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難易度高めの18禁ゲーム世界で間違った選択肢を選んでしまうタイプの主人公が酷い目に遭う話。慈悲はない  作者: シヴァ犬スキー
2部 悪意と善意に満ちた島〜呪いの武器とやさぐれた筋金入りのおっぱいニートとの出会い〜
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17話 仲間


 目の前で黒い女は膝を抱えて小さく震えていた。俺はただ呆然とその姿を見ていた。


 「詩音ちゃんいい子だから遊びだったら許さない」

 妹はそう言っていたな・・・なんだろう、自分の見る目の無さが情けなかった。


 一度容赦なく殺されたことと廃ホテルで出会った時におぞましい気配を放っていたことで警戒心が先立っていたのだろう。この女の本質に気付けなかった。女というよりはまだ少女と言ったほうが正しいであろう・・・この少女は最初からずっと自分が決めた使命に一生懸命だっただけなのだ。


 きっと余裕などどこにもなかったのだろう。弱音を少し漏らした少女の肩は酷く小さく見えた。あれほど恐ろしかったおぞましい黒い女の姿はもうどこにもなかった・・・




 本当なら優しく声をかけてやればいいのだろう・・・だが、どうすればいいんだろう。


 俺たちがただの一般的な男女の関係なら気楽に優しくしてやれた。だが・・・俺たちは全員呪われた武器の所有者だった。


 仲間ではある。だが、関係を深めれば深めるほど最後には悲惨な最期を遂げることになる。あの狂った女から聞いた話からはそんな予感を抱かせていた。


 俺がまず優先すべきは俺の家族の安全だろう。妹のリサは小さい頃、一人で眠れずに一緒に寝てほしいと甘えて部屋に来ていた。甘えん坊な可愛い子だった。俺が守るべき愛すべき家族だった。


 この少女をリサに近付けることを許すということは、リサを危険な目に合わせるということとおそらくは同義だった。おそらく・・・この少女はあの狂った女とある意味同種の存在だ。


 家族だけを優先するならば冷たく突き放してしまえばいい。この少女自体も既に覚悟は出来ていると言っていた。それに自分の呪いが齎す結果についても自覚はあるのだろう。俺が一言リサには今後近づかないでくれと言えば素直に聞いてくれそうな気はした。少女の表情からは罪悪感とも言うべきものが感じられた。



 だが・・・この少女の年齢はリサと同じだった。本来ならばまだ誰かに守られているべき少女なのだ。リサと同じ年齢なのだ。親元で愛情を注がれて無邪気に笑っていてもおかしくない年齢なのだ。


 チートな能力が欲しかった。妹も目の前の少女も守ってやれると自信を持って断言できるような力が欲しかった。俺は初めてそう強く思った。




・・・・・・・・・・




 悩んだ末に俺は決断を下した。それはこの哀れな少女を切り捨てる決断だった。



 俺は今からこの哀れな少女を攻撃しなければいけない。


 もちろん物理的に攻撃はしない。言葉だ。


 言葉の刃でこの哀れな少女に大きな傷をつけないといけない。致命傷までは与える必要はない。


 だが、リサにはもう近づかない。この哀れな少女に自分からそう思わせる程度には傷つける必要があった。俺は・・・大きく唾を飲み込んだ。



 「なあ、詩音。仲間だし名前で呼ばせてもらうぞ、いいだろ?」



 ・・・ああ



 「詩音、お前がリサと一緒にいたらいつかリサはひどい目に合うんじゃないか?自分の呪いの影響でリサを傷つけることが本意でないのならば・・・リサを少しでも友達だと思うのならば今後はリサと距離を取ってくれないか?わかっているだろう・・・呪いは持ち主の周囲に不幸を振りまくと。俺にならいいさ、同じ呪いの武器を持つ仲間同士だからな・・・だがリサには近づくな。お前が意外と悪い奴じゃないのはわかってきた。だが頼む。リサの兄としての心からのお願いだ。リサには近づかないでくれ。リサが少しでも大切なら頼むよ」



 ・・・くそったれが



 「お前も自分ではわかっているんだろ?リサはお前にとって不要な存在だ。吸血鬼狩りには別にいらない存在だ。お前がしているのは単なる寄り道だ。不要なことだ。使命に必要なことじゃない。自分でも言っていたな。どこかで野垂れ死ぬ覚悟は出来ていますと・・・それならば自分が発した言葉通りにして欲しい。お前の不幸にリサを巻き込むな。頼むよ。俺たちは呪われた武器を持つ仲間だ。だが、リサは単なる無関係な存在だ。本当に心から頼むよ・・・同じ呪いの武器を持つ仲間のお願いを聞いてくれないか?」



 ああ・・・自分で言ってて反吐が出る。うまく表情は作れているだろうか。声は震えていないだろうか。



 俺は善人じゃない。悪人ではないと思いたい・・・だが別に悪人でもいい。何なら極悪人でもいい。中途半端に善人ぶって家族を危険な目にさらすならば極悪人でいい。



 家族を守れるならば俺は悪党でも極悪人でもいい。たとえ相手が善人だろうと本来なら守るべき子供だろうと・・・男だろうと女だろうと・・・容赦はしない。殺す必要があるならば殺す。



 言葉を発した後に唾を飲んだ・・・飲み込んだ唾は酷く苦い味がした・・・この畜生が。




・・・・・・・・・・




 言葉を発した後、誰も何も声をあげなかった。ただ静寂が流れていた。つい先ほどまで流れていた心地の良い静寂ではない。ただひたすら重苦しい・・・まるで葬式のような静寂だ。



 「申し訳ありません」



 「・・・・・・」



 「ご迷惑をおかけ致しました」



 「・・・・・・」



 「リサさんは私が一人で過ごそうとしているのに、ズケズケと踏み込んで来るのです」



 「ああ、あいつそういうところあるからな」



 「多分私はリサさんに甘えてしまったのでしょう、本来なら突き放すべきでした」



 「ああ、そのとおりだな」



 「わかっているのです。自分と深く付き合うということがどういうことを齎すかを」



 「・・・・・・」



 「ただ、心地よかったのです。リサさんにズケズケと踏み込んで来られるのが」



 「そうか」



 「ありがとうございます・・・そしてごめんなさい。あなたに酷い言葉を言わせてしまいました」



 「・・・・・・」


 


 激高されることも覚悟して俺は目の前の少女を傷つける言葉を容赦なく発した。


 攻撃される可能性も考えていた。今までが今までだったからな・・・



 哀れな少女はどこまでも静かに・・・寒くて寒くて仕方なくて・・・まるで震えるかのように小さく膝を抱えていた。


 魔法少女マジカル・ガールはそんな俺たちを無言で・・・苦いものを見るかのようにそっと見つめていた。


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