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3話 豪遊


 ヒャッハー



 一言で言うとそんな感じに俺は浮かれていた。そして気づけば俺はドレス姿の綺麗なお姉さんが飲み物を注いでくれるお店に来ていた。



 「こんなに高いボトル入れて大丈夫なの?無理してない?」


 たまたま席に着いてくれたスズカさんは優しかった。根が善良なのだろう。見た目童顔の俺を店員のボーイは何も聞かずに入店させたが、スズカさんは俺の顔を見た瞬間少し固まっていた。聞けばまだ新人さんらしい。急遽お金が必要な理由が出来て働くことを決めたそうだ。ありがちな話だ。稼ぐための設定かもしれないが本当かもしれない。あんまり嘘の得意そうなタイプにも見えないが・・・まあ真実はわからない。とりあえず楽しい時間を提供してくれたお礼にチップは弾もう。俺はスズカさんの細い美脚を手でサワサワしながら浮かれきっていた。



 「酒が美味い」


 「飲み過ぎじゃないかしら・・・」



 俺はウイスキーのボトルをまるで麦茶のようにゴクゴクと飲んでいた。完全な吸血鬼になって単純な身体能力が格段に上がった。毒物に対する耐性も上がった。飲み過ぎれば毒となるアルコールも吸血鬼の身体にはいくら飲んでも大した問題ではなかった。


 といっても酔えない訳では無い。俺は飲みながらも自分の身体の解毒能力の調節を試みていた。本気になれば一瞬で酔いが醒めてしまう。だから、泥酔にならないほろ酔い程度に解毒能力を低下させる。そんな調節だ。癒やしを求めてキャバクラにやってきたが思わぬところで能力を鍛えることに役立っている。人生これ全て鍛錬かな。いやはや何が役に立つかわからないものだ。俺は追加注文したボトルをラッパ飲みしながらそんな事を考えていた。


 ちなみに横にいるスズカさんは途中からドン引きしていた。



 「きゅ、急性アルコール中毒・・・救急車呼ばないと・・・」


 本人にとっては大変な事態なのかもしれない。なにせ体験で初めて着いた客がウィスキーを数本ラッパ飲みしている。飲み過ぎてぶっ倒れたら責任問題になるかもしれない。そりゃ心配もするだろう。俺はこの善良なキャバ嬢であるスズカさんを安心させるために優しい言葉をかけることにした。



 「大丈夫、大丈夫、全然酔ってないから。全然酔ってないから。こんなの麦茶みたいなもんだから」



 「ふ・・・ふえええええええ」


 スズカさんは気づけば小さく可愛く奇声を発していた。説得力はゼロだったようだ。






・・・・・・・・・・






 お酒の力はすごいものだ。あるいはお店の雰囲気だろうか、気づけば俺は俺と同じくこのキャバクラパンデモニウムに遊びに来ていたおじさんと意気投合していた。



 「いやあ、このお店はいい店ですね」


 「そうだろ、そうだろ。盃が空いているね。もっと飲もう、ささ」


 気づけば俺は隣に座っているおじさんにお酒を注がれていた。お互いに肩も組んでいる。特徴はガタイがよく髪型は今どきしている人はめったに見ないパンチパーマだ。顔は笑っているがサングラスの下の目は笑っていない。ちょっと迫力のある感じのおじさんだ。反社かな?一瞬反社かヤクザかなと警戒したが、よく考えたら危害を加えられたなら返り討ちにすればいい。俺にはそれが出来る。万が一の時は容赦なく報復してやろう。俺は気楽にヤクザっぽいガタイのいいおじさんと酒を一緒に飲んでいた。


 名刺を貰い職業を聞いたらなんでもお風呂屋さんを経営しているそうだ。見た目で人は判断したら駄目だな。反省だ。そのうち入りに行くのもありかもしれないな。お酒を飲みながらそんなことを思っていた。ちなみに名前は徳田さんだ。「とくさんと呼んでくれ、友人からはそう呼ばれている」と言われた。俺は気づけばとくさんと仲良く会話を続けていた。



 「とくさん、俺ね。最近すっごい疲れることあったんですよ。で、多分今後も不定期だけどすっごい疲れることが時々あると思うんです。でね、癒やしが欲しいんですよ。癒やしが。なんかこうーーー、癒やされることって無いですか?こういうお店もいいんですけど、それとはちょっと種類の違う大人の癒やしって感じのやつ、なんかありませんか?とくさん」


 初対面にも関わらず、俺はぐいぐい行っていた。向こうも酔っ払って上機嫌だし、俺ももう大抵のものは怖くない。癒やしが欲しいのは本心だったし、俺は藁をもすがる気持ちでダメ元で聞いていた。あと、ほろ酔いで人に無茶振りするのが楽しくもあったのだ。



 「癒やし・・・私は・・・その、最近お料理するのに凝ってて・・・自分が好きなものを好きな味付けで作って食べてると癒やされます」


 癒やしかあと腕を組んで考えだしたとくさんを他所にスズカさんがそう答えていた。会話が止まらないように気を遣っているのもあるのだろう。



 「サウナだね」


 「・・・サウナ?」



 「ああ、サウナだ。癒やしといえばこれしかないと自信を持って言える」


 「そんなにですか?」


 ほんとかなあ?と思いつつ俺は続きを促していた。



 「サウナはね。言うならば普段男が生活している上で身にまとっている見栄とかプライドとかいう余計なものを全て裸にしてさらけ出してくれるんだ。そしてね、男の肉体や魂の解放・・・といえばいいのかな。日常に縛られた全てを忘れさせてくれる。そして・・・あまり具体的に言うのも無粋だから言わないがサウナでしか得られない快楽があるんだよ。この快楽は女遊びでは得られないものだ。それはもう・・・すっごいものだ。初体験の時、気づけばサウナで私は雄叫びを上げていたよ。一度経験したら・・・ハマってやめられなくなってね。あるいはハメられたが正しいのかもしれないが。そうだな、おすすめのサウナがある。ここからもそう遠くはない。よかったら君も行ってみるといい。会員制の男性限定のサウナだから安心してくれ」


 「・・・そ、そんなに?」


 ほろ酔いの上に泡銭を得て判断能力の落ちていた俺はとくさんの語るサウナに魅力を感じていた。何なら今からでも行こうかなと思っているくらいだ。うーん、行こうかな。





 「お客様、そろそろお時間です」


 俺を案内したボーイさんがそう声をかけてきた。気づけば日付が変わる頃だ。店に来てから4時間は経過している。ボトルは二十本ほど開けただろうか。豪遊気分を楽しみたかったから、飲みたいだけ飲んだが悪くない。初めての店だがとくさんという楽しいおじさんとの思わぬ出会いもあった。会計を見るのが少しだけ怖くもあるがまあいくらでも払える当てはある。俺はとくさんに別れを告げフラフラと会計に移動した。



 会計は三桁万だった。相場は分からないがあれだけボトルを開けたら仕方ないだろう。現金で無造作に払う姿をドン引きしながら俺に寄り添いながら見ているスズカさんと慣れているのか何事もなく受け取るボーイが対照的だった。


 美味しいカモだと途中から思われたのか、途中から我も我もと挨拶に来るお姉さん達が目の保養になった。名刺を全員から貰ったが名刺には手書きで携帯の連絡先も書かれている。お店用だろうが本気さを感じた。


 スズカさんからも連絡先を貰ったがまだ名刺が出来ていないらしく、お店の備え付けのメモ書きに連絡先を書いて渡された。



 なお、登録してみたら登録名が普通にスズカだった。


 


 



 

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