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難易度高めの18禁ゲーム世界で間違った選択肢を選んでしまうタイプの主人公が酷い目に遭う話。慈悲はない  作者: シヴァ犬スキー
間話 初デートは焼肉〜前科持ち(十犯以上)の傷ついた優しき魔法少女との出会い〜
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5話 舌肉


 世の中には決して触れてはいけないものがある。


 この世界は都合よく出来ていない。好奇心猫を殺すという言葉があるがそれは正しい。


 危険な気配がしたら踏み込むべきではない。


 何かを知ることは正しいこととは限らない。


 知ってしまえば後戻りは決して出来ないし、知ることで何かをしようと思ったときにその知識が邪魔をして行動に制限がかかってしまう。


 かといって全くの無知は危険だ。全くの無知はいつか破綻を招く可能性が高い。この世界をうまく生き抜くためには知るべきことと、決して知ってはいけないことのバランスを取りながらうまくやっていくしかない。


 そういったバランス感覚は極めて重要だ。普通に生きていてもそうだが日常から道を踏み外してしまった人間にはそれは強く求められる。



 そう・・・彼は今そんな厳しい絶望に満ちた世界の現実と戦っていた。




・・・・・・・・・・




 「そろそろお肉を注文しましょう。ここは焼き肉屋なのですから」


 黒い女は相変わらずマイペースを貫いていた。すぐ目の前にコスプレをした還暦の変態爺がいることなど目に入っていないのか・・・ピンク色のツインテールに眼帯、露出の多い魔法少女衣装を着た還暦間際のマッチョな爺。そんな無視したくても無視できないパンチの効いた存在が目に入らないというのか。


 あるいは、まるで毎日見慣れた日常の光景を見るかのようなリラックス具合だった。



 俺は違う意味でこの女を恐ろしいと思っていた。え・・・・これ日常なの?



 「オニク スキ」


 変態はそういった。無駄に口調がかわいらしい。まるで幼女のようだった。何故なんだ。まだ年齢はいいんだ。せめて性別は別の性別であって欲しかった。



 ピンポーン



 女は流れるように呼び出しのボタンを押していた。手にはメニュー表がある。



 「初めてでしょう。ここは私に任せておいてください。アレルギーなどはありますか?食べられないものは?」


 流れるように聞いてきた。容赦なく俺を囮にした上に頭を鈍器で潰した気遣いなど全くなさそうな女が、なぜか焼肉屋では気遣いを見せていた。アレルギーや焼肉のメニューを気にする前にもっと違うことを気にして欲しかった。



 そう、俺の命とか。



 「特にないです」

 俺は流されるままに答えていた。


 「オニク オオメ」

 変態は肉好きらしい。マッチョなだけはある。


 「わかりました。コースメニューがあります。ランチタイムはお得ですから」

 



 コンコン


 「失礼致します」

 店員さんが呼びかけに答え、注文を取りに来た。


 「ウーロン茶を二つ。魔法少女マジカル・ガールさんはいつものでいいですか?」

 女はまず飲み物を頼んでいた。


 「スピリタス スキ イツモノ ロック」

 変態は見た目相応に強い酒が好きなようだ。



 「はい、畏まりました」



 「続いてお肉ですね。ランチタイムの一番高いコースを3つ。あと、塩タンを3人前。あと、ミノと・・・ここからここまで2人前ずつお願いします」


 流れるように女は大量の肉を頼んでいた。いくらかかるのだろうか。そもそもおごりとは一言もまだ聞いていない。


 「すいません。学生の身でしてそれほどお金がないのですが・・・」


 嘘だった。懐には50万ほど入っていた。だが使えばこれは借金になる。返済を考えるとあまり使いたくはなかった。


 「大丈夫ですよ。接待・・・いや交際費で落ちますから」


 イメージに合わない単語が出てきたが突っ込んだら負けだ。うかつに聞くと怖い。


 「ははは、ありがとうございます」


 「ええ。安心してください。もうあなたは半分くらい組織の人間です。仮に入らないのならば時間が経てばそのまま吸血鬼になりますが、そのときは私がなんとかします。安心してくださいね」


 相変わらず怖い発言が多い。さらっとこちらの弱点を突いてくる。何とか=始末するって意味にしか聞こえない。どこにも安心材料が見当たらなかった。



 「ははは、ありがとうございます」


 スルーしよう。全てをあるがままに受け入れよう、目を伏せよう。見てはいけない聞いてもいけない。とりあえず相手の機嫌を損なうようなことは避けろ。命を握られている。


 「さて、注文はしましたし、次は契約ですね。こちらにサインをお願いします。入会申込書ですね」


 女は胸元から丸められた羊皮紙のようなものを出した。そしておもむろにくるくると開き、そしてテーブルの上に置きその後・・・不自然に一部分を腕で隠した。そしてきょろきょろと周囲を見渡して、テーブルに置かれているコースターを三枚つかんだ。女はそれを羊皮紙の上に不自然に何かを隠すかのように並べて置いた。


 「ここにサインをお願いします。印鑑は結構ですよ。」


 「・・・・・・はい」


 マグロ漁船かタコ部屋にでも売られるような気分で俺はサインをした。一瞬悩んだが・・・どの道選択肢はない。男は度胸だ!吸血鬼と戦うよりはましだ!サインしても死にはしないさ。この時はそう思っていたんだよ。


 サインをするときは文面をしっかり見ないといけない。プレッシャーに負けて、コースターで隠されて何も見えない羊皮紙にサインをした俺の経験から得た教訓だ。


 「はい、確かに。これで仮ですが仲間ですね。あとは近いうちに本部で手続きをしましょう。トップへの面談と呪武器の契約です」


 本部・・・どんな色物がそろっているんだろう。こいつらよりマシだといいんだが。いくらなんでも一人くらいはまともな人がいると思いたい・・・いるよね。



 「では、次で最後です。5分ほどで終わりますから。魔法少女マジカル・ガールさんお願いします」


 「キュウケツキ ナル タイヘン フセグ ギシキ スルネ」


 片言だが理解は出来た。焼き肉屋でされるとは思わなかったが、少しでも早くこの吸血鬼化を抑えれるなら物凄く有難かった。


 俺は静かに頷いた。


 「宜しくお願いします。カーネル」


 普通に言い間違えた。そして儀式が始まった。



 まず、場所を移動した。テーブルの横にあるスペースにカーネルと向かい合って正座した。お互いに向かい合って目を合わせるように指示をされた。


 「アトハ メヲ ソラサズニ ミテテ」


 「モシ ソラシタラ ヤリナオシ」


 「アイズ シタラ ワタシ テ ニギッテ」


 なるほど、協力して行う儀式らしい。だが難しいものではなさそうだ。




・・・・・・・・・・




 そして悪魔崇拝の儀式が始まった。目の前にはこちらを真っ直ぐ向いて土下座した変態がいる。


 「ああ、天あるいは地に坐す多いなる邪神よ。我に力を!我に力を!目の前にいる哀れなるか弱き生贄を救う力を我に!我に!もっと!もっとだ!このプロテインと兵役で鍛えられた肉体に力を!そう、もっと美しい筋肉を!!筋肉が欲しい!筋肉が欲しい!筋肉があれば妻はいらない!浮気したい!息子はなぜお父さんを冷たい目でみるんだ!おかしい!もっとなつけ!子供のころのようになつけ!!なぜ冷たい目で見るんだ!!お父さんは悲しい!お前もいつかこうなるんだぞ!わかってるのか!妻よ!どうして私のことを息子に悪影響だというんだ!別居!!別居!!なぜだ!!神はいないのか!!この世には邪神しかいないのか!!救え!私を救ってくれ!目の前の哀れなるこれからろくな目に合わないか弱き生贄を・・・子羊を救ってくれ!頼む!・・・マジカルパワー!!プロテイン!!ライトニングチャージ!!ライトニング!チャージャーー!!・・・・・・・」




 これは・・・・酷い・・・・ライトニングチャージと叫んだ瞬間に土下座の体勢から飛び上がり無駄に戦隊モノのポーズを取っているのが輪をかけてひどい。無駄にポーズは決まってて格好いい・・・俺が小学生なら胸キュンしたかもしれない。飛び上がった瞬間に虹色に輝くようなピンク色のツインテールがヒラヒラと靡いていた。そして当然スカートも靡いていた。




 「助けてくれ!助けてくれ!もうこんな衣装嫌だ!!嫌なんだ!!気楽に外食に行きたいんだ!!風俗にも行きたいんだ!!!もう出入り禁止は嫌なんだ!!ちょっと変わった衣装くらいで何故出入り禁止になるんだ!!もっと優しくしろ!!変態じゃない!私は変態じゃないんだ!見た目による差別か!!差別なのか!!違う!!違うんだ!!誤解だ!!話を聞いてくれ!!なぜ写真を撮るんだ!!そして二度と来るなというんだ!!ヘルプ!!ヘルプ!!ギブミー!!ギブミーパワー!!ワールド!!ワールド!!エンドオブワールドスリー!!!」


 基本的に公共の放送では放映できないようなことばかり話しているのに、時折不吉な単語が混じっている。目の前の変態は世界を終わらせたいかのようだ。そしてまた俺の方を向いて土下座している。



 コンコン・・・ガラッ



 「失礼致します。まずはお飲み物から」


 静々と店員が入って来た。そして各テーブルにウーロン茶とスピリタスを置いて行った。なぜかスピリタスは俺の目の前にあった。



 「妻よ!!帰って来てくれ!!別居は辛いんだ!!一人で寝たくないんだ!!浮気くらいしてもいいじゃないか!!仕事が辛いからストレス溜めないためについフラフラしただけなんだ!!頼む!!かえってきてくれ!!頼む!!ギブミー!!ギブミーラブ!!」


 引き続き俺の方を向きながら土下座していた。そして俺に右手を差し出していた。気付けば俺たちは自然に右手を握っている。



・・・握り方は恋人握りだった。まるで長年の夫婦かのように俺たちは差し出された手を当然のように握っていた。



 自分の男っぽくない中性的な容姿と細みの身体が憎かった。



 「次はお料理を置かせていただきますね」


 そして、何事もなく美味しそうなお肉がテーブルの上に置かれていく。セットメニューなのでキムチやサラダ、そして海苔などが実に美味しそうだ。女は先に食べ始めていた。



 「だから私はついついお店にいったんだ!!店くらいいいじゃないか!!カナコ!!あんな見た目で男とかないだろ!!この年になって性癖が増えたじゃないか!!私は男に手を出す気はなかったんだ!!なぜだ!!エンジェル!!!エンジェル!!!」


 不味い。なんか知ってる名前が出てきた。心当たりがありすぎで怖い。この変態と穴兄弟ならぬ竿兄弟の可能性が出てきた。まあ、あの竿は強大な竿だった。



 そう、それはまるで・・・鉄塊だった。



 「ジェニファー!!カムバック!!トランプ!!!!プリーズ!!!メイク!!!ラブ!!!」



 焼肉が焼かれていた。女は一人、塩タンを焼き始めていた。じゅーじゅーと焼ける肉を見る表情は心なしかいつもより柔らかい。


 そして、焼けた肉を少しだけフーフーしている。気付けばパクっと食べ始めていた。


 とても美味しそうな匂いがした。




 「フウ ジュンビ オワッタ イマカラ ハジメル オドル ミテテ」


 土下座の体勢から魔法少女が顔を上げた。大胆にV字カットされた衣装の胸元からは色々見えていた。胸毛は濃かった。ジャングルだった。ジャングルの中にそびえ立つ乳首はピンク色だった。一生知りたくない情報だった。今すぐ記憶を消したかった。




 まだ・・・続くのか。幸い凝視していてもドライアイの心配はいらない。目はなぜか先ほどから潤んでいる。そう・・・とても。なぜか潤んでいる。おかしいな、この現象には覚えがある。



 あのときの月は綺麗だったな。


 浩平の実家の蔵を出た後に見た夜空に浮かぶ月は、すごく綺麗だったな。



 帰りたい・・・すごく・・・帰りたい。妹に会いたい。


 帰って少しくらい優しくしてくれないだろうか。昔は仲良く布団で寝ていたのだが。




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