11話 茶会
あれから2日が経っていた。
妹は俺を再び虫ケラを見るような目で見るようになっていた。辛い。だが好都合だ。吸血鬼の話は有耶無耶になっていた。怪我の功名とはこのことだろう。
だが、問題がある。新たな問題が発生していた。
俺は妹に行動を監視されるようになった。
今・・・俺は実の妹に吸血鬼であることは多分疑われていない。この話は有耶無耶になったからな。いつもの与太話として信じていないはずだ。
だが代わりに・・・おっさん相手のパパ活をしているかどうかは間違いなく疑われていた。
本来なら与太話で済んだのだが紙袋に入っていた大金が信憑性を上げた。流石に50万は信憑性がありすぎた。タイミングが悪過ぎたんだ。
変に中性的な自分の容姿も疑いに拍車をかけていた。憎い。自分の女っぽい容姿と細身の肉体が憎い。
どうしよう。本当に誤魔化したい吸血鬼の話は誤摩化せた気がする。あれ以来一切聞いてこないからな。
だが、代わりに・・・監視を受けている。これでは島へと行こうとした時に尾行をされてしまうという結果は同じだ。どうしよう。島への約束すっぽかすか。それもありかもしれない。
よし、すっぽかそう。ちょっと色々有りすぎてもう駄目だわ。真面目にやってらんねえ。あの女も魔法少女もわざわざ家にまで迎えに来ないだろう。もう寝る。しばらく寝て過ごす。色々問題有り過ぎて考えるのにもう疲れた。
・・・・・・・・・・
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
「はーい、今出ます、あれ遊びに来たの?まあ上がって上がって」
なんだ・・・俺とは無関係か。ピンポンという音が聞こえた瞬間ビクッとした。怯えてベッドで音が聞こえなくなるのを震えながら待っていたが怯え損だな。
あれからもう3日経つ。スマホを見ると着歴が変態と黒い女でびっしりと埋め尽くされていた。これだけ無視すればアイツラも諦めた・・・と思いたい。
まあ、今着ているのは妹の友達のようだ。誰かは知らないが俺とは無関係だし寝てよう。
コンコン
コンコン
コンコン
ガチャッ
うん、なんだ?妹かな。
「兄貴、いつの間に知り合いになってたの?」
なんのことだ?
「おはようございます」
血の気が引いた。あの女の声がした。
ガバッと跳ね起きた俺が声のした方を見ると・・・そこにはあの黒い女が普段通りの様子で部屋の中にいた。
「詩音ちゃんといつの間に知り合いになったの?妹の友達に手を出すとかないわ」
「一月ほど前ですね。ご飯も一緒に食べた仲です」
・・・・・・・・・・
「落ち着きますね」
「まあ、ゆっくりしていってよ、家に来るの久々だしさ」
「・・・・・・」
「ええ、なかなか忙しくて」
「秘密でバイトしてるんだっけ?」
「・・・・・・」
「ええ、そのようなものを」
「詩音ちゃん、大人っぽいもんね、いいなあ」
「・・・・・・・・」
おかしい、なぜか自宅のダイニングテーブルでお茶会が始まっていた。時間は15時だ。その点では問題ない。おやつの時間にはピッタリではある。
気付けば3人で同じテーブルを囲みイスに座っている。俺はひたすら身を小さくしてリサが入れてくれた紅茶を飲み、出されたクッキーをポリポリとさっきからかじっているが・・・
なぜ妹とこの女が普通に会話している?どんな接点があるんだ?ないだろ・・・
「そういえば兄貴とはどこであったの?」
「そうですね、ホテルですかね」
・・・嘘ではない。
妹のリサが俺をすごい目で見ている。虫ケラを通り越してなんだろう・・・あ、わかった、ゴミを見る目だわ・・・解決解決。何も解決してねえな。
「それほんと?」
「はい、ほんとうですよ」
「いや、それは違うんじゃないかなぁ」
誤解を解かねば死ぬ。次は社会的に死ぬ。魔法少女よりはマシだが。
「クソ兄貴は黙ってて」
「・・・・・・・・・」
おかしい、なんでこんな事態になってるんだ。この女・・・物理的に俺を殺すだけで満足せずに社会的に殺しに来ているのか?
報復か?報復なのか?約束をすっぽかして電話を無視したことへの報復なのか?
相変わらず人の弱みを突くのが抜群にうまい。効果は抜群だ。こうなるならまだ手を出してから追求されたかった。濡れ衣でないだけまだマシだ。
「それってどういう関係なのかな?詳しく聞きたいんだけど」
リサの追求が止まらない。目が明らかに切れかけている。あの目はつい最近カラオケで見た目だ。
「そうですね、いわゆる秘密の関係でしょうか。あまり人様に公に言える関係ではないですね」
・・・嘘ではない。
「・・・へえ」
目と声が怖い。声が先程より明らかに低い。
「待て、俺たちに肉体関係はない。付き合ってもいない。極めて誤解がある」
「そうですね、裸は見ましたが」
嘘ではない。見られたのは俺の裸だが。
「へえ・・・そうなんだ。責任は取る気はあるの?詩音ちゃんいい子だし遊びならゴミ兄貴でもちょっと許せないかなーって」
目がさきほどより切れている。カラオケの時よりも・・・明らかに切れている。
なんだろう、俺まだ童貞の筈なんだが。気づかないうちに実は童貞喪失してたのだろうか?いや、そんなはずはないな。
「大丈夫ですよ、この前ちゃんと責任を取るように書類にサインしてもらいましたから。お兄さんは無責任な方ではありませんから」
「・・・・・・」
嘘ではない。書いたのは婚姻届ではなくて悪魔崇拝組織への入会申込書だが。
「え?そこまで話進んでるの?それならまあ・・・へえ、詩音ちゃんがお義姉ちゃんになるんだ?へえ」
妹の機嫌が明らかに持ち直した。ちょっとだけ嬉しそうに見えなくもない。なぜ喜ぶ。反対しろよ。どこに喜ぶ材料があるんだ。
「ええ、実は今日も一緒に行く旅行のお話についてお話しにきたのです。わりと・・・お兄さんシャイですから照れてるみたいで話が進まなくて、押しかけちゃいました」
詰んだわ・・・終わった。




