4話 舌禍
・・・・・・どういうことだ。
目の前のこの女は・・・頭がオカシイのか?
その可能性は充分にある。言っていることが明らかにおかしい。人の未来のことなどわかるはずがない。予知でもできない限りわからない。
「予知能力でも持っているんですか?」
俺は思わずそう聞いていた。
「持っていない」
「そうですか・・・」
ここで持っていると答えてくれた方がまだ理解できたんだが、何なんだろうこの女。
頭のおかしい女とは関わるべきではない。
だが、だがだ、もし女の言っていることが本当だったら?単なるおかしな女ならそれでいい。
俺はループする能力を持っている。詳細は不明だが、少なくとも十回以上死んで繰り返している。この能力は変わった能力だろうか?・・・いや、どう考えてもこの能力は尋常な能力ではない。一言で言うならばチートな能力だ。普通ではありえない。
もしだ、もし女が本当のことを言っていてそれが正しいとしたらだ。このチート能力を持っている俺はどんな目に遭うんだ・・・いや、まさかな。
「もし、結構変わった能力を持っていると言ったら?」
「早急に死ね。悪いことはいわん」
「ははは、実はあなたと同じで死ねないんです・・・って言ったらどうします?」
「・・・・・・・・・・・・本当か?」
女の雰囲気が変わった。
「・・・・・・・・・・本当なのか?」
「本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?・・・・・本当なのか?」
女は急に立ち上がり俺の方にゆっくりと近づきながら同じセリフを繰り返していた。ひたすら「本当なのか?」とまるで念仏のようにつぶやきながら近づいてくる。
なんだ・・・これは・・・
「本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?本当なのか?・・・・・・・本当なのか?」
女はどんどん近づいてくる。そして女の手が俺に触れた。
「本当なのか?」
女の手が俺の両肩にかけられていた。だんだん力が強くなり肩がギリギリと痛む。爪が肩の肉に食い込んでいるのだろう・・・非常に痛い。怖い。狂っている。明らかにおかしい。なんだこれは。おかしいのかこいつ。アイマスクに隠れて目は見えないがおそらくその下に隠された目はギラギラと血走っているだろう。
「答えろ。本当なのか?さあ!!」
俺は、選択ミスをした。女の怖さや痛みに動揺しうっかりミスをおかした。言葉は出していない。だが、思わず頭部がわずかに動いてしまった。それは頷くような動きだった。
そのわずかに動いた気配が・・・手で肩をギリギリと掴んでいる女にも伝わってしまった。
その時の女の顔を忘れない。
とても、邪悪な顔だった。女はニヤァと笑った。笑っていた。すごく嬉しそうに笑ったんだ。アイマスクで隠されて目は見えないが明らかに笑っていた。口元は弧を描くように嬉しそうに開いていた。真っ赤な舌がチラリと覗いていた。
俺は恐怖で動けずにいた。女にギリギリと肩を掴まれたまま蛇ににらまれた蛙のように動けなかった。




