飯を食べていた。
「結構いけるな」
「・・・ウン」
「サンマ定食かな、バランス取れてていいよな」
「・・・ウン」
カーネルはご飯は静かに食べたいタイプらしい。俺が話しかけても反応はあまりなかった。隣に座っているカーネルは静かに虚ろに目の前を見つめていた。俺は無言で食事を続けることにした。
・・・・・・・・・・
「明日は何を食べようか」
「・・・ウン」
「美味しいものを食べよう」
「・・・ウン」
「もう遅いし・・・寝ようか」
「・・・ウン」
疲れているのだろうか?カーネルの返答が鈍い。なんせ一週間ほど前に腹を槍で貫かれて血液を大量に失っている。無理もない。本当はしんどいのだろう。あれから色々と大変だった。
そう、あれから色々と大変だったんだ。
俺とカーネルは深夜に大暴れした結果、誰かに通報されて駆けつけてきた大勢の警察に囲まれて捕まり二人仲良く留置所に入っていた。
・・・・・・・・・・
「さて、話を聞かせて貰いますが・・・宜しいですか?」
目の前には二人の刑事がいた。一人は少しだけ離れた場所でイスに座ってこちらを見ていた。もう一人は目の前のイスに座っている。不思議と刑事の口調は穏やかだった。優しい目をしていた。
「はい、大丈夫です」
「そうですね、まずあの・・・露出の多い独特の服装をした方との関係は?今までに面識はありましたか?」
「面識はあります。大切な仲間です」
「なるほど、顔見知りだったんですね」
「はい」
「答えづらいことは答えなくて構いませんからね」
「はい」
あれだけ大暴れした上にお互い血まみれになっていたのだが刑事は穏やかにゆっくりと俺に質問をしていた。取り調べを受けるのは初めてだがドラマとは違うんだろな。
「さて、あのときの事件ですが、体格や状況を考えてあなたはあの男に通り魔的に襲いかかられたということで宜しいですか?」
「それは違います、カーネルは俺を気遣ってくれたんです」
「・・・気遣うとは?」
「もう我慢できなくて限界が来ていた辛そうな俺を見てカーネルは優しく気を遣ってくれたんです。どんなことでも今すぐに俺の肉体で受け止めてやる、どんなことでも好きにしろ。そんな感じでした」
「・・・それは、本当ですか?何かの間違いではないのですか?」
「はい、間違いありません」
なんだろう、少しだけ刑事の目つきが厳しくなった気がする。奥の席に座っていた女性の刑事が嘘だろ?みたいな顔をしていた。
「・・・なるほど、ではあの独特な衣装を来た彼が加害者であなたは被害者と考えていたのですが、同意があったということでしょうか?」
なるほど、カーネルの体格はプロレスラーみたいな体型をしている。そして俺は中性的な細身のもやしっ子に近い体型だ。まさかそんな俺たちが殴り合うとは普通思わないだろう。危ないな。ちゃんと話しを聞かないとカーネルだけが悪いことになってしまうところだった。
「そのとおりです。あれはお互いの同意があっての出来事でした。カーネルは悪くありません。カーネルは俺の我儘に付き合ってくれただけなんです。悪いのは俺です。申し訳ありません」
「なるほど、では供述調書を少しだけ書き直しますのでサインと拇印を頂けますか。反省していらっしゃるようですし初犯なら大したことにはならないでしょう」
俺は刑事が差し出した供述調書にサインと拇印をした。
ふう、これでカーネルだけに罪を負わせなくて済む。傷害罪か。家族には迷惑をかけるが仕方ない。あれだけカーネルに傷を負わせたんだ。能力で既に治ったとはいえ責任は取らないといけない。
「はい、確かに頂きました。ではあとは彼の取り調べでお互いの証言に食い違いがなければ公然わいせつ罪の共犯ということになりますね」
ん?聞き間違いかな。
「傷害罪ですよね?」
「公然わいせつ罪です」
俺は刑事が手に持っている書類を奪おうとした。
「それは間違いだ!違う!さっきの証言は間違いだ!返してくれ!」
「一度自白しましたしあとから証言を変えられても困りますね。裁判でそこらへんはお話してください」
「違う!勘違いだったんだ!」
「裁判でお願いします」
あとから知ったが、当初は強制わいせつ事件の被害者として俺に聞き取りをしていたそうだ。なんせ俺は深夜に子供のように大泣きしていたからな。通報した人は強制わいせつ事件の被害者が泣いていると思って通報したそうだ。ところが俺がお互いに同意があってやったことだと言った結果、俺は強制わいせつ事件の被害者から、公然わいせつ罪の共犯として拘留をされることになった。カーネルの能力でお互いの傷が治っていたことと俺の服がボロボロになっていたのも事態を悪い方向に悪化させた。なお、カーネルの服装はいつもの露出の多い魔法少女衣装だった。
俺たちは深夜に盛り上がってハッスルをした変態カップルとして警察に拘留されていた。
留置所で寝ながら見る天井のシミは人の形をしているように見えた。なんだか無性に泣きたくなった。
隣で寝ているカーネルはブツブツと何か独り言を言いながら小さく子供のように丸くなり寝ていた。
俺の槍を受け止めた時はとても大きく感じたカーネルの身体はとても小さく丸くなっていた。なんだか無性に切なかった。




