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20話 協力



 「助けてくれ!」

 俺は女に必死に頼み込んだ。



 浩平を抱き抱えつつ必死に頼む俺に対して女は少しだけ考えた後こういった。

 

 「条件付きで助けましょう」



 俺の頭を潰して殺した時と同じ淡々とした口調だった。こちらを見る視線には相変わらずなんの興味も感じられず、次の瞬間に鈍器を振り下ろして来たとしてもなんの不思議もないように思えた。



 「条件を教えてほしい」

 そういった俺に対して女はこういった。



 「今後も私が必要なときに吸血鬼退治を手伝ってください。代わりにあなたとあなたのお友達の状態が今よりも悪化しないような処置を今この場で施します。それ以降のことはまた後ほど」


 淡々と女はそう言った。



 「俺はもう元の身体に戻れるんじゃないのか?吸血鬼は倒したんだろ?」



 「ここにいた吸血鬼は確かに処分しました。ただ、アイツは千年単位で生きている極めて強力な吸血鬼です。ここにいたのは本体が各地に飛ばした分身以下の存在に過ぎません。植物が長く生きているうちに血を吸って吸血鬼になった変わり種ですからね。本体がタンポポだとしたら、ここにいたのはタンポポの綿毛程度のものです。本体の力は私から見ても化け物です。今日倒した綿毛程度の力を持った吸血鬼は本体がその気になればいくらでも産み出せます」



 「・・・まじかよ」

 何度も死に戻り必死に戦ったあいつが綿毛程度なのか。俺は相手にしていた敵の本体の強大さに絶望を感じた。



 「そういうわけですので、あなたの身体は完全には治りません。本体が生きてますから。でも、直接的にあなたの血を吸った存在を倒した分、ある程度影響は抑えられます。これから吸血鬼化を抑える処置とあなたの大切な大切な友達の状態を保つ処置をします。植えられた植物の芽の処分もします。いいですね」



 「・・・わかった、宜しく頼む」




 淡々と処置が終わった。服を全て脱がされた俺と浩平は何か特殊なインクで身体に文字や図形を書かれた。素人の俺にはよくわからないが何か意味があるのだろう。



 「救急車をあなたの名前で呼んでおきました。あとの対応はお任せします。もう遅いので私は帰ります。それでは・・・御身体はお大事にしてください」


 仕事が終わったならもうこの場に特に用はない。そんな感じだった。


 「わかった。浩平を入院させてもらえばいいんだな。後は通常の治療でいいのか?」



 「はい、それでは私はこれで失礼します。また、こちらから連絡を入れますので私の指示に従ってください。断れば残念ですが協力関係は終了になります。ちゃんと指示に従うようにお願いします」



 「わかった、指示通りにする。ありがとう」

 断ったら容赦なく殺されただろう、そしてまだ治療の必要な浩平をあっけなく見捨てる・・・そんな予感がした。


 あとは浩平を救急車に乗せて入院の手続きをすれば休める。もう少しだけ頑張ろう。


 遠くから響く救急車のサイレンの音を聞きながら俺はそんなことをボンヤリと考えていた。




・・・・・・・・・・




 救急車が到着した。


 到着した救急隊員の方に浩平を引き渡し、俺は救急車に付き添いとして同乗させてもらった。


 真剣な顔で無表情で職務に励む救急隊員の方は流石だった。プロの仕事なんだな・・・そんな頼もしさを感じた。




 車内ではサイレンの音が思ったよりも大きく聞こえていた。浩平のことを心配して見守りながら、時折窓の外に流れる景色を眺めていた。


 少しだけ距離のある病院が受け入れ先になったらしい。揺れる救急車に乗りながら俺は外をボーッと眺めていた。


 トンネルに入り窓に反射して映る自分の姿を見た。




 そこにはウィッグが外れ地毛丸出しの上、ボロボロになった女物の上着とミニスカートを履いた半裸の変態がいた。


 間違いなくその変態は俺だった。




 ブラジャーが見えていた・・・勝負下着だった。


 丁度いい具合に破れてスリットが入ったミニスカートからちらりとのぞくガーターベルトに大人の色気を感じた。組み合わせは完璧だった。




 組み合わせに問題は何もなかった。問題なのは着けている本人の性別だった。綺麗なお姉さんが着ていたら目に優しい光景だった。


 


 ふと、助手席からこちらを見ている救急隊員と目があった。何か口から吹き出そうになるものを必死に堪えるような真剣な表情をしていた。




 俺はどうしたらいいか判断に悩んだ。


 昔見たことのある人気映画作品に出てきた少年の名言を参考にし・・・ニコリと微笑んでみた。ちょうど今夜は月も出ていたしな。



 救急隊員は無言で目を逸らし口に手を当てていた。




 病院に到着し、入院受付が済んだ。


 深夜にも関わらず対応してくれる医療関係者に深い感謝を感じた。


 ただ会う人間会う人間全てがこちらを見て何か言いたそうな表情をしていた。




 俺は特に何も反応をせずまるで普段着を着ているかのように対応した。


 これはよくある普通の服だった。そう思い込んだ。


 以前の俺とは違う・・・吸血鬼との戦闘の経験を得て成長した姿の俺がそこにいた。



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