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勇者編⑪ ありふれた不運


 あれから数ヶ月が過ぎていた。


 会いたくないと言われた程度で引き下がる私ではない。私は何度か隠者の家を訪ねていた。何なら殺し合いをしながら話せばいい。情報は必要だし、あんな壊れた表情をする隠者を一人で長く放って置く気もなかった。隠者曰くもう友達では無いのかもしれないが・・・




 隠者の家の扉には不思議な透明な結界のようなものが張られていた。結界は強固で・・・私の力では何をしても破ることは出来なかった。


 今まで中に入れていたのは・・・私を受け入れてくれていたということなのだろう。だが、もう扉が開くことはなかった。何度訪れても扉が開くことはなかった。


 私は友達と顔を会わせて喧嘩することも出来なくなったらしい。辛いな。だが慣れている。慣れよう。


 ああ・・・家に帰って枕に顔を埋めて一人で泣くか。はは、まるでただの乙女だな。勇者に涙は似合わない。いつものように狂ったように笑っていればいい。ま、一人で泣くくらいはいいだろうさ。






 ・・・少し疲れたな。






・・・・・・・・・・






 会えない間も時間は流れている。その間私は隠者が言っていたことを考えていた。


 「分岐点にいる。分岐点を超えると戻れなくなる・・・か」



 魔王を殺すな。魔王軍の軍団長も殺すな・・・とも言っていたな。目立たない程度に頑張れか。難しいことを言う。そもそも手を抜けば死ぬぞ。強くなりはしたものの最強と言うには程遠い。



 やめだな。大切な友人の忠告だが、どのみち私の道は決まっている。一匹でも多く魔王軍を殺す。軍団長も全員殺す。そして魔王も殺す。それが叶えば死んでも良い。私の目標はとうに決まっている。


 それに・・・私と同じくまともじゃない隠者の忠告が正しいという保証なんかない。単なる思い込みの可能性もある。それに・・・酷い目にあう可能性があるからと言って今更退けるような状況じゃない。



 「考えたけど分岐点なんかもうとっくに超えているよ・・・隠者。この世界に来た時点で、この世界に来てろくでもない戦争を知った時点でもうとっくに手遅れだ。あるいは産まれてきた時点でもう手遅れだ。君の言ったことが正しいとしてもだ。どの道ろくでもない罪深い私の出来ることなんか魔王軍を道連れにしてせいぜい派手に死ぬくらいだ。それに酷い目に遭うなんてとっくに慣れている。もうとっくに慣れたよ」



 明日は戦争だ。ああ、チャンスがあれば殺そう。敵は殺す。味方を守るためには殺すしかないのだ。


 私は勇者だ。魔王軍を殺す一本の槍だ。誰よりも前に出て敵を殺し、味方を鼓舞し、絶望と共に攻めてくる魔王軍を刺し貫く一本の槍だ。考えても正誤の分からぬ問題は放っておくしかない。それよりも槍の務めを果たそう。



 よし寝よう。






・・・・・・・・・・






 私はいつものごとく魔王軍と戦っていた。側にはいつものごとくシオンがいる。私の背後や側面から攻撃しようとする敵を倒したり防いだりしてくれていた。寝る時は別々になってしまったが戦場ではいつも通り一緒に戦ってくれていた。




 今日はオーガの数が多い。


 兵士ではオーガを大きな犠牲なしには倒せない。死を前提に何人も何人も突っ込みオーガの注意を引き、その隙に攻撃力の高い兵士が攻撃する。そんなことを何回も何回も何回も繰り返して犠牲者が3桁になった頃にようやく殺せる。そんな存在だ。



 私は兵士の犠牲を少しでも減らすためオーガを積極的に狩り続けていた。殺せば兵士の犠牲を減らせる。複数体のオーガを同時に相手取るのは私でも少し骨だが幸い今回はまだ軍団長が前線に出てきていない。


 相手が舐めプしてくれている内に出来るだけ減らそう。軍団長が出てきたらオーガの相手をする余裕なんてない。私はシオンと二人でオーガを狩り続けていた。






・・・・・・・・・・






 本当に今日は数が多い。オーガを五十匹ほど屠っただろうか。それでもまだ何匹もいる。普段の十倍はいたな。少しだけ疲れが出てきた。私もシオンも息が少しだけ上がっている。味方の犠牲を減らすために殺すのも大切だが、休むことも大切だ。余裕がなければ思わぬミスをして死ぬ。目の前の3匹いるオーガを殺したら少し休もう。そう思っていた時だ、ふと嫌な気配がした。




 カヒュッ




 真後ろからそんな音がした。嫌な気配を感じ、横に飛びながら振り返って見たものは胸を軍団長が手に持つ刃で貫かれたシオンの姿だった。刃は素早く引き抜かれシオンはそのまま力なく倒れていった。




 自分の頭の筋が切れた音がした。


 衛生兵にシオンを治療するよう指示したことだけはよく覚えている。その後は夢見心地だった。私は何故か雄叫びを上げつつ目の前の敵を殺すために飛びかかっていた。




 当然、返り討ちにあったよ。



 先ずは子宮を何度も何度も後遺症が残るようにぐちゃぐちゃに貫かれた。まあ、私の子宮なんて使う予定も無いし、仮に使われたとしたら私みたいな存在から産まれた存在など不幸でしかない。つまり使う予定など金輪際ない。失ってもなんの問題もない部位だ。そんなことよりも目の前の敵を殺さないとな。



 ああ、何を失っても殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。

 

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