14話 料理
トントントン・・・トン
キッチンからリズムよく包丁で食材を刻む音が聞こえてくる。あいつは夕食を作ると言った後、食材の保管庫から野菜や肉をカートに積んで運んできた。そして今は包丁で野菜を刻んでいる。
予想はしていたが刃物の扱いは慣れているらしい。可愛く猫の手をして怪我しないようにリズミカルに野菜を刻んでいた。
意外と凝り性なのか肉で料理の出汁をとる際にアク取りをせっせとしている。手間暇をかけた料理が出てくることに文句は無いのだが意外だった。そもそも料理とかするイメージがなかった。
「何を作るんだ?」
聞いたらシチューという答えが返ってきた。わりと好きな料理なのでありがたい。それに失敗してもそこまで変なものは出てこないだろう。
トントントントントン・・・・・・トン
そんな心地よいリズミカルな音が響いている。聞いていると落ち着く音だ。意外とプライベートでは穏やかな充実した生活を送っているのだろうか?そんな気がしてきた。妹のリサの意見も聞いてみるのもいいかもしれない。
エプロン姿は似合っていた。思わず褒めていた。ありがとうと照れくさそうに言われた。ちょっとこちらも反応に困った。照れた顔は可愛かった。
コトコトと煮込んでいる音が聞こえている。ふと見ると丁寧に優しい手付きで野菜から出た灰汁を取っている。本当に細かい。
副菜でサラダを作ると言っていた。気になって見るとトマトを半分に切ってレタスを手で優しくちぎっている。キュウリも斜めに丁寧に均等に切っていた。
「手伝おうか?」
聞いたら待っててほしいと言われた。誰かに作るのが好きなのだと・・・儚い表情でそう言われた。
今はもう亡き母親が作る料理が好きだったと。母親が作った好きなシチューを誰かと一緒に食べたいと語っていた。幸せだった過去を思い出して優しい気持ちになれる・・・そんなことを悲しそうな何かを思い出すような表情で言っていた。
きっと色々あったんだろうな・・・人には過去がある。今はこんな状態でもひょっとしたら子供の時には無邪気に笑って走り回って遊んでたのかも?そんなふうに思えた。
今現在がどんなろくでもない存在でも、子供の頃は存在したのだ。誰もがかつては子供だったのだ。
・・・・・・・・・・
「ごちそうさま、美味しかったよ」
お礼を言うと嬉しそうに微笑まれた。笑顔が可愛い。一瞬そう思ったよ。まるで花が咲くような笑顔だった。
まさかな・・・気の迷いだろう。冷静になれ。
「皿くらい洗うよ」
そう言ったのだがゆっくり座って休んでいてほしいと言われた。儀式で疲れているだろうと気を使われたのだ。なんだろう・・・エプロン姿も似合うし意外と家庭的なのかもしれないな。
水の音とスポンジで皿をキュッキュと洗う音が聞こえてくる。聞いていて心地よい。
なんだろう、不思議と穏やかな時間が流れていた。料理もお世辞じゃなく本当に美味しかったんだ。
・・・・・・・・・・
皿を洗い終わったようだ。水の音が止まった。
笑顔でこちらにゆっくりと近づいてきた。ちゃんとお礼を言わないとな。
「ありがとう、凄く美味しかったよ。皿の片付けまでしてもらってすまない。誤解していたよ。意外と家庭的なところもあるんだな。凄く美味しかった」
微笑んでいた。とても素敵な笑顔だった。
「ウレシイ マタ ツクルネ」
「魔法少女さんの料理はやはり美味しいですね」
黒い女はゆっくりとソファーで食後の紅茶を楽しんでいた。




