表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/159

4話 玩具


 酔っていた勢いもあるのだろう。店を出てから俺は気づけばサウナに来ていた。


 ロイヤルサウナ・・・か。よくわからないが何かすごいのだろう。なにせロイヤルだからな。どこかの王族がお忍びで通っていたりするのだろうか?いやまさかな。俺は期待をしつつも勢いでサウナに突入した。


 なお、サウナの入り口には何故か注意書きが書かれていた。


 「モラル、節度のないお客様の入浴お断り・・・」


 なるほど、お忍びで来ている有名人や身分のある方を見かけても話しかけたり写真撮影はするな・・・見てみぬふりをしてあくまでサウナとして楽しめということかな。俺はそんな推測をしていた。






・・・・・・・・・・






 俺はサウナのロッカールームにいた。会員制ととくさんには言われたがとくに入会審査のようなものは無かった。ただ入り口で番頭をしていたガタイの良い肌の白いツヤツヤした男に金を払っただけだ。深夜に初めての客が来るのが珍しいのだろうか?何故かじろじろと凝視されたが・・・節度を持って楽しんでいって下さいと言われたな。それにしてもここにも注意書きがあるのか。


 「ロッカールームの鍵を当サウナでは足首につけるのは禁止しております・・・か」


 不思議な注意書きだな・・・いや、こういうことだな。足首につけると鍵を落としても高さが無いから大きな音がしない。つまり落としたことに気づかずに鍵を無くしやすいということか。よし、鍵を無くさないように俺は首から鍵を下げておこう。ちょうど輪っかの部分がゴム素材だからよく伸びるしな。これくらいの高さがあれば落ちたらそれなりに音がする。紛失防止には最適だろう。首につけるとまるでちょっとしたチョーカーみたいでオシャレだな。悪くないかもしれない。



 それにしても・・・俺が首筋に鍵を着けた瞬間に周囲の客が一瞬ざわついた気がしたがなんだろな。その発想はなかった!目から鱗が出た!という驚きかな。フフ、夜は俺の時間だ。頭が冴えてるな俺は。




 俺はサウナに入る前にまずは大浴場で汗を流すことにした。深夜にも関わらず中々客が多い。広いから狭い感覚は無いが20名くらいはいるだろうか。さすがロイヤルなだけはある。流行っているな。



 大浴場の洗い場の端っこのスペースで四つん這いになっている男が二人いるな。一人はマッチョ、もうひとりは貧弱なもやし体型だ。いずれも肌は白い。その横にはタオルも着けずにまるで王のように腕を組んで心なしか前に腰を突き出して仁王立ちしている男がいる。体格はムキムキの色黒マッチョだ。まるでプロレスラーのようだな。顔は見えないが背中がツヤツヤしていた。


 四つん這いの男たちは鍵でも落としたのだろうか?やれやれ、注意書きに反して足首に鍵でもつけていたのかもしれないな。やはり鍵は首から下げるに限る。夜の俺は冴えているな。まあとりあえず身体を洗ったら風呂に入るとしよう。






・・・・・・・・・・






 「いい湯だな」


 俺は風呂の湯を満喫していた。なにか入浴剤を入れているのかそれとも温泉なのだろうか不思議とお湯は少しだけ白く濁っている。一部だがまるでローションのようにぬるぬるした肌に優しそうな成分も含まれている。温泉にはそのお湯によって効果効能は違うが、肌のツヤツヤテカテカしたお客さんが多いのを見ると美肌に効果があるのかもしれないな。美肌なら男性専用ではなくて女性専用にした方が流行る気もするが、まあ最近は男も化粧をする時代だ。流行りの先端をいっているのだろう。



 それにしても、大浴場に入室してからずっとだが不思議と周囲からあちこち視線を感じる。最近殺伐とした生活をしていたから一瞬新たな敵でも潜んでいるのかと思ったが敵意は一切感じ無い。


 しばらく警戒して襲われても対応できるように警戒モードに入っていたが、時間が経過しよくよく視線に含まれる感情が何なのか分析してみたところ、敵意ではなくむしろそこはかとない好意のようなものが視線に含まれていることに俺は気づいた。その瞬間俺は警戒を解いていた。



 「深夜に来店した新人にサウナの良さを教えたいが、初対面だとテレもあって話しかけづらい。だが、気にはなるからついつい見てしまう」


 推測するにそういうことか。心配する必要はなかったな。引き続きロイヤルサウナの良さを満喫するとしよう。



 白いにごり湯で存分に温まった俺はいよいよ本命のサウナに移動することにした。






・・・・・・・・・・






 「悪くない」


 サウナの中はいい具合に高温だった。入室してそれなりの時間が経ったがいい具合に汗がでる。人から吸血鬼になってもサウナの気持ちよさは変わらないようだ。と言っても初体験なんだがな。まあ、悪くないのだから良い。


 それにしても、俺が風呂を出てサウナに入ろうとしたら同じタイミングでゾロゾロと10名ほど連れ立って一緒にサウナに入室してきたが、これはやはり新人にサウナの良さを教えてやるぜ!ということなのだろうか。好意混じりの視線は相変わらず感じる。だが踏ん切りがつかないのかチラチラと視線は寄越すもののお互いに無言で過ごす時間が続いていた。



 その時だ。一人の男が立ち上がった。腰にタオルを巻いていたが立ち上がった際にはらりと自然にタオルが落下した。暑くてタオルを気に掛ける余裕など無いのだろう。男はサウナの端に置いてある熱せられた石にほのかに香りのする水をぶち撒けた。


 瞬間、水蒸気が上がりサウナの温度が上がった。これは効く。周囲の男たちも暑さに表情を歪めていた。だが、誰も彼もが一番最初に出たやつは負けという我慢大会のような気分になっているのか誰一人外には出ようとはしなかった。俺も一番最初に出るのはなんとなく嫌だったので引き続きサウナを満喫することにした。






・・・・・・・・・・






 あれから十分ほど経過しただろうか。相変わらず暑いが誰一人外には出ていない。サウナの中は水蒸気で曇って視界が悪くなっていた。暑さとよく見えないからもういいやと思ったのだろう。気づけば一人そしてまた一人と腰のタオルを外す人が増えていった。まあ、限界まで暑くなりしんどくなると恥ずかしいとか気にする余裕も無くなるのだろう。わかる。俺もあの城で死にまくっていた時はもう常識とか羞恥心とかほぼ無くなっていたしな。



 それにしても、周囲の限界は近いようだな。暑さに負けて全員タオルを外している。俺はまだ余裕だが、まあ右に倣えだ。俺もタオルを外すとしよう。俺は腰に巻いていたタオルを外した。なぜか周囲はざわめいていた。




 なぜだろう。俺が腰のタオルを外してから周囲の男たちの落ち着きがない。不思議と視線をそわそわと揺らめかせている。俺のご立派様にびっくりしたのだろうか?暑さのせいか股間を勃起させているやつもいるが、たしかに俺の方がサイズは大きい。フッ・・・勝ったな。




 ガチャリッ




 サウナの扉が開いた。新たな挑戦者のようだ。まあ、誰が来ても負ける気はしない。所詮は普通の人間相手だ。負けるはずがない。俺はもはや股間を隠すことなど一切せず、挑戦者を迎えるように視線を巡らせていた。



 新たな挑戦者はまるで王のように腕を組んでいた男だった。相変わらずガタイが良くプロレスラーのようだ。男は俺に対し挑発的な目を向けていた。男は俺を凝視しつつ一歩ずつゆっくりと近づきながらおもむろにこう言った。



 「とくさんか?」


 「違います」


 反射的に俺はそう答えていた。確かに紹介者は徳田さんではある。あだなはとくさんだが俺はとくさんではない。答えた瞬間俺はなぜか男に股間を掴まれていた。



 

 


 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ