7話 腸肉
俺は目の前のナイトダンサーとまだ手を握り続けていた。素晴らしいものを見た感動で身体が動かない。そんな状態だ。
その時だ、目の前のダンサーからピンク色の光が放たれた。眩いばかりに光が飛び出した。光は俺の身体にまとわりつき服の中を撫でるようにまとわりついていった。満員電車でなぜか痴漢にあったことを思い出した。しばらくその状態が続いたあとに左足のアキレス腱のあたりが強く疼いた。
俺は恐る恐る服をめくった。そこにはピンク色に光輝く薔薇の紋章のようなものが刻印されていた。幸い光は少しずつ収まり、最終的には普通のタトゥーを入れたような状態に落ち着いた。
これが・・・今の儀式で?
「ダイジョウブ コレデ ブジ」
気付けば目の前の魔法少女は元のカタコトの話し方に戻っていた。そして肉体から放たれる光も収まっていた。
「ツカレタ オニク タベル」
魔法少女は疲れたかのようにフラフラとテーブルの自分の席に移動した。そして綺麗に正座した。
魔法少女はテーブルの上をキョロキョロと覗き込んでいた。どの肉から食べるか悩んでいるようだ。
俺も無言で移動し自分の席に座った。ようやく儀式が無事に終わったんだ。少しは落ち着いてもいいだろう。俺もどの肉から食べようかとテーブルの上を見回した。
ガス式の鉄板ではなくて炭火だった。網で焼く本格的な焼肉だ。網で焼くというだけで少しテンションが上がった。
黒い女は我関せずと無言で焼肉を食べ進めていた。そして無造作にモツの部位(おそらくは小腸)の肉を網の上に大量に置いた。俺たちの分もあるのだろうか?いや、この女にそんな気遣いは期待しない方がいいなと俺は自分の肉をどれから焼くか考えていた。
女の焼いた肉はモツ肉だから脂が多かった。網なので下は隙間だらけだ。焼けて溶けた脂が容赦なく炭火に降り注ぎ火は勢いよく燃え盛った。網を突き抜けて少し上の部分まで火は燃え盛っていた。ジュウジュウと肉は燃えていた。
その時だ。事故が起こった。
肉の脂が網から勢いよく飛んだ。飛んでしまったのだ。
飛んだ脂は神の悪戯かのように魔法少女の胸元を直撃した。直撃してしまった。
「アツイ チクビ」
魔法少女の胸元は緩々だった。胸毛という防御壁があったがその防御壁は意味を為さず聳え立つピンク色の突起へと敵の突入を許していた。
魔法少女は少し涙目になっていた。無言でお冷やのグラスの中に入っている氷を一つ取り出した。胸元から氷を入れて乳首を冷やしていた。
女はそれを見ても気にせず肉を焼き続けていた。火の勢いは相変わらず激しかった。
・・・・・・・・・・
無限のような長さに思えたが十分ほどしか経過していなかった。魔法少女は氷で大切な部分を冷やし終わったのか無言ですくっと勢いよく立ち上がった。
流石に女の態度は酷い。一言くらい謝罪があってもおかしくない。まさか怒って乱闘になるのかと俺は内心ビクビクした。まだ一枚も肉を食べていなかった。焼肉屋が戦場になるのは勘弁してほしかった。
立ち上がった魔法少女はキョロキョロと可愛らしく部屋を見回しニッコリと笑った。
その笑顔はまるで肉食獣が獲物を見つけた時の笑みに見えた。
肉食獣は部屋にあった使い捨ての紙エプロンを拾い、丁寧に装着した。絵面がひどい。ひどいがもう慣れていた。流石にあれを乗り越えれば少々のことでは動揺などしない。乱闘ではないようだ。良かった。
ふう、出来れば同じエプロンでも裸エプロンがみたい。
気付けば女は相変わらず肉を食っていた。テーブルの上の肉は残り3分の1くらいに減っていた。
「食べないのですか?」
女は食わないのか?と不思議そうに小首を傾げた。無駄に可愛い。殺したい・・・いや、抑えろ。相手は強い。明らかに俺より強い。
「頂きます」
俺は肉を食いだした。高級店なので流石に美味かった。紙エプロンで胸元の防御力がアップした魔法少女も肉を食いだしていた。
・・・・・・・・・・
ふう、よく食べた。
「少食なのですね」
「これでも食べた方だよ」
目の前に高度な高齢者の変態と俺の生殺与奪を握っている鬼がいて食欲が湧くはずがない。
「デザートを頼みます。ここのオススメは柚子シャーベットですね。頼みますか?」
「頂きます」
口中は肉の脂で少しギトギトしていた。シャーベットでさっぱりしたい。
「ワタシ スピリタス オカワリ モウ オフ タイム」
乳首を火傷した変態はもう働く気はないようだった。無理もない。乳首を火傷すれば労働意欲など湧かないだろう。気付けばスピリタスの入っていたグラスは空になっていた。
俺たちはそれから静かに昼食を終えた。
「美味しかったですね」
「ごちそうさまでした」
他人の金で食う肉は美味かった。食う相手が別ならもっと美味かっただろう。
「もう一つ話があります。あなたのお友達ですが、近いうちに魔法少女が治療にお伺いする予定です。それで直ぐに良くなるでしょう。良かったですね。病院の場所と名前と部屋番号だけ教えておいてくださいな。あと、担当者の方も」
・・・・・この変態が・・・病院に?
よし、思えば一部だがやつのせいでこんな目に遭ってるんだ。あいつにも俺と同じ目に遭ってもらおう。何、治療のためだ。必要は発明の母だよ。少し違うな。
まあ、少し困ったことになるかもしれないが、このまま眠り続けるよりはいいだろう。御伽噺の眠り姫じゃないんだから。
「宜しくお願いします」
そう答える俺の顔はおそらくヒマワリが満開に咲いたかのような笑顔をしていただろう。他人が見たら元気をわけて貰った気分になるはず、そんな笑顔だ。
「食事は済みましたしこれから出る前に連絡先の交換しておきましょう。必要になります」
俺と女は電話番号の交換と無料で通信できるアプリの友達登録をした。その後、同じ作業を隣りにいる変態ともした。
「では、出ましょうか」
女はそう言い個室を出た。俺たちもそれを追った。
そして、気付けば女はレジで会計をしていた。見ると1万札が8枚ほど・・・恐ろしい、おごりで良かった。
そんな呑気なことを考えていた。
「領収書をお願いします」
「宛名はいかがいたしますか?」
「株式会社白く染まりし世界を黒く染めるため死を持ってしても贖えぬ罪を犯し生贄を捧げ続ける罪人共と生贄達(〇〇支部)でお願いします。前株ですね」
「承知致しました。いつもご利用ありがとうございます。何かお気にかかることはございませんでしたか?」
「いつも通り満足です。またお願いしますね」
女は満足そうに領収書を受け取って店を出た。
「ではまた。お元気で」
女は立ち去って行った。腰まで伸ばした綺麗な黒髪を靡かせながら早足で去っていった。隣にはコスプレをした変態爺だけが残っていた。
「アディダス」
変態は疲れたのかなんか言い間違えた感じに去って行った。
よし、帰るか。帰ってクーリング・オフについて調べるとしよう。
俺は詐欺師に騙された気分になりながら家に帰った。詐欺師の方がまだマシだった。
間話 NORMAL END
上記のような作者の趣味全開のろくでもない作品です。ハーレム的展開はそのうち出ますが基本的にはろくでもない展開にしかなりません。こんなクソ作品を好んで頂ける方がいるとこんなニッチなろくでもない趣味を持っているのは作者だけでは無いのだなと嬉しく思います。評価やブックマーク頂けるとわりと喜びます。




