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16話 愚行


 しかしそれにしてもだ。



 異世界転生、そしてループ能力。


 この2つが揃った人間と言えば前世で流行っていたライトノベルで言うならば主人公に該当するような人間ではないだろうか。



 普通・・・主人公にはヒロインに該当するような女の子が登場するのではないのだろうか?それも出来れば複数人。目指すはハーレムだろう。


 転生してループ能力を手にした俺だが、出会った女で交流のある女は


 1.実妹のリサ

 2.黒い服を着た女(おぞましい気配を放っている上に俺の頭を容赦なく殴り潰した)

 3.妹パラダイスのリサ(近所の家で飼っている犬の吐瀉物の臭いがする)



 ただただ酷い。俺は泣いても良いだろう。


 実はあの吸血鬼の正体は美女か美少女だったりしないよな?しないか?



 黒い服を着た女に関してはおぞましい気配を放っていたものの見た目だけは良かった。出会いが学校などの日常だったならば恋に落ちていたかもしれない。今となっては惚れる可能性は皆無だが。


 黒光りした鈍器で頭部を潰された経験と容赦なく囮にされた性格の悪さを考えるとあれがヒロインだとしたら自害した方がマシだろう。


 あいつを相手に童貞を捨てるのだけはありえないな。なんせ前世の異世界から捨てずに大事に持ち続けている大切な童貞だぞ。


 それにあいつ相手だと捨てるのは童貞ではなくて命を捨てることになるだろう。




 小説や漫画で読む暴力系ヒロインは可愛いなとか思っていたのだが、現実で容赦なく頭部を鈍器で潰されると流石にない。恋心なんて甘酸っぱいものよりも、ただただ生命の危機を感じる。下半身がピクリとも反応しない。



 俺のヒロインはどこにいるのだろうか・・・。


 2回も死んで命の危機を感じているからだろう、切実に童貞を捨てたい。過去一番の勢いで童貞を捨てたい。



 そして出来れば美女と美少女と姫騎士と魔法少女を集めたハーレムが欲しい。何なら聖女も追加してほしい。聖女ならぬ性女でもいい。むしろそれがいい。聖女を性女に貶めてやりたい。聖水だけじゃなくて裏で違う意味の聖水を売らせたい。誰に売ったか記録を取らせて詳細に報告をさせたい。




 「俺を中心にした異世界ハーレムが欲しい・・・姫騎士と魔法少女と美女と美少女に囲まれてキャッキャウフフしたい・・・毎日エロいことだけして過ごしたい。美少女に貢がれて生活したい。聖女を性女にしてやりたい。違う意味の聖水を売らせて俺に貢がせたい。そして売上の内容を詳細に報告させたい」


 2回も死んだストレスで現実逃避に走っていた俺は、心のままにそう独り言を言っていた所、ゴソゴソッという音がした。




 音がした方を振り返ると、そこには他人の決して聞いてはいけない下衆な独り言を聞いてしまい、何も聞こえなかった振りをするしかないような気まずい顔をした浩平がいた。


 そういえばここはセーブポイントのカラオケだった・・・ああ、色々もういっぱいいっぱいだわ。




 2回死んで頭のネジが何本か飛んだのか羞恥心とかどうでもよくなっていた俺は、何事もなかったように浩平に声をかけた。



 「おはよう」



 過去一番爽やかな声が出たと思う。




 浩平は無言で目を逸らした。


 何かを耐えるような表情だった。




・・・・・・・・・・




 2回死んだ経験でわかったことがある。


 銀の武器と白木の杭は効果がない。


 俺の攻撃の中で、アイツにダメージを与えられた攻撃はあの黒い女から借りた刃物で刺した攻撃だけだろう。それ以外は何をされてもニタニタと愉しそうに嗤っていた。




 あと、アイツの男女判定能力はガバガバだった。2回とも女装が通用した。


 俺の中性的な容姿を活かした女装能力が高いのか?それとも妹パラダイスのリサの体臭がすごいのか・・・やつは何で男女の判定をしているのだろう?謎だ。


 犬の吐瀉物のような臭いのする体臭を2回とも褒めていたから臭いの気はするが・・・ループ能力についての不明点は多い。


 ループすることのできる回数制限がある可能性は?何度も死んで俺の心が持つのか?既に二度死んだが・・・おそらく今の俺はもう死を経験する前の俺とは違うだろう。死ぬたびに俺は何か大切なものを喪っていた。そんな気がした。



 そんなことを色々と考えると、ループできるとはいえ臭いの有効性の確認のためだけに軽々には死ねなかった。


 それに・・・また浩平が死ぬ姿を見るのも辛かった。辛かったんだ。






 吸血鬼を殺すため色々と試行錯誤した・・・だが、努力は報われず俺たちは何度も死んだ。何度も何度も死んだ。



 浩平は・・・一度も俺を見捨てなかった。



 俺がとどめを刺す役で吸血鬼を引き付けた時もあった。浩平が逃げる時間は充分あった。充分あったんだよ。


 浩平は・・・一回目の俺のように置き去りにして逃げたりはしなかった。


 俺が色々とどんなに行動を変えても・・・浩平は俺を見捨てなかった。そこだけは常に同じだった。




 一回くらい逃げやがれ馬鹿野郎・・・畜生、どうしろってんだ。




・・・・・・・・・・




 何度も死んだことや目の前で浩平が死ぬのを見続けてもう心が摩耗して限界だったのだろう。


 今回の俺は流されるままに浩平の行動に頷き、気づけば俺は妹パラダイスの入り口にいた。


 


 「いらっしゃいませー!」


 カモを見つけたような目でこちらを見ている上機嫌な髭面のガタイのいい店員がこちらに声をかけてきた。


 それは疲れ果てた俺の単なる偏見だったのかもしれない。入店したお客さんに笑顔で声をかけるくらいは普通のことだ。・・・だめだな、被害妄想か。



 店員はしきりに俺に声をかけてきていた。



 ・・・おかしい、この店員は浩平と打ち合わせをしていて俺のことには大して目もくれなかったはずだ。疑問に感じふと店員の目を見た。



 赤の他人である俺のことを心から心配している・・・そんな優しい目をしていた。



 俺はよっぽどひどい顔をしていたのだろう。


 初対面の店員にこれほど心配されるなんて・・・それにしても毎回ひどい目に合わされたが実はそれほど悪い店じゃないのかもしれないな。


 俺は脳天気にもそんなことを思った。


 「店員さんのおすすめを教えてくれないか?」


 少しだけ心が安らいだ俺は店員にそう声をかけていた。


 「おすすめですね!色々といい子はいるんですが、お客様の好みで好きなタイプ、嫌いなタイプもあるでしょうし・・・絶対にこれは嫌だ!ってタイプはありますか?」



 「体臭のあまりしない相手を頼む。出来ればいい匂いのする相手(・・)を頼みたい。・・・それ以外は個性(・・・・・・・)みたいなもんだろう」


 もう疲れ果てていた。吸血鬼退治はおいといて純粋に楽しみたかった。疲れ果てていたんだ。


 「匂いフェチなんですか?」


 「違う!」


 そう言いたかったが、匂いフェチでも何でも誤解されても今更大した問題ではなかった。既にそこは通った道だ。



 それに・・・どうせ死ねばこの会話も無かったことになる。そんな投げやりなことを考えていた。



 「いい匂いが好きなんだ」


 俺は朝食はトースト派なんだ・・・米とパンはどちらが好きか?そういう一般的な質問に答えるように淡々と俺は店員に伝えていた。



 「わかりました!逆にこういう相手だと嬉しいな!ってタイプはあったりしますか?最大限合わせますよ」




 「癒してくれる相手が欲しい。あとは細かいこと(・・・・・)はどうでもいい。すごく・・・疲れてるんだ」




 「・・・わかります。うちでリピート率のすごく高いナンバー2の子がいます。年配の方からの人気が抜群にいい子なんですが・・・少しだけ上級者向け(・・・・・・・・・)なんですよね。でも自信を持ってお勧めできる子です」


 店員の目や口調は本当に自信ありげだった。この道に通じた熟練の漢が語るかのような自信を感じた。



 「俺はある意味上級者(・・・・・・・)なんだよ・・・その子で頼む。店員さんを信じるよ」


 毎回、犬の吐瀉物のような女の匂いを身体に染み込ませるプレイをしていた俺だ。ある意味もう上級者だろう。童貞なんだけどな・・・なんでこんなプレイばっかり・・・。普通にエロいことがしたいです・・・。


 疲れきった俺の心を店員さんの優しさが少しだけほぐしたのだろう・・・気づけば俺は穏やかにそう返答していた。


 そして、前回と違いどうしようか悩んでいる浩平の姿を見た俺はふとイタズラ心が湧いた。魔が差したんだ。




 「店員さん、あいつにはリサちゃんを頼む。恥ずかしくて言えないみたいだが、あいつのタイプなんだよ」


 「わかりました!夢のような時間を期待していてください。少しだけお待ち下さいね」


 俺たちに優しげにそう声をかけ、受付を済ませた店員さんはにこやかに店の奥に去っていった。




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