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勇者編⑧ お見合い


 「王様、私もこの世界に来て四年が経ち年頃になりました。素敵な彼氏が欲しいのです。どなたか素敵な相手を紹介してください」



 「・・・・・・・・・うむ」



 王様はいつものごとく玉座に座っていたが、心なしか傾いていた。




・・・・・・・・・・




 あれから私は酷い目にあっていた。この世界に来て手にした大切な癒やしの時間を奪われていたのだ。私の勇者としての特権が奪われていた。早急にこの状況をどうにかする必要があった。



 端的に言うと私はあれ以来シオンに避けられ続けていた。




・・・・・・・・・・




 「今後は別々に寝ましょうか」


 「・・・・・・うん?」



 今まではほぼ毎晩一緒に寝ていたんだ。それは私の大切な大切な癒やしの時間だった。シオンのおっぱいに顔を埋めながら寝るのは至福の時間だった。



 だが、それはもう喪われてしまった。隠者の口車に乗ってベッドの上でノリノリに愉しんでいる瞬間を目撃された結果、私はシオンに性的に手を出されないか警戒されるようになった。


 いつものように抱きつこうとした瞬間、サッと避けられたのだ。ショックだった。あの糞隠者への殺意が湧いた。機を見て殺しに行くとしよう。


 誤解だと弁明したが聞いて貰えなかった。あれ以来私はシオンとは別々の部屋で眠ることになった。その夜は泣いた。むしろしばらく夜は泣いて過ごした。


 私は一時の快楽の代償にシオンと同衾出来る特権を喪ったのだ。私はどうにか元通りの関係に戻れないか毎晩毎夜考えていた。その結果、私は王様に相談することにしたのだ。



 お見合いだ。私が女に興味がなくて男に興味津々なことがわかれば誤解は解けるはずだ。とりあえず王様に頼もう。実際嘘ではないし。


 私に必要なのは都合の良い当て馬だ。誤解を解く期間だけ付き合ってくれる当て馬が必要だ。この際男なら何でもいい。とりあえず一定期間付き合ってシオンの誤解を解いた後は用済みだ。


 その時点で不要ならばボロ雑巾のように捨ててしまえばいい。何なら付き合っている間だけセ○レになったって構わない。なんせ私は美少女だからな。こんな美少女がヤラせてあげるんだ。いくらでも希望者はいるだろうさ。さて、王様に頼んで一週間ほど経つ。そろそろ候補者が列を成している頃だろうさ。いやはやモテる女は大変だよ。




・・・・・・・・・・




 「王様、例の件はどうなっておりますか?」


 「・・・・・・うむ、最近忙しくてな。中々難しいのだ。憐れな生贄を選ぶのにも時間がいる。何分候補者が居らず抵抗も激しくてな。なに、なんとかする。もうしばし待ってほしい」



 「王様、私が求めているのは生贄ではなくてお見合い相手なのですが・・・」


 「・・・・・・うむ、すまない。単なる言い間違いだ。気にしないで欲しい。なんとかしよう。そうだな・・・なんとかしよう」



 私は何やらこの時点で一抹の不安を感じていた。だが、王様は任せろと言ってくれている。私は王様を信じ待つことにした。




・・・・・・・・・・




 「王様、あれからしばらく経ちますがあの件は?」


 「・・・うむ、すまない。お見合い候補が全員急病でな」






 「王様、あれからしばらく経ちますがあの件は?」


 「・・・うむ、すまない。確認だが性別は女でも良いか?それならばなんとかなりそうなのだ」



 「絶対だめです。男でお願いします」


 「・・・・・・うむ」






 「・・・変態でも良いか?」


 「・・・・・・男なら」



 「安心しろ。性別は男だ」


 「・・・・・・お願いします」






・・・・・・・・・・






 「勇者殿とこうしてお話するのは初めてですな、まさか拙者が誰かとお見合い出来るとは思っておりませんでした」


 「・・・はじめまして」




 「巷では糞食いと呼ばれております。本名はクソガー=ブリガンドと申します。以後よしなに」


 「・・・はい」



 「勇者殿もご存知の通り我が国の食料事情は厳しい。拙者は考えたのです。糞を食えばいいんじゃないか?とね」


 「・・・はい」



 「これが意外と美味しくてね。中々味がある。珍味ですな。何より素晴らしいことは拙者が糞を食うことで餓死する国民が減ることです」


 「・・・立派な志ですね」



 「いやはや、それほど大したことではありませんよ。肝心なのは最初の一歩ですな。勇者殿の評判は聞いております。何でもゴブリンの肉を食べたとか。その話を聞いたときに思いましたよ。勇者殿とは仲良く出来るんじゃないか?とね」



 「・・・」


 「勇者殿、ゴブリンの肉がイケるなら。糞も食えましょう。拙者は勇者殿のような方をずっと探しておりました。年の差はありますが大切なのは心が繋がっていることでありましょう」



 「・・・」


「貴女に会えて拙者は心より嬉しく思っております。姿も美しいが何より心が美しい。お受け取りください。今朝採れた最高の一品です」



 差し出された豪華な箱を受け取った私は嫌な予感を感じつつも箱を開けた。中にはとぐろを巻いた茶色のブツが入っていた。意外と臭いはしなかった。


 私は蓋を閉じ、目の前にいる口を開くたびに独特の臭いがする男を容赦なく蹴り飛ばした。






 お見合いは失敗だった。男ならなんでもいいと甘く考えていた私が馬鹿だったよ。


 さすがに食糞趣味の相手は私でも無理だった。



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