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23話 断絶



 ここに来て本当に良かった。


 誰かに罰してほしいと思っていた俺だったが本当は誰かに赦して欲しかったのかも知れない。


 浩平のお父さんは見た目は似ておらずまるで岩のように頑健そうな男だったが、時折見せる表情には浩平との確かな血の繋がりを感じさせた。



 そして、親子喧嘩をして仲が悪いと浩平は言っていたが、お父さんの方は喧嘩はすれど浩平のことをずっと気にかけている様子だった。


 月並な言い方になるが親から子への深い愛情を感じさせられた。


 浩平が目を覚ましたら仲直りしてくれるといいな・・・無関係な他人の俺ではあるがそう思っていた。



 そういえば、もう一人浩平のことを伝えなければいけない相手がいることを思い出した。

 妹さんにもこのことを伝えないと・・・親父さんと同じく俺の話を信じて赦してくれるだろうか・・・?


 いや、赦されなくてもいい・・・浩平の大切な家族なんだ。俺が浩平がああなった原因を作った以上何を言われようと伝える義務がある。俺はそう思ってお父さんに話を続けた。



 「こんな話を信じて、そして馬鹿な俺を赦して下さって有難うございます。何とお礼を・・・お詫びを言っていいか俺にはわかりません。深く感謝させてください。有難うございます。そして、浩平の妹さんにも、このことを伝えさせて下さい。今はどちらにいらっしゃるのですか?体調が悪いようなことを浩平には聞いたのですが・・・」


 俺は普通に返事が返ってくるものだと思っていた。不器用ながらも無骨な笑顔のようなものを俺に見せてくれる親父さんの表情がその瞬間変わった。



 「・・・なんのことだね?」

 何か聞かれる予定のないことを聞かれた・・・そう、答えることを拒絶するような返事に俺は感じた。




・・・・・・・・・・




 あれだけ浩平が自慢して大切にしている妹なんだ。俺は必ず妹さんにも現在の浩平のことを伝えなければならない。


 俺は覚悟を決めてもう一度、浩平のお父さんに妹のことを聞いた。


 「妹さんは入院してるんですか?どこか悪いんでしょうか?」



 浩平のお父さんの反応はなかった。唇は硬く引き絞られていた。




 「お願いします!俺は浩平の妹さんに伝えないといけないんです!お願いします!」




 ・・・無言だった。先ほど俺に優しく語りかけてくれた親父さんの姿はもうそこには存在せず。こちらを冷たい目で見ていた。




 「なんのことなのか、私にはわからないな・・・」


 頼み込む俺に対してようやく返ってきた返事は・・・まるで、自分とは無関係な事柄だと役人が答弁で誤魔化すかのような冷たい返答だった。




 「そんなはずはない!カナコさんに会わせてください!ここか、どこか別の場所にいるんでしょ!?」


 その時だった。浩平のお父さんの表情が劇的に変化した。浩平のお父さんは冷たく吐き捨てるようにこういった。



 「今日はもう帰りなさい・・・私にその件について話せることは何もない」




 信じられなかった。


 不器用ながらも浩平への愛情を感じさせていたお父さんが・・・浩平の妹のことになるとそこには愛情どころか一切の情というものが感じられない・・・その目はまるで黒い女が俺を見るときのような目だった。



 親子の深い断絶を感じた。浩平の気持ちを感じると自分のことのように辛かった。




 「妹さんを紹介して欲しい」


 冗談で俺がそういった時の・・・浩平のあの苦悩に満ちた表情の理由がここにあった。




 妹さんの存在は既にお父さんの中ではもういないもの(・・・・・)として切り捨てられていた。



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