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15話 能力


 俺は跳ね上がるように身体を起こし目を覚ました。

 

 呼吸が荒い・・・酷く汗をかいていた。



 「眠れないのか?」


 声がする方を向くと・・・そこにはカラオケのソファで横になりながらもこちらを心配そうに見ている浩平がいた。



 「あ、ああ・・・ちょっとうとうとしてたんだが夢見が悪くてな。でも、もう寝るよ」



 「そうか、あんなことがあったしな。ゆっくりと寝ろよ・・・おやすみ」



 その時の自分がどんな顔をしていたかはわからない。声も表情も普段通りに振る舞えた自信は全く無い。多分、泣きそうな声と表情をしてたんじゃないかと思う。



 ソファに横になり浩平がいる方とは逆を向き、俺は混乱した頭で考えていた。



 夢だったのか?いや、一体何が起きている?



 夢?黄泉返り?ループ?予知夢?俺の頭がおかしくなった?



 冷静に考えようとはした。


 ただ、頭の中は混乱していて考えはまとまらなかった。


 何より・・・真っ二つにされて死にそうになっていた浩平が・・・俺が見捨てて逃げ出した後に一人で死んだであろう浩平が・・・生きている無事な姿を見ると・・・



 目からポロポロと涙が溢れてきて止まらなかった。


 止めようとした。止めようとしたんだ。でも、止めようとしても涙は止まらなかった。


 ポロポロといつまでも涙が流れ続けていた。多分、嗚咽も漏れていただろう。俺は嗚咽が聞こえないように・・・まるで我慢して静かに泣く子供のように泣き続けていた。



 即死していてもおかしくない状態にも関わらず死ぬ前に生命イノチを振り絞って俺に逃げろと言ってくれた浩平がまだ生きていることが・・・嬉しくてたまらなかった。本当に嬉しかったんだ。



 嗚咽の声が少しづつ大きくなっていたと思う。子供のように泣きじゃくる俺に疑問を感じなかった筈はない。



 浩平はその夜、俺に何も聞かなかった。



 身体を背け子供のように泣きじゃくる俺に対して何も聞かずにただそっとしてくれた。



 そんな暖かな空間の中、気づけば俺は自然と眠りについていた。




・・・・・・・・・・




 目が覚めた。




 深く眠っていたようだ。


 予知夢あるいは前回の時よりも早く目が覚めた。目が覚めてすぐに確認したが浩平はちゃんと生きていた。


 昨晩の疲れがあるのかまだ眠っていた。




 寝起きのスッキリした頭で、浩平を起こさないように声を出さずに静かに俺は考え続けていた。


 あの女に殺された筈の俺が生きていることについてどういう風に考えれば理屈が通るか・・・



 1.単なる悪夢


 2.単なる妄想もしくは俺の頭がおかしくなっている


 3.予知夢


 4.死んだことにより少し前の時間までループした。




 1と2の可能性も結構ある。


 吸血鬼なんて馬鹿げた存在に遭遇したんだ。


 悪夢を見ても何もおかしくない。


 そして、ストレスで頭がおかしくなってもそこまで変ではない・・・と思う。






 1の場合は所詮は単なる夢なので気にする必要はない。


 2の場合は少し問題だが、3や4よりはまだましだ。


 せいぜい自分の頭が本格的におかしくならないようにストレスだけ溜めすぎなければ良い。なんならメンタルクリニックに通ってもいい。まともな対処方法が存在するんだから気は楽なもんだ。




 問題は3と4の場合だ。


 3の予知夢の場合、予知夢通りにならないようにする方法はあるのか?夢をみた時点で運命が確定されているような・・・そんなことはないだろうか。


 もしそうならば俺も浩平も既に詰んでいる。予知の通り死ぬしかないだろう。




 そして4のループの場合、俺は一体なんだ?


 死んでも黄泉返って過去に戻る存在はまともな人間だと言えるのか?




 そもそも予知夢にしてもループにしても俺にどうしてそんな能力がある?





 もう一つ俺の頭の中を悩ませている問題がある。先ほど目が覚めて思い出したが、俺には今とは別の人間として別の世界で生きていた記憶があり、そして死んだ記憶がある。




 前世・・・でいいのか?


 死んだあとに見ていた夢のようなものの中で・・・何かものすごい途方もなく巨大な・・・おぞましい存在感を周囲に撒き散らしていた白いクジラのような形をした生き物が俺の方を見ていた。



 多分あいつは愉しそうに嗤っていた。




 その存在に見つめられた瞬間、死んで肉体も亡く魂だけの存在になり、感情も薄れてほぼなくなっていただろう状態の俺だったが・・・途轍もない恐怖のようなものを感じていたような気がする。


 あのまま見られていたら魂が消滅していたかもしれない。




 吸血鬼やあのおぞましい黒い女も充分恐ろしかったが、前世?で死んだあとに出会ったあの白い大きなクジラのような生き物とは比べようもなかった。




・・・・・・・・・・・




 多分、あのクジラのような存在のことを思い出したことや一度死んだこと、前世の記憶のことで頭がいっぱいいっぱいだったんだろう。


 俺はまるで悪い夢を見ているかのような気持ちでいた。


 無気力に前回をなぞるように俺は同じ行動を繰り返し・・・そして気づけば目の前には吸血鬼に真っ二つにされた浩平がいた。




 ああ・・・畜生、全く同じかよ・・・




 「・・・逃げろ」



 目の前には一回目と同じく、あるいは予知と同じく真っ二つにされて瀕死にもかかわらず俺に逃げろと言っている浩平がいた。


 俺はその姿を見て身動きが出来なかった。気づけば何故か真っ二つにされた浩平の元へフラフラと歩いていた。



 ほんと・・・なんでかな・・・


 


 「・・・逃げろ」



 浩平は焦点のあっていないぼんやりとした目をしていた。


 無理もない。即死してもおかしくない傷だ。


 意識もろくにないだろうに・・・まだ逃げろというんだな。


 すまん、それは聞けないわ。お前の犠牲を無駄にして本当にごめん。



 「お前の気持ちを無駄にしてすまん・・・浩平。何言ってるかわからないと思うけどさ。俺さ、2回も・・・お前を一人で死なせたくないみたいだわ」


 俺はその場に座り、浩平の真っ二つになった上半身を胸に抱いた。


 「すまねえな・・・あのとき一人で死ぬの辛かっただろ、わかるよ(・・・・)。即死でも辛かった。ゆっくり一人で死んでいったお前はどれだけ辛かったんだろな・・・馬鹿野郎」


 俺は浩平を胸に抱いたまま身動きをせず静かに過ごしていた。




 どれくらいの時間が流れたのかはわからない。


 気づけば浩平の息は既に止まっていた。


 「ごめんな・・・でも、お前を一人で死なせるよりは良かった。お前の最期を看取れてよかった・・・」


 あの吸血鬼が何か言っていた気はする。でもこの時はあまり内容が頭に入らなかったのか、何を言われたのかは覚えていない。気づけば俺の意識はテレビの電源が落ちるように突然消えた。




・・・・・・・・・・




 おそらくまた死んだ・・・であろう俺は再びカラオケボックスで目を覚ました。前回と同じく酷い汗はかいていたが、呼吸は前回よりは落ち着いていた。



 ・・・ふう、またここか。


 4.ループ能力の可能性が高い・・・か






 ・・・そしてここは異世界だ。


 先ほどは詳しく言及しなかったがそういう結論に俺は達していた。




 吸血鬼なんて馬鹿げた存在に遭遇したことやループ?能力からそういう結論に達したわけではない。


 前世でも吸血鬼の伝承は存在していた。


 俺がたまたま遭遇しなかっただけで前世の世界でも吸血鬼は実はいたのかもしれない。




 理由はそれではない。


 高等教育を前世でも現世でも受けている俺は当然のごとく歴史の勉強や地理の勉強をしていた。そこからわかることがある。




 ここは異世界だ。


 同じ世界で死んで、新しく同じ世界に転生したのならば過去の歴史や地形が同一の筈だ。


 だが、前世と現世では大きな違いがある。


 そこまで歴史や地理の勉強に熱心だったわけではないから当然細かい間違いはあるだろう。


 だが、大きな歴史の流れや大まかな地形くらいは流石に覚えている。


 


 前世と現世で不自然に一致する部分もある。


 あるのだが・・・勘違いでは済まされないくらいのレベルで地形が違っていた。


 奇妙な程に似ている部分もあるが異世界と考えていいだろう。




 異世界とわかったからと言って何か吸血鬼に対する問題が解決する訳ではないのだが、心がストンと落ち着いた気がした。




・・・・・・・・・・




 今更ながら出来ればもう少し早く異世界転生したことに気付きたかった。


 そうすればこのループ?する能力のことにも気づいていたかもしれない。


 能力の存在に気づいていれば、能力を訓練し使いこなすことで、吸血鬼と出会う前にループすることも出来たかもしれない。


 だが、もうそれについては手遅れなような気がしている。ループする起点を仮にセーブポイントのようなものとしよう。


 今のセーブポイントは吸血鬼と遭遇して肉体に何かを埋め込まれた後に逃げ帰ったカラオケボックスのようだ。


 吸血鬼と遭遇しなかったことには出来ない・・・と考えたほうが良いだろう。




 今更ながら本当に思う。


 出来ればもう少し早くこの能力の存在に気付きたかった。


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