16話 奢肉
恐ろしい。まさかたかが出身地を聞くだけでこんなに両方から別種類の地雷みたいな返事が来るなんて。ある意味流石だこいつら。油断していた俺が馬鹿だった。しかしだ・・・気になる。
気になる。スルーしたほうが良いのかもしれないが気になる。だが、流石にその眼帯を外せとかその下はどうなってますか?とか聞くのは無礼だろう。いくら俺が糞でも流石に恩しかない魔法少女を傷つけるようなことは避けたい。上手く聞くんだ・・・そう、遠回しに婉曲にだな。
「つかぬことをお伺いしたいのですが」
「ナニ」
「戦国武将とかお好きですか?」
これなら遠回しだ。なんとか参考になる答えが返ってくるといいのだが・・・。
「オソロシイ シマズ オソロシイ・・・コワイ オニ タスケテ ジェファーソン タスケテ」
駄目だ。傷つけないように遠回しの質問をしたはずが思いっきりトラウマを抉ってしまったようだ。気付けば魔法少女は子供のように膝を抱えて身体を小さくして震えている。一体何をされたんだ・・・わからん。あと、ジェファーソンって誰だ?
話を逸らそう。何かないか。何か無難な話題を。食べ物だ!食べ物なら多分大丈夫だ。あと、女にも話を振ろう・・・魔法少女はまともな応答が不能だ。落ち着くまで無難な話で場を繋ごう。
「好きな食べ物はあるのかな?」
俺は紅茶を飲んでリラックスしている女に向かって聞いてみた。
「シチューです」
「なるほど、俺もわりと好きだな」
「ええ、刻んで煮込んでしまえば何でも食べれます」
何でも・・・深く突っ込むのは良そう。さすがに人肉は食っていないと思いたい。
「焼肉は好きなのか?」
「はい、肉はいいです。力が出ます。一番いいのはやはりタン塩ですね。レモンをかけてもいい。かけると美味しいです。ミノもいい。内臓は血肉になります。ロースもいい。脂がいい感じに口の中で溶けます。カルビもいいですね。甘辛いタレが染み込んで美味しい。たまに仕事で得たお金で一人焼肉に行きます。できれば人の・・・失礼。少し無作法なことを言いそうになりました」
人の?
「人の・・・何かな?」
「ちょっとした言い間違えです、気にしないでください」
うん、突っ込んだら死ぬ気がする。やめとこう。たとえこの女が人肉を食っていても俺に直接的に関係が無ければいったんスルーしよう。見て見ぬふりをするんだ。とりあえず焼肉好きなのはわかった。まあ、この前の焼肉店での振る舞いを思い出すとあれで焼肉嫌いなはずはなかったな。色々と酷かった。魔法少女も色々と酷かったがこの女も大概だった。
多分俺は今後焼肉を食べるたびにあの時のことを思い出すだろう。嫌な思い出が増えた。俺、焼肉はわりと好きだったんだけどな。
「この国にはいつからいるんだ?」
「3年ほど前からですね」
「そうなのか、結構長くいるんだな」
「はい」
「リサとは・・・いつ頃から?」
「・・・一年ほど前から」
「そうか・・・仲はいいのか?」
「わかりません、おそらくそうなのでしょう」
「わからない?」
「はい、どうしたら良いのかわからないのです」
「・・・・・・」
「私は吸血鬼を狩るためだけに生きています」
「・・・・・・」
「それ以外のことは余計なことです」
「そうか」
「学校には最低限の社会常識を学べと言われて通い出しました。それまでは単にフラフラと当て所なく吸血鬼を殺し続ける旅をしているだけでした」
「・・・・・・」
「リサさんは本来なら不要なのですよ。必要最低限を超えた存在です。吸血鬼を殺すために必要な社会常識さえあれば友達などいらないのです」
「・・・・・・」
「私には血塗られた道しか残っていません。自分の末路がどうなるかわかっています。本来なら誰とも交わらずに生きて勝手にどこかで野垂れ死ねばいいのですよ。その覚悟は出来ています」
「ヒトリ イヤ ツライ ダメ」
「・・・・・・」
なんだろう、あれほど悪魔のように思っていたあの黒い女の姿が・・・今の俺には・・・妹のリサと同じ年齢の小さな女の子にしか見えなかった。
黒い女は話しながら気付けば膝をかかえて震えていた。一人で何をしたらいいのかわからないと・・・途方にくれたような顔をしているように見えた。
こんなに・・・小さかったのか・・・
なんだろなあ・・・俺は一体どうしたらいいんだ。




